白銀の暗殺者はダウナー系!?
一体、何度目になるのだろう。
またまた僕は初めての体験をしている。
雷鳴が響き渡る曇り空の下。
円形状に作られた【闘技場】の中央で僕は"新たな魔王軍の女幹部"との出会いを果たしていた。
白銀のボブヘア、こめかみに2本の小さな黒い角。
白のブラウスに黒いフリルのミニスカートの美しい女魔神。
さらに両手にはレザーグローブを身につけていて、武器に"刀"を所持していた。
"ゴスロリ"に"穴あきグローブ"に"刀"!?
厨二病全開の美少女魔神だ。
観客席に座っていた者たちは"魔神"の姿を見た瞬間にパニックになり我先にと逃げ惑う。
まさか、ちょうど試合が始まるって時に"ゴスロリ魔神"が乱入してくるなんて……。
「主人様、下がってください!こいつは危険です!」
僕の前には護衛のディアナがいた。
危険?
まぁ、確かに僕の左手が疼きそうな見た目をしているが……。
焦りからかディアナは全身に雷撃を纏いながら、銀髪の"ゴスロリ魔神"に突っ込む。
しかし、
「『蛇眼』」
そう呟く声が聞こえるとディアナの動きが停止した。
「え?」
「……」
「相変わらず血の気が多いわね……」
ゴスロリ魔神のスキルなのか。
闘技場の中央でディアナは完全に動きが止まっている。
ディアナにトドメを刺すことなく通り過ぎて、僕の方へと近づいてくるゴスロリ魔神。
しかし彼女からは何故か、やる気を感じない。
"ゴスロリ"で"穴あきグローブ"で"刀"を持ってる"ダウナー系"の女幹部か……。
どれだけ設定を詰め込めば気が済むんだ。
いやいや、そんなことを考えてる場合ではない。
もし僕が『従属』と言う前に彼女が敵を停止させるスキルを発動したら詰みだ。
この言葉が相手に聞こえなかった場合もしかり。
「あなたを殺せと命じられている。アーバスラム地方の危険人物、四人のうちの一人……シオン・ブラックドラグーン」
「なぜ僕の名を知ってるんですか?」
「自分が有名になっていることも知らないの?」
無表情で言った。
やっぱり、やる気が全く感じられない。
殺気もなければ構えることもしない。
まさか僕は舐められているのか……?
「では死んで下さい」
「マズイ……」
あの言葉を言わなければ!!
その瞬間、僕の後方、観客席から金色の光がゴスロリ魔神の足元へと向かって飛ぶ。
一本の細いレーザービームのような形状の金色の光は地面に当たって土埃を巻き上げた。
「主人様、魔神の従属を」
振り向いて観客席を見る。
そこには口元だけが空いた鹿の頭を模った鉄仮面を着け、真っ赤なコートのようなジャケットスーツと白のパンツを履いた人物が1人だけいた。
唇には燃えるような真っ赤な紅。
シュッとしたスタイルのいい体つき。
手には短いレイピアが握られ、それを構える。
「イディオ!ナイス!」
僕の御付きの従者イディオだ。
「『従属』!」
未だに砂が舞い上がる方向へと叫ぶ。
これで確実に従属されたはず……。
額から汗が滴る。
もし失敗してたら僕の首が落ちるぞ。
土埃がだんだんと晴れるとゴスロリ魔神が姿を現す。
その表情は……変わってない。
「まさか……『従属』できない!?」
今まで、このスキルで従属できなかった女性はいない。
ここまでかと思われた時、ゴスロリ魔神は片膝をついて跪いた。
「魔王軍、第九総魔将シルバーアサシンの"ローゼス・ローゼルフィア"。非力ながら、あなた様の剣となります」
従属できてる。
あまりにもダウナーすぎてスキルが効いたのかわからなかった。
さらにゴスロリ魔神のローゼスは続けた。
「もし私に殺して欲しい者がいるのであれば仰って下さい。必ず首を持って参ります」
「な、なんという自信……」
「私は暗殺を得意としておりますので」
ゴスロリ、穴あきグローブ、刀使い、ダウナー系、暗殺者、魔王軍女幹部。
もう設定がありすぎてよくわからなくなってきたな。
だけど彼女を従属できたのは心強いぞ。
「じゃあローゼスさん、暗殺をお願いできますか?」
「はい、喜んで」
「……を殺して下さい」
僕は"ある人物"の名を言った。
暗殺なんて非人道的であることは重々承知しているが、この人物にはどうしても死んでもらわないと困るのだ。
それもこれも全てはランジェリカさんの幸せのため。
そして東部侵略というビッグプロジェクトのためであった。




