雨上がりの休日(2)
僕は脱力状態のファリスちゃんと別れた。
あれだけ溜めていたものを放出すれば疲れるに決まっている。
それにしても僕自身、女性に何か物を贈るというのは初めてだったから不安はあったけど彼女が、かんざしを喜んでくれてよかった。
アリカさんにも、お世話になってるから何かプレゼントを考えよう。
ということで昼を過ぎても僕の露天商まわりは終わっていなかった。
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アリカさんには何が似合うんだろうか?
この町に来てから僕が一番仲良くしているであろう彼女は、いつもクールで口数が少ない。
趣味がどうとか好きなものは何かとかの会話はしたこのがなかった。
ファリスちゃんへのプレゼントは直感的に選んだけど、アリカさんへのプレゼントは全く思い浮かばなない。
「そういえば、掃除が好きって言ってたかもしれない」
アリカさんの家はとても綺麗で、ある日そのことを言ったら"掃除好き"であるということを明かした。
「でも掃除用具をプレゼントするっていうのはなぁ」
女性への贈り物としては少し間違っている気がする。
そんな考えをしながら露天商を見て回っていると、何やら前の人混みが縦に割れていく。
みんな、誰かを避けるようにして綺麗に両端へと分かれた。
道のど真ん中を歩いてきたのは、黒いストレートヘアの女性だった。
青を基調とした学生が着るようなブレザー制服。
上はジャケット、下はチェック柄のもも丈スカートで左手には細剣が握られている。
「あれは……」
見覚えがあった。
少し前に冒険者ギルドで見た女性だ。
年は18歳くらいかな?
肌が雪のように白くて、顔立ちは清楚系でありながらクールビューティーといった印象。
確か"ランジェリカ・リリー"さん……だったかな?
ランジェリカさんの後ろには従者らしき2人組もいた。
ピッチリした真っ白なフードローブと鉄の杖を持った若い女性だ。
恐らく彼女の騎士団の団員なのだろう。
どう見ても近づきがたい雰囲気なので僕も他の大衆に混じって端に寄る。
やっぱり住む世界が違う感じだな。
ランジェリカさんが目の前を通る寸前のこと子供が1人、駆け抜けた。
すると子供が踏んだ水溜りの泥が偶然にもランジェリカが穿くスカートとブーツの間へと飛ぶ。
もちろんそこは雪のように白い肌。
ちょうど太ももの辺りに少し泥がついた。
その瞬間、ランジェリカさんの後ろにいた従者の1人が子供を鉄の杖で打って倒した。
「貴様!!ランジェリカ様になんてことを!!」
あまりにも突然のことに皆がどよめく。
子供は泣きながら立ちあがろうとするが、従者はそれを許さなかった。
鉄の杖の先で子供の体を押さえ込んでいる。
一方、ランジェリカさんは顔を赤くして震えていた。
怒りなのか、はたまた他の違う感情なのか読み取れぬ表情だ。
でも、そんなことより僕は子供のことが心配だった。
ここで動かなかったら、あの子供がどうなるかわからない。
そう、この時、"僕の左手が疼いた"のだ。
僕は走って子供へと駆け寄って、手で鉄の杖を払いのける。
「ただ泥が飛んだだけでしょう、それなのに酷いですよ!」
「なんだと……貴様、よほど首を刎ねられたいようだな」
「え……」
「ランジェリカ様は伯爵家の御令嬢だ。この方に逆らうということは、そういうことだ!」
「ぼ、僕はただ、やり過ぎではないか……という話をしているだけで」
「それが逆らっていると言うのだ。冒険者風情が生意気な……」
従者の女性が止まった。
視線は僕の"左手の甲"へ。
そして眉を顰めて震えるような声で言った。
「ゆ、勇者候補……しかも"黒竜"だと……ガルサス大団長ですら"白狼"なのに……」
この言葉には顔を赤くして停止していたランジェリカさんも反応して僕へと視線を向けた。
数秒だけ凝視してから、
「もういい、行きましょう。野良の勇者候補には関わってはならない」
と言って立ち去ろうとした。
僕は何を言っているのかさっぱりわからなかったが、これでは納得できない。
いくら相手が高位の貴族だろうと、やっていいことと悪いことはある。
「ちょっと待って下さい。この子に謝って欲しい」
「なんだと!?ランジェリカ様が許して下さると言っているのにまだそんな口を!」
「僕は許して欲しいなんて言ってません。この子がしたことと、あなた達がやったことが比例していないと言ってるんです」
「訳もわからん話をしおって……やはり、ここで首を……」
「なんで、ここまで話してわかってくれないのか……なら仕方ないですね」
僕はランジェリカさんの背を睨みつける。
そして、"あの言葉"を彼女に向けて放った。
「『従属』……ランジェリカさん、その従者の方に謝らせて下さい」
「……」
ランジェリカさんは徐に振り向き、無表情でこちらへと近づく。
彼女の行動に従者たちは目を丸くしていた。
「ランジェリカ様……?」
その瞬間、ランジェリカさんはスカートの端をつまんでめくり上げるとその場に正座する。
……いや、さらに足を広げて"女の子座り"をした。
そのまま、ゆっくりと丁寧に腰を動かし、地面の泥を純白のショーツと擦り合わせて染み込ませる。
徐々に汚れるショーツを見つめる彼女の表情は次第にとろけ始め、最後には満足そうに笑みをこぼして甘い吐息を漏らした。
唖然として見ていた僕はすぐに口を開く。
「あ、あの、従者の方に謝って頂ければそれでいいので……」
「……いえいえ、私の部下の粗相は、主である私の責任でございます」
そう言うランジェリカさんはやはり腰を振り続ける。
もはや純白のショーツと雪のように白い太ももは泥に塗れていた。
「私の従者が……無礼を働いて……大変、申し訳ありませんでした……」
彼女の頭は勢いよく水溜りにダイブした。
その光景を見ていた大衆の顔は引き攣る。
それは完全に軽蔑の眼差しだ。
ようやく従者の2人が動き、ランジェリカさんに駆け寄って彼女を起こす。
「お、おやめください!!」
「ランジェリカ様!!こんなことをしたら、また縁談が破談になります!!」
言われているランジェリカさんの顔は泥パック状態だ。
それもお構いなしに彼女は叫んだ。
「いや、こんなもので済む問題ではない!!私はこの泥水を飲み干して謝罪するのだぁぁぁぁぁ!!」
彼女は従者に羽交締めにされながら暴れている。
その表情はどう見てもニヤついていた。
多分、今のランジェリカさんは泥水を飲みたくて仕方ないのだ。
僕はそんなランジェリカさんの姿を見て呟いていた。
「ランジェリカさんって、とても可愛いですね」
「……え?」
ランジェリカさんは止まった。
そして無表情(泥パック状態なのでよくわらないが)で僕を見つめた。
そんな彼女に対して僕は続ける。
「こんな綺麗で可愛い女性との結婚を断るなんて男の方がおかしいですよ」
「わ、私が……こんな私が……綺麗で可愛い?」
「ええ。とっても。僕なら絶対に放っておきません」
そう言い切ると彼女は顔を赤らめた(泥パック状態なので薄っすらとしか見えないが)
「私は……私は……一体、何を……やっていたんだ……?」
我に返ったランジェリカさんは自分の体をゆっくりと確認した。
両手についた泥、ショーツから染み込んだ泥水、顔を触って軽く泥パックを落とす。
「あ、あ、あ、あ……」
彼女は口を半開きにしながら、その場で気絶した。
従者2人はランジェリカさんを抱えると、すぐにその場を去っていった。
痛めつけられた子供を見ると、痛み以上の衝撃によってドン引きしている様子だった。
「一件落着……?」
そう呟いた瞬間、
【レベルが上がりました】
どこからともなく聞こえる声。
そして激痛が走る左手。
今回も、いつも通り……ではなかった。
僕は突然、睡魔に襲われる。
どうにも自分の力では抗えないほどの眠気だった。
そして僕はランジェリカさんと同じように、この場で意識を失った。




