新学期
夏休みは、あっという間だった。
インターハイが終わり、数日だけ部活も休みになった。
最初は何をしていても、あの最後の一本を思い出した。
テレビを見ても。
買い物へ行っても。
夜、布団へ入っても。
神谷先輩のトス。
蓮さんのスパイク。
守屋先輩が伸ばした右手。
あと二点。
何度も何度も思い出してしまう。
でも。
時間は止まってくれなかった。
窓の外から聞こえていた蝉の声も少しずつ減り。
夕方の風は少しだけ涼しくなっていた。
夏が終わる。
そう思うだけで、少し寂しかった。
そして。
始業式の日。
久しぶりに制服へ袖を通す。
鏡を見る。
少しだけ日焼けした自分が映っていた。
「あっ。」
玄関を出ると、ちょうど葵が待っていた。
「結衣!」
「おはよう。」
「久しぶりー!」
葵は走ってきて私の腕を掴む。
「テレビ見たよ!」
「最後、泣いたんだけど!」
「ありがと。」
少し照れながら笑う。
「学校中大騒ぎだったんだから!」
「ほんと?」
「ほんとほんと!」
二人で笑いながら学校へ向かった。
校門をくぐると、あちこちから声が聞こえる。
「あ、橘!」
「お疲れ!」
「全国ベスト8おめでとう!」
「試合見たよ!」
知らない生徒からまで声を掛けられる。
私はその度に頭を下げた。
体育館には全校生徒が集まっていた。
夏休み明けとは思えないほど賑やかだった空気が、先生の合図で静かになる。
校長先生が壇上へ立つ。
始業式が始まった。
校長先生の話が終わると、一枚の紙を手に取った。
「続いて。」
「表彰を行います。」
体育館が少しざわつく。
「令和○年度全国高等学校総合体育大会。」
「男子バレーボール競技。」
「ベスト八。」
その瞬間。
体育館中から大きな拍手が響いた。
「男子バレーボール部。」
「代表、水谷瞬。」
「前へ。」
水谷先輩が立ち上がる。
一人で壇上へ向かう。
部を代表して表彰状を受け取る姿は、最後まで部長らしかった。
校長先生は水谷先輩と握手を交わす。
「全国ベスト八という素晴らしい成績を収めた男子バレーボール部。」
「皆さん、大きな拍手をお願いします。」
体育館中が拍手に包まれた。
誰一人として負けたチームを見る目ではない。
誇らしそうな拍手だった。
校長先生はゆっくりと言葉を続ける。
「君たちは、本校の誇りです。」
「本当におめでとう。」
水谷先輩は深く頭を下げた。
その姿を見て、私はまた少しだけ目頭が熱くなった。
始業式が終わると、それぞれ教室へ戻る。
教室へ入った瞬間だった。
「結衣ー!!」
葵が勢いよく抱きついてきた。
「お疲れさま!」
「ありがと。」
「もう最後さ!」
「みんなで泣いたんだから!」
周りの女子たちも集まってくる。
「試合すごかった!」
「マネージャーも映ってたよね!」
「最後泣いてた!」
「めっちゃ感動した!」
私は照れ臭くて笑うしかなかった。
担任の先生まで笑いながら言う。
「橘。」
「本当にお疲れさま。」
「はい。」
「胸を張っていい。」
私は小さく頷いた。
その頃。
三年生の教室でも。
「水谷!」
「神谷!」
「蓮!」
「お疲れ!」
「惜しかったな!」
「最高の試合だった!」
「テレビ見たぞ!」
クラスメイトが三人を囲む。
水谷先輩は笑いながら「ありがとう」と返し。
蓮さんは照れ臭そうに頭を掻く。
神谷先輩は少し照れながら短く「ありがとう」と答えていた。
すると。
キーンコーンカーンコーン——。
チャイムの後。
校内放送が流れる。
『三年男子バレーボール部。』
『水谷、神谷、朝倉。』
『至急、監督室まで来てください。』
教室が静かになる。
「呼ばれたな。」
水谷先輩が立ち上がる。
「行くか。」
蓮さんも席を立つ。
神谷先輩も静かに鞄を机へ置いた。
三人は並んで教室を出る。
私は廊下から、その後ろ姿を見つめていた。
三年間。
聖明高校男子バレー部を引っ張り続けた三人の背中。
その背中は、インターハイの時より少しだけ大きく見えた。
三人はそのまま監督室へ向かって歩いていった。




