東部中央へ出発・二日前
窓からは朝日が差し込み、涼しい風がカーテンを揺らしている。
ベッドの上。
目覚めると僕の隣には長い赤髪の女性が気持ち良さそうに眠っていた。
魔神イヴ・ガルハート。
元魔王軍の女幹部。
これから東部中央へ向かうと、少しの間は彼女には会えなくなる。
だから僕から誘って夜を共にしたのだ。
だけど一晩だけだと物足りないね。
「もうちょっと堪能しようかな」
昨日の夜は何時間も体を重ねあったのに、まだまだ満足できていない。
「さてと……」
僕は寝ている彼女の唇にそっと口づけして、肉体同士を擦り合わせる。
「ああ……主人様……」
もう起こしちゃったな。
でも、もう止まらないぞ。
僕とイヴは何回目かの"愛の行為"におよんだ。
その最中、不謹慎にも町の復興に関わる重要な事を思い出してしまう。
「ああ、そうだ、イヴさんに頼みたいことがあるんだった」
「は、はい……どのような……ことを……」
「町に"新しい施設"を作ろうと思っていてさ。僕がいない間、イヴさんに建設責任者をお願いしようと思うんだ」
「か、かしこまりましたぁ……ん……こ、このイヴ・ガルハートぉ……必ずや、主人様のお役に立ってぇ……見せますぅ……ん……」
息を荒げ、甘い吐息を漏らしながら言った。
イヴの顔はもうトロけている。
今、僕が言ったこと、ちゃんと伝わったかな?
もしかして記憶無いかもしれないぞ。
「イヴさん、よろしくね」
「はいぃ……よろこんでぇ……」
まぁ、でもイヴは僕のためなら命すら惜しまない忠実な部下だ。
今は白目剥いてるけど、恐らく覚えてると思う。
だけど気になるのはランジェリカさんの夢。
"白狼の最愛の娘を殺した"
それが赤髪の魔神イヴ・ガルハートであるなら
、僕らは間違いなく白狼ガルサス・ロードギアに睨まれるだろう。
以前、セシルが言ったように"白狼との戦い"は避けられないのかもしれない。
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エヌス・ヤタの町は2度目の復興作業に入る。
第二総魔将ダレンツォ・ダーク・グリトニアスの使い魔の襲撃から1週間ほど経過し、住民の生活もだいぶ落ち着いた。
前回とは違い、住民たちも自ら進んで復興に協力してくれていることで家屋修復の作業はとても捗っていた。
ようやく商人や冒険者たちの出入りも見られるようになったが、一番の朗報といえば……、
「おお、前よりも綺麗な店になってる」
そこは壊れたアヴァロ魔鉱石がある中央広場。
近くに佇む、一軒の華やかな店に行列ができている。
"新装開店トワイライト・ブルー"だ。
セシル・アクアリュウムが経営するランジェリーショップで町内外のあらゆる階層の女性に人気の店。
「やっぱり"見た目"って大事だよなぁ」
「テンションが上がりますからね」
「うわ!」
もうすでに隣にいた。
頼むから気配を消して近づかないで欲しい。
青髪ポニーテールで黒いぴっちりローブ、眼鏡の魔神セシル・アクアリュウムだ。
「驚かせて申し訳ありません。"例のもの"ができましたのでご報告をと思いまして」
「随分と早いね。頼んでたのは"下着"だけじゃなかったはずだけど」
「そこはこのセシルですから、仕事は迅速にこなしますよ」
「さすがだね」
「お褒めに預かり光栄です」
「じゃあ、そろそろ出発できるね」
「はい。二日後を予定しております。私たちが先に出発してズワーンの依頼を完了する。ランジェリカさまには後追いしてもらって町で合流します」
僕たちのチームとランジェリカさんのチームを分けるのはセシルの作戦だった。
この町を襲った魔神の使い魔がまたイヴやセシルを狙う可能性がある。
ランジェリカさんは無事に東部中央へと入ってもらいたい。
となれば魔神らとランジェリカさんは一緒に行動しないほうが無難であった。
「町の防衛は大丈夫なの?」
「はい。おおかたイヴのアンデッド兵で対処可能かと。前回のような強力かつ特殊な魔物は稀ですから。いざとなれば私やディアナも即座にこの町に転移できるようにしておきます」
「三人も魔神がいれば大丈夫だね」
「少しディアナは心配ですがね」
「どういうこと?」
「彼女は一人で突っ走る傾向にありますから。それで白狼に捕まってしまった」
「確かにディアナさんの性格って、我が道を行くって感じだよね」
「ええ。主人様の護衛という面では向いていると思いますよ。どちらかといえば、ディアナは一人で戦った方が力を発揮しやすいですので」
「それってスキルと矛盾してない?」
僕が言う"スキル"というのはディアナの『付与』だ。
魔物に自分の強化スキルを付与して一緒に戦うというのが彼女の戦闘スタイル。
それって協調性を必要としていないか?
「ディアナの場合は一緒に戦う者を仲間としては見ていないです。ただ尻を鞭で打って戦わせるだけの存在という認識でしょう」
「なるほど。でも、それだとメインスキルの意味無い気がするけど」
「そうでもないと思いますよ。特に、これから先は」
僕は首を傾げる。
だけど僕がこのセシルの言葉の意味を理解するのに、あまり時間は掛からなかった。




