3人の選択
コンコン。
「失礼します。」
監督室へ入ると、監督はいつもの椅子に座っていた。
「座れ。」
三人は向かいの椅子へ腰を下ろす。
部屋には静かな空気が流れていた。
監督は三人を見渡す。
「今日は説教じゃない。」
「安心しろ。」
その一言に、水谷が少し笑う。
「まず。」
「一人ずつ話す。」
監督は水谷を見る。
「水谷。」
「はい。」
「外で待ってろ。」
「神谷、蓮。」
「お前らも。」
二人が監督室を出る。
静かな部屋に、水谷と監督だけが残った。
「部長。」
「一年間、お疲れ。」
水谷は少しだけ照れたように笑う。
「ありがとうございます。」
「苦労しただろ。」
「しました。」
「神谷と蓮が言うこと聞かなくて。」
思わず二人で笑う。
「でも。」
「楽しかったです。」
監督は頷く。
「お前が部長だったから。」
「このチームはここまで来られた。」
「全国ベスト八。」
「胸を張れ。」
水谷は静かに頭を下げた。
「ありがとうございます。」
「進路は決めたか。」
「はい。」
「大学へ進学します。」
「バレーも続けます。」
監督は満足そうに笑う。
「そうか。」
「お前ならどこへ行っても信頼される。」
「そのままでいろ。」
「はい。」
「ありがとう。」
水谷は立ち上がる。
「失礼しました。」
入れ替わるように蓮が入ってきた。
「座れ。」
蓮は静かに腰を下ろす。
監督は少し笑った。
「怪我。」
「よく戻ってきたな。」
蓮は少し俯く。
「あの時は。」
「終わったと思いました。」
「でも。」
「みんながいたので。」
監督は頷く。
「最後の一本。」
「お前の人生で一番高く跳んでた。」
蓮の目が少し潤む。
「あれだけで十分だ。」
「胸を張れ。」
「ありがとうございます。」
「進路は。」
「大学です。」
「バレーも続けます。」
「そうだろうな。」
監督は笑う。
「まだ終わる選手じゃない。」
「もっと上へ行け。」
「はい。」
「失礼します。」
蓮が部屋を出る。
扉が閉まり。
数秒後。
神谷が入ってきた。
「失礼します。」
「座れ。」
神谷は静かに座る。
監督は少しだけ神谷を見つめた。
「お前。」
「最後まで。」
「セッターだったな。」
神谷は少し笑う。
「はい。」
「全国でも。」
「トップクラスだった。」
「ありがとうございます。」
「もっと喜べ。」
神谷は少しだけ口元を緩めた。
「十分嬉しいです。」
監督は笑う。
「ほんとに。」
「変わらない奴だ。」
少しだけ沈黙が流れる。
「進路は。」
「大学です。」
「バレーも続けます。」
「そうか。」
監督は深く頷いた。
「まだ。」
「お前のトスを見たい。」
神谷は立ち上がる。
「ありがとうございます。」
「失礼します。」
監督室を出ようとした、その時だった。
「神谷。」
「はい。」
神谷は振り返る。
監督は静かに笑った。
「全国一のセッターだった。」
神谷は少しだけ目を見開く。
「……ありがとうございます。」
それだけ言って部屋を出た。
廊下には水谷と蓮が待っていた。
「終わったか。」
「はい。」
すると監督室の扉が開く。
「三人とも。」
「もう一回入れ。」
三人は顔を見合わせ、再び監督室へ入る。
監督は腕を組んだまま話し始めた。
「インターハイは終わった。」
「全国ベスト八。」
「十分立派な結果だ。」
三人は黙って聞く。
「ここで引退してもいい。」
「誰も責めない。」
静かな空気が流れる。
監督は三人を真っ直ぐ見た。
「だが。」
「春高がある。」
三人の表情が少し変わる。
「春高へ出る意思はあるか。」
誰もすぐには答えなかった。
水谷は静かに目を閉じる。
インターハイで終わる。
そう決めていた。
でも。
あの日。
泣きながら言っていた結衣の言葉が浮かぶ。
『聖明高校男子バレー部は。』
『来年も。』
『必ず全国へ行きます。』
水谷はゆっくり顔を上げた。
「出ます。」
監督は頷く。
蓮も迷わなかった。
「俺も出ます。」
「あの景色を。」
「もう一度見たいです。」
最後に神谷。
静かに息を吐く。
少しだけ笑った。
「まだ。」
「終われません。」
「春高。」
「獲りに行きます。」
監督は三人を見て、大きく頷いた。
「よし。」
「じゃあ。」
「インターハイは終わりだ。」
「ここからは。」
「春高日本一を獲りに行く。」
三人は椅子から立ち上がる。
「はい!!」
監督室に、力強い返事が響いた。




