追放のレイン・レディ
雨の早朝。
道のど真ん中には僕とディアナ。
そして、たった今、パーティー追放された"女冒険者"がいた。
水色の短い髪、首元にはチョーカー、白いブラウスに皮の胸当て、青のホットパンツに茶色のロングブーツを履いた女性だ。
自らを勇者候補と名乗り、さらにスキルまで明かした。
彼女の紋章は『黒亀』。
スキルは『雨女』という、ただ雨を降らせるだけの能力らしい。
しかし、"雨男"は聞くけど"雨女"ってあまり聞かない気がするな。
もしかして、このところ降り続く雨って彼女のせいだったの?
「雨が降るって無意識なんですか?」
僕が一番、気になっていることだ。
オンオフの切り替えができないと厄介だぞ。
「はい……完全に無意識です」
「それは大変だ」
「どこに行っても雨なので、いつもパーティーから追い出されてしまって」
「でも、雨くらいで……」
「戦闘が始まると興奮によるものなのか大雨になるので、他のメンバーの戦いを邪魔してしまうんです」
「確かにそれだと気が散るよなぁ」
「だから、なんの役にも立たないゴミスキルなんですよ」
そう言って苦笑い……。
まぁ、どこか干ばつの地域に行ったら重宝されそうなスキルではある。
いや、むしろ神として崇められるのではないだろうか?
「村のみんなからは期待されて送り出してもらっても、この有様……もうこうなったら、みんなの迷惑にならない、どこか遠いところで一人で暮らそうかと思ってます」
「それは本当の気持ちなんですか?」
「え?」
「それが本音であれば僕はここを去りますけど、そうでないのであれば見過ごせない」
「そう……言われても……」
「『従属』。本当はどうしたいんですか?」
「私は……仲間と一緒に……旅がしたい……誰かの……役に立ちたい」
「なら、僕と一緒に行きませんか?」
「私なんかが……大丈夫でしょうか?」
「はい。僕はシオンです。こっちはディアナさん。あなたのお名前は?」
「私は"グレシア"です」
「グレシアさん。素敵な名前ですね」
「ありがとう」
トロリとした眼差しは焦点が合っていない。
グレシアさんは完全に従属状態にある。
彼女の幸せが仲間と一緒に冒険して、みんなの役に立ちたいというのであれば、その願いを叶えてあげたい。
「じゃあ早速、パーティーを組んで討伐クエストを受けましょうか」
「はい、よろしくお願いします」
「こちらこそ」
僕らは未だに降り続く雨の中、冒険者ギルドへと向かった。
_______________
冒険者ギルドは木造の三階建だった。
やはり東部中央というだけあって大きさが桁違いだ。
僕はウェスタン風の両扉を開けてギルドに入った。
内部は他のギルドとあまり変わらず。
奥には受付カウンター、左側には依頼書が貼られた掲示板、右側は雑談スペースとしてテーブルのスツールが置かれていた。
僕らが入った瞬間、受付カウンターの方で声を荒げている男性がいた。
どうやら受付嬢に対して怒鳴っているようで、ギルド内は騒然としている。
「どうして依頼書を貼り出してくれないんだ!!」
「そう言われましても、最近はその事件は起こってないですから……」
「俺の娘は失踪したままなんだぞ!!」
「心中お察ししますが、それは騎士団に頼んだ方がよろしいかと思いますよ」
「騎士団が動かないから、こうして冒険者ギルドに来てるんだろう!!」
「そう言われましても……」
「もういい!」
男性は受付カウンターから離れ、僕たちを通りすぎるとギルドの入り口の扉を勢いよく開けて去っていった。
「今のはなんだ……?」
「随分と殺気立ってましたね」
僕とディアナが困惑していると、グレシアさんが静かに口を開く。
「この町の南西地区、貧民街で頻繁に起こっていた"連続失踪事件"のことだと思います」
「連続失踪事件?」
最初の町でも冒険者行方不明事件ってのがあった。
この町では住民が消えてるのか。
随分と物騒な世界だよなぁ。
「ちょっと待って、"起こっていた"って今は無いの?」
「はい。私がこの町に来てからは、そんな話は聞かないです」
「頻繁にあったのに?」
「はい。なぜかパッタリと止んだみたいで……」
「なんでだろう?」
「何でですかね」
ということは事件を起こしていた犯人は犯行をやめたってことかな?
犯人が町からいなくなったのか、犯人は何らかの原因によって犯行ができなくなったのかはわからない。
「まぁ、でも事件が止まったならよかった。あとは失踪した人たちが見つかるといいけど」
「そうですね」
「とりあえず、気を取り直して仕事を受けよう」
僕たちは受付カウンターへと進む。
久しぶりのギルドでの仕事で胸の高鳴りを抑えきれない。
自分でもわかるくらい口元が緩んだ状態で僕は受付嬢の前に立った。




