クエストクリアと記憶喪失
天候は曇り空が一転して快晴となる。
それは恐らく、この場所が影響しているのだろう。
"荒野の迷宮"
どこもかしこも同じ見た目で、一体、どこを歩いているのかサッパリわからなくなるという"サ終MMORPGフィールド"。
ここは大陸三賢者ズワーン・ディルマが作り出した【魔法の空間】なのだ。
だから天候も一定で昼も夜もない。
魔物だけを閉じ込めて『土の巨兵』で葬り去るという恐怖の荒地である。
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イディオが御者を務める荷馬車は自然とズワーンさんの住む(?)平家に辿り着いた。
家の前には1人の老人の姿があった。
長い白髪と白髭で顔が見えず、カーキ色のローブを着る。
竜を模ったような大きな杖を持った老人。
"大陸三賢者ズワーン・ディルマ"だ。
僕らは荷馬車を降りて彼の前に立つ。
ズワーンさんは長い白髭を撫でながら言った。
「随分と遅かったじゃないか。来ないかと思ったぞ」
「僕がいた町が魔物に襲われてしまって……」
「別になんだっていい。ワシには関係ないことだ」
「はぁ……」
セシルとディアナの殺気が伝わるぞ。
だけど何も言わないところを見ると、僕の顔を立ててくれているのだろう。
「治せるのか?」
「はい。大丈夫だと思います」
「ならば、さっさとやってくれ。もうアレは虫の息じゃ」
「はい」
僕らはズワーンさんの家に入った。
もちろん案内されたのは、"このクエストのメインキャラクター"が横たわる寝室だ。
包帯が全身に巻かれた謎の人物。
体が焼け爛れていて、包帯の間から真っ黒な瘴気のようなもを放っている。
ゴクリと息を呑む。
皆の視線が僕に集まってきるのがわかるぞ。
人生でこれほど注目されたことがあっただろうか?
セシル、ディアナ、イディオ、ズワーンさんが見守る中、僕は前に出る。
「よし……『付与』・『治癒』」
僕は軽く謎の人物に触れる。
すると体が緑色に発光し、黒ずんだ肌が徐々に白くなっていく。
「……え?」
謎の人物が再生していくと、みるみる胸元が膨らみスレンダーな体格になっていった。
「お、女の人だったの!?」
目を覚ました"彼女"は震える手で顔を覆った包帯を取る。
「綺麗だ……」
思わず声が出た。
年齢は20歳ほど。
長い金色の髪に雪のような白い肌。
包帯では押さえきれないほどの豊満な胸、背は高くないがモデルかというほどスタイルがいい。
その容姿は"絶世の美女"と言っても差し支えないだろう。
いや、そんなことより問題は……、
「この人、誰?」
「わからん」
「知りませんね」
「知らないっすね」
「ボクも見たことはないです」
ズワーンさん、セシル、ディアナ、イディオ、僕を含め、誰1人として、この女性のことがわからなかった。
もうこれは本人に聞くしかない。
「あなたは誰ですか?」
「……私は」
目を細めながら口を開く金髪の若い女性。
「私は……誰?」
「え?」
「何も思い出せない……」
まさかの記憶喪失。
記憶喪失は勇者スキルの『治癒』でも治せないのか。
僕の困惑をよそにセシルが言った。
「まぁ、でも治ったことには変わりはないですから。これで町に入ってもいいでしょ?」
「いいだろう。この女性はワシが面倒を見るとしよう。そのうち何か思い出すだろうからな」
「結構。ならば町への道を教えて頂きたい」
「簡単じゃよ。この家を出て真っ直ぐ進めば町に入れる」
「では主人様、参りましょうか」
「う、うん」
こうして僕はズワーンさんのクエストをクリアすることができた。
だけど結局のところ謎の人物は『とても綺麗な若い女性』だということがわかっただけで謎の人物であることには変わりはなかった。
素性は気になるけど僕には関係なさそうだ。
今はこの女性のことよりも町に入ることが最優先である。
僕らはズワーンさんに別れを告げ、再び荷馬車に乗り込んで町を目指した。




