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東部中央へ出発・前日

東部中央への出発前日。

この日は夜から小降りの雨で肌寒さがある。


「雨を見ると彼女との出会いを思い出すなぁ」


それは雨上がりの休日。

高嶺の花だと思われた女騎士ランジェリカ・リリーとの出会いだ。


伯爵令嬢である彼女とは住む世界が違うと思っていたけど、今や僕の婚約者。


「本当にランジェリカさんは僕でいいのかな?」


実は好きな人とかいたんじゃないか……なんてことは何度も考えた。


でも、恐らく弟の"ラジェクス"とかいうヤツに邪魔されたんだろうなぁ。

そう考えると悲しくなる。


ランジェリカさんには絶対に幸せになってもらいたい。


そう思ったら僕は途端に会いたくなって、自然に彼女の部屋のドアをノックしていた。


__________



ドア越しに女性の声がする。


「はい」


少し素っ気なさがある返事だ。

もしかして僕だと思ってない?

そう考えるのは自意識過剰な気もするけど。


僕がドアを開けると、そこにいたのは長い黒髪で透き通るような白い肌の可憐な女性、ランジェリカさん。


「シ、シオン様!?」


「あれ、ランジェリカさん、一人?」


見るとランジェリカさんは下着姿だった。


いつもランジェリカさんのそばを離れないサラさんも、護衛のマルタさんもそこにはい。


「も、申し訳ありません!すぐに服を……」


「そのままで大丈夫だよ。その下着、綺麗だね」


顔を赤らめ、ベッド近くに立つ彼女はどうやら着替えの最中だったようだ。


ちなみに下着の色は水色。

ブラは両胸、花束のような刺繍がしてあって、真ん中に可愛らしいリボン。

ショーツは腰の辺りに大きめの花の飾りと、その花びらが散ったような刺繍がしてあって美しい。


ブラとショーツで可愛らしさと大人っぽさの2つの要素が演出してあるランジェリーだ。


「か、かしこまりました……シオン様、本日はどういった御用件で……?」


「用件とかは特に無いんだ。ランジェリカさんに会いたくて来たんだけど、もしかして邪魔だったかな?」


「いえ!そんなことはありません!」


この言葉が僕に嫌われないために言ったのか、会いに来たことが嬉しかったからなのかは正直わからない。


「それならいいんだけど。サラさんとマルタさんは?」


「ああ……どちらも、いつも私から離れないので、少し一人になりたいと言ったのです」


「そうだったのか。ごめん、僕も出ていくよ」


「いえ!シオン様となら一緒でも大丈夫です!」


「ランジェリカさん、無理してない?」


「え……?」


「なんか様子がおかしいからさ」


僕が言うとランジェリカさんは悲しげな表情で俯く。


「私は……不安なのです」


「不安?」


「はい。もしシオン様との婚約が無くなれば、私はもうこの世に存在している意味などない」


「なんで婚約が無くなると?」


「何度も経験していますから……」


"縁談の破談"の話か。

そういえば何度、縁談が破談になったのかって聞いてないな。

さすがに本人には聞けないけど。


「僕が婚約を破棄すると思ってるんですか?」


「いえ……そのようなことは……」


そう言ってから、すぐにハッとしてランジェリカさんは焦った様子で続けた。


「も、申し訳ありません!私はシオン様を疑うような真似を……」


僕は部屋の中へ歩みを進める。

するとランジェリカさんは"何かの罰を受ける"と感じ取ったのか目を閉じて震えた。


そんな下着姿の彼女の体をそっと抱き寄せて、優しく頭を撫でる。

背丈が足りないから、ちょっと背伸びになってカッコ悪いけど。


「ランジェリカさんは何も心配しなくていいよ。僕は絶対に婚約破棄なんてしないからさ」


「シオン様……」


「ランジェリカさんさえよかったらだけどね。もし他に好きな人がいるなら僕は全力で応援する」


「私は……シオン様が……シオン様のことが……好きです」


「え?本当に?」


「はい……」


「でも、僕って……」


"小汚い平民だし'"と言いかけてやめた。

もしかして、()()()()()()()()()

彼女は()()()が好きだったな。


もしかして汚い平民の僕のことが好きってことか……。


そう思ったけど、ランジェリカさんの口から語られたことは少し違った。


「初めて出会った時から気になっておりました。あの雨上がり日、汚らしい私を『とても可愛い』と言って下さった」


「ああ……あれは……」


成り行きとはいえ、僕がスキルを使ったのが原因でもある。

もしかして、あれのせいで縁談が破談になったりしてないよな……。


「それに『こんな綺麗で可愛い女性との結婚を断るなんて男の方がおかしい』とも言って下さった。それがとても嬉しくて……あれからシオン様のことを片時も忘れたことはありません」


そんなことも言ったなぁ。

このセリフからすれば"縁談を破棄した相手の男のせい"だから僕は悪くは無いはず。

まぁ、自分の言った言葉で自分を擁護するというのはどうかとは思うけど。


「ですから、私はシオン様との縁談が無くなることを恐れているのです……こんな私を罰してください……」


「罰なんてとんでもない。人間だから不安になるのも当然だよ」


「シオン様……」


「僕はランジェリカさんを幸せにしたい。僕でよければずっと一緒にいよう」


「はい、喜んで」


僕らは抱き合いながら、無言で見つめ合う。

彼女の表情は穏やかで赤らみ、目に涙を浮かべていた。


サラさんやマルタさんがいない時に来れてよかった。

従者の前では気丈に振る舞わなければ、(あるじ)としての品格を失う。


決して強いわけではない。

でも強くあらなければならないという張り詰めた中での生活が苦しかったんだ。


だから1人になりたかったのかもしれない。


「もし、僕にできることがあれば遠慮なく言ってね。ランジェリカさんのために頑張るからさ」


「……では、ひとつ」


言いつつ、恥ずかしそうに視線を逸らす。


「シオン様から……"愛している"と言って頂きたいです」


「うん。いいよ」


僕は再び彼女を抱きしめて、


「愛してるよ、ランジェリカ」


そう呟いた。


「ああ……シオン様……私も愛しております。ずっと一緒にいたい」


「もちろん、ずっと一緒だよ。だって僕らは夫婦なんだからさ」


「嬉しい……」


彼女も僕を抱きしめ返す。


胸が"ジーン"とした。

これが"恋"ってやつなのかな。

多分、ランジェリカさんも同じ感覚だと思う。


僕らの仲は前よりも縮まった気がした。


結婚するんだから、お互いが幸せを実感できなければいけない。

そう言う意味では今の僕らって、とてもいい感じなのではないだろうか?


あとはランジェリカさんの家柄問題を解決することだな。

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