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青春病。  作者: 翠吉
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世界へのスタートライン

練習が始まって一時間ほど経った頃だった。

ガラッ。

体育館の扉が開く。

監督だった。

「集合。」

部員全員が集まる。

神谷先輩も、水谷先輩も、蓮さんもコーチとして輪へ加わった。

監督は一枚の封筒を持っていた。

「練習の前に一つ報告がある。」

全員が監督を見る。

「今年はU18世界大会は開催されない。」

少しだけざわつく。

監督は続けた。

「だが。」

「来年の世界大会へ向けた、日本代表強化指定選手の発表があった。」

体育館の空気が変わる。

「今年一年。」

「選ばれた選手は日本代表強化合宿へ参加し、来年の世界大会代表候補として活動する。」

私は思わず神谷先輩を見る。

監督は封筒を開いた。

「まず。」

「神谷凛太郎。」

「はい。」

神谷先輩は表情一つ変えない。

「選出だ。」

「ありがとうございます。」

短く頭を下げる。

監督は続ける。

「朝倉蓮。」

「はい。」

「選出。」

蓮さんも静かに頭を下げた。

「ありがとうございます。」

部員たちから拍手が起こる。

そして。

監督は少しだけ笑った。

「最後。」

「守屋。」

「……はい?」

守屋先輩だけ返事の声が裏返る。

体育館に笑いが起きた。

「守屋堅護。」

「日本代表強化指定選手。」

「選出。」

数秒。

守屋先輩は固まった。

「……え?」

監督はもう一度言う。

「選ばれた。」

「……。」

「……。」

「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!?」

体育館中に守屋先輩の声が響いた。

「俺っすか!?」

「マジっすか!?」

「ドッキリじゃないですよね!?」

部員全員が笑う。

蓮さんも笑いながら肩を叩く。

「おめでとう。」

水谷先輩も笑う。

「やっと実感したか。」

守屋先輩はまだ信じられない顔だった。

「俺、日本代表!?」

「え?」

「え?」

「マジで?」

神谷先輩が小さくため息をつく。

「守屋。」

「はい!」

「うるさい。」

体育館が笑いに包まれる。

「だって神谷さん!」

「日本代表ですよ!?」

「うるさくもなりますって!」

「俺ですよ!?」

「リベロですよ!?」

「俺ぇぇぇ!?」

岡田先輩が笑う。

「落ち着け。」

「無理!」

杉山先輩も笑う。

「今日一番元気じゃん。」

「当たり前っす!」

「日本代表っすよ!?」

監督も思わず笑った。

「落ち着いたか。」

「……無理です。」

また笑いが起きる。

監督は三人を見る。

「勘違いするな。」

空気が引き締まる。

「これは代表じゃない。」

三人の表情が変わる。

「スタートラインだ。」

「今年一年。」

「強化合宿。」

「代表活動。」

「その全てで評価される。」

「世界大会へ行ける保証なんてない。」

神谷先輩が頷く。

「はい。」

蓮さんも続く。

「はい。」

守屋先輩も真剣な表情へ戻る。

「……はい。」

監督は三人を見渡した。

「なぜ、お前たちが選ばれたのか。」

体育館は静まり返る。

「今から理由を話す。」

監督は最初に神谷先輩を見る。

「神谷。」

「はい。」

「お前は。」

「全国で一番試合を組み立てられるセッターだからだ。」

部員全員が神谷先輩を見る。

「トスの正確さ。」

「判断力。」

「試合中の修正能力。」

「そして。」

「相手を読む力。」

「どれを取っても高校生のレベルじゃない。」

監督は少し笑う。

「インターハイで、お前は全国トップクラスのセッター相手にも一歩も引かなかった。」

「代表スタッフからも。」

『ゲームメイク能力は高校世代最高クラス。』

「そう評価されている。」

神谷先輩は静かに頷いた。

「ありがとうございます。」

監督は蓮さんを見る。

「朝倉。」

「はい。」

「お前は。」

「高さだけじゃない。」

「全国一のブロック相手にも。」

「真っ向から勝負し続けた。」

「怪我を乗り越え。」

「インターハイでは完全復活。」

「最高到達点。」

「打点。」

「決定力。」

「精神力。」

「全てを評価された。」

監督は少しだけ笑う。

「最後の一本。」

「代表スタッフも。」

『あの高さは世界でも武器になる。』

「そう言っていた。」

蓮さんは少し驚いたような表情を見せた。

「……ありがとうございます。」

最後に。

監督は守屋先輩を見る。

「守屋。」

「……はい。」

「お前は。」

「一番驚いてるな。」

体育館に笑いが起きる。

「はい。」

「まだ信じられません。」

監督も笑う。

「だろうな。」

「だが。」

「代表スタッフが一番評価したのは、お前だった。」

守屋先輩が目を丸くする。

「……俺?」

「そうだ。」

「インターハイ。」

「日本一相手に。」

「何本拾った。」

「数えてるか。」

「いや……。」

「俺も覚えてないっす。」

監督は頷く。

「レシーブ技術。」

「反応速度。」

「読み。」

「そして。」

「絶対にボールを落とさない執念。」

「リベロとして必要なものを全部持っている。」

監督は続ける。

「何より。」

「お前は。」

「拾うだけじゃない。」

「一本目で。」

「神谷が一番使いやすい場所へ返している。」

守屋先輩の表情が変わる。

「それが。」

「代表スタッフには一番刺さった。」

「守るだけのリベロじゃない。」

「攻撃を作れるリベロ。」

「そう評価された。」

守屋先輩は静かに俯いた。

「俺……。」

「そんな風に見てもらえてたんすね。」

監督は三人を見渡す。

「だが。」

「代表は。」

「過去で選ばれる場所じゃない。」

「未来で生き残る場所だ。」

「一年後。」

「世界大会へ行ける保証はない。」

「ここから先。」

「もう一段階。」

「いや。」

「二段階。」

「三段階。」

「強くなれ。」

三人は力強く頷いた。

「はい!」

監督は最後に笑う。

「それと。」

「守屋。」

「はい!」

「浮かれるのは今日だけにしろ。」

「明日から。」

「日本代表候補として見る。」

守屋先輩は姿勢を正した。

「……はい。」

少し間を置いて。

「でも今日だけは。」

「家帰ったら親に自慢していいっすか。」

体育館が大きな笑いに包まれた。

蓮さんが肩を叩く。

「好きなだけしろ。」

水谷先輩も笑う。

「お前らしいな。」

神谷先輩は小さく笑って一言だけ。

「おめでとう。」

守屋先輩は照れ臭そうに笑いながら、何度も「ありがとうございます!」と頭を下げていた。

私はその姿を見ながら思う。

インターハイは終わった。

でも。

神谷先輩も。

蓮さんも。

守屋先輩も。

まだまだ前へ進んでいく。

そしてきっと。

この体育館から。

また新しい夢が始まるんだ。

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