東部中央へ出発・当日(2)
雲無き快晴の昼下がり。
昨日の雨の影響なのか湿気を含んだ風がゆっくりと吹いている。
そんな中、僕は町の入り口にいた。
大きな荷馬車が用意されていて出発目前だ。
見送りにはイヴとランジェリカさん、サラさん、マルタさん。
そしてイヴ率いる女性自警団がいる。
『いってらっしゃいませ。主人様』
全身に漆黒の鎧を纏ったイヴが頭を下げる。
すると女性自警団も、それに一斉に習った。
「やっぱりイヴは来ないのか……」
ボソリと呟いたのは、僕の後ろにいるディアナだ。
ランジェリカさんが前に出て、僕に頭を下げる。
「私も数日後、シオン様を追わせて頂きます」
「うん。サラさん、マルタさん、護衛をよろしく頼むよ」
僕が言うとサラさんとマルタさんは頭を下げた。
マルタさんはもう護衛隊長として貫禄があるね。
今日は贈呈した"真っ赤な下着"をつけてきているに違いない。
「ああ、そうだ。ランジェリカさんに紹介したい人がいるんだった」
「え?」
「イディオ、こっちへ」
イディオと呼ばれた人物は荷馬車の積み込み作業をやめて、こちらに近づいて来る。
「仮面……?」
それは口元だけが空いた鹿の頭を模った鉄仮面を着け、真っ赤なコートのようなジャケットスーツと白のパンツを履いた人物。
口元には真っ赤な紅。
細身でスタイルがよく、腰にレイピアを差す。
「ランジェリカさんに挨拶を」
「はい」
声を聞いてランジェリカさんが眉を顰めた。
その体型からは想像できないほどの低い声だったからだろう。
「奥様、初めまして。イディオ・イレイザーと申します。以後お見知りおきを」
「お、奥様……」
ランジェリカさんが顔を赤らめた。
まだ婚約段階だから"奥様"ではないんだけど。
「あなた、その格好と名前……もしかして貴族?」
「田舎の弱小貴族ではありますが、何年か前まではそうでした」
「何年か前まで?」
「顔が焼け爛れておりまして。それが原因で家を追い出されました」
「なんて酷い……」
「ですが、おかげで主人様に拾っていただけましたので。ここがボクの居場所のようです」
「シオン様はお優しい方なので大丈夫。イディオ、何かあれば私も力になります」
「お心遣い感謝致します。このイディオ、主人様は命にかえてもお守りします」
「よろしくお願いね」
「はい」
そう言ってイディオは深々とお辞儀し、荷馬車の方へと戻っていく。
そんなイディオをランジェリカさんは眉を顰めながら目で追っていた。
多分、彼女が感じたのは"ギャップ"だろう。
イディオは声と振る舞いは男性だが、見た目が女性だから。
「じゃあ、出発しようか。イヴさん、あとはよろしくね」
『はい!今度こそ町を守り切ってみせます!』
「期待してるね。あと例の施設の件も進めておいて」
『このイヴ・ガルハートにお任せを!』
イヴと女自警団は再び頭を下げる。
「ランジェリカさん、また数日後に」
「はい。お気をつけて、いってらっしゃいませ」
「うん」
僕が言うと彼女は顔を赤らめながら頷く。
昨日の語り合いのおかげで、かなり距離が縮まった気がするな。
こうして僕とセシル、ディアナ、そしてイディオの4人で再び東部中央の荒野の迷宮を目指すことになった。
夜は何度かある。
セシルに用意させた【例のモノ】で、しっかりディアナを"女の子"にしてあげなきゃな。
今から日が落ちるのが待ち遠しい。




