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契約結婚した妻は最強の護衛騎士でした 〜背が高すぎて敬遠されていた令嬢は、ただ一人の隣で輝く〜  作者: 茉莉花


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第一話:必要なのは名前だけ

 私はリュシエンヌ・ギルメット。伯爵家の長女だ。


 本日、アルナルディ公爵家へ嫁いだ。


 しかし、そんな私の目の前にいるのは、整った身なりの青年と、その後ろに並んだ最低限と思われる使用人たちだった。公爵家だというのに、数が少なすぎないだろうか……。

 さらに公爵邸にしては控えめな佇まいだった。幻の貴公子と異名を持つ彼は、引きこもりだと噂される。目立つことはお好きではないのかもしれない。


 ジェラールと名乗った青年は、この屋敷の家令を務めているという。

 眼鏡をかけ黒髪をきっちり纏め、いかにも仕事が出来そうな男であった。


 ほんの少しだけ見上げた視線の先の彼と目が合った。


「……」


 一瞬の沈黙があったかと思うと、彼はふっと視線をそらした。


(あまり、歓迎されてないのかしら……)


 他のものたちも見回す。皆軽く低頭しているのだろうが、私からは頭頂部しか見えなかった。

公爵様らしき人物も見当たらない。

 唯一視線が合いそうな彼に声をかけた。

「さっそくですがジェラール、私、立ち話は好きではないの。案内してくださる?」

「それは失礼しました。お疲れのところ申し訳ありません。では、こちらへ」


 人気の少ない屋敷は綺麗に整っているものの、どこか物寂しい。

 案内された先は応接室だった。


(いない……)


 ソファに座るが、ジェラールと数人の使用人が控えたまま、他に人が来る気配がなかった。

 誰も主を呼びに行く素振りも見せない。


(まさか……)


 次第に胸がざわめき始める。


 すると、ジェラールがこの場にいる使用人らの紹介を始めた。最小限の人数しかおらず、私は生家から使用人の帯同を許可されなかった。この場で外部の人間は私だけだ。

 他の使用人らは徐々に紹介すると告げられ、肝心の当主であり旦那様、つまり夫となるヴィルジール様のお話になった。


「旦那様はこちらにお見えにはなりません」


 その言葉に、視線を発言者のジェラールに向ける。

 再び胸がざわめきだす。


「その代わりに、こちらを預かっておりますのでお目通しをお願い致します」


 ジェラールが差し出した手紙を受け取る。

 真摯に行動していたはずの彼とは目が合うことはなかった。


 封筒の中には紙が一枚。

 一度大きく呼吸をすると、恐る恐る開いた。

 そこには大まかにこんなことが書かれていた。


 結婚生活を送るつもりはないこと。

 引きこもってくれて構わないこと。

 夫人として、妻としての役割も求めないこと。

 ただ婚姻関係にあってくれさえすればいいこと。

 彼からの愛は望むな、ということ。


 淡々とつづられていた。あまりにも、あっさりとしている。


(ただの申し送りね)


 私は紙をゆっくりとたたむと封筒に戻した。


 つまりは、契約結婚といったところか。それも白い結婚だ。女として以前に人としても必要とされていない。


(私は、──名前だけを必要とされたのね……)


 ほんの少しでも期待していた私が馬鹿だった。


 理解すると、先ほどのざわめきは、さあっと冷めていった。

 私の中で何かが静かに消えていった。まるで最初からなかったかのように、綺麗にさっぱりと。


「承知しました……、とだけ、お伝えください」


 私の声は、こんなに低かっただろうか。


 私の内心を悟られまいと視線を上げ、気丈に振舞う。


「さて、用はこれで終わりでしょう? 休ませてちょうだい。部屋に案内してくれる?」


 すっと立ち上がり歩き始めると、使用人たちが息を呑む気配がした。


 視界になんだか違和感がある。


(……あ、──しまった)


 足元に視線を落とす。


 そこにあるのは、きちんと揃えられたままのヒールだ。


「ごめんなさいね。……足がむくんでしまって、こっそり脱いでいたのを忘れていたわ」


 それらしい言い訳を告げ、さっと履き直す。

 立ち上がった瞬間、視界が少しだけ高くなった。


(ああ、私は隠しようもなく大きいわ)




 部屋に案内されると、浮腫みとりのお茶を用意すると言い、ジェラールは退出した。


 本当は浮腫んでなんかいない。私は馬車の3時間程度の移動、それも公爵邸の広々とした立派な馬車での移動で体調を崩すような柔な作りはしていない。


 背が高いせいで縁談が纏まることもなかった。

 それが、令嬢の私が引きこもることになった原因でもある。


 少しでも公爵様から小さく見られたい。


 ほんの少し残っていた乙女心は無惨にも砕け散った。


 一通り説明を受けるとベッドに横になり、そのまま休む振りをしていたら本当に眠ってしまった。

 この日のために久しぶりに着飾ったドレスはシワシワになってしまうだろう。

 でも、もう身に付ける必要もないだろうから、構わない…。

 どうせ、妻という役割は必要ないのだから。


ここまでお読みいただきありがとうございます!

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