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青春病。  作者: 翠吉
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誇りを胸に

翌朝。

ホテルを出る頃には、昨日まで降っていた雨もすっかり止んでいた。

誰も大きな声では話さない。

それでも昨日とは違った。

時折、小さな笑い声が聞こえる。

守屋先輩が何かを言って、蓮さんが笑う。

水谷先輩が呆れたように笑って、神谷先輩が小さく口元を緩める。

そんな何気ない時間が、少しだけ嬉しかった。

バスは静かに学校へ向かう。

窓の外には、見慣れた景色が少しずつ増えていく。

「もう着くな。」

誰かが呟いた。

私は胸が少しだけ締め付けられた。

この夏が、本当に終わる。

学校の正門が見えてきた。

その瞬間だった。

「あれ……。」

思わず声が漏れる。

校門の前に、人がいる。

一人や二人じゃない。

制服姿の生徒が何十人も並んでいた。

バスが近付くにつれ、その人数はどんどん増えていく。

一年生。

二年生。

三年生。

運動部も。

文化部も。

夏休みのはずなのに。

たくさんの生徒が校門の前で待っていた。

「おい……。」

守屋先輩も驚いた声を漏らす。

「なんだこれ。」

蓮さんも窓の外を見つめたまま言葉を失う。

水谷先輩も静かに息を呑んだ。

神谷先輩だけが窓の外をじっと見つめていた。

バスがゆっくりと止まる。

扉が開く。

その瞬間。

パンッ——。

誰かが拍手を始めた。

一人。

また一人。

その拍手はあっという間に広がっていく。

校門中に拍手が響いた。

「おかえりなさい!!」

「お疲れ様でした!!」

「全国ベスト8!!」

「かっこよかったです!!」

大きな声が次々と飛んでくる。

私は思わず涙が滲んだ。

三年生も立ち止まる。

水谷先輩は驚いたように笑っていた。

蓮さんは照れ臭そうに頭を掻く。

守屋先輩は「やば……」と何度も呟いていた。

神谷先輩も少しだけ目を細める。

先生方も並んでいた。

校長先生。

教頭先生。

担任の先生。

顧問の先生方。

みんな拍手を送ってくれている。

監督が一歩前へ出た。

「整列。」

自然と全員が一列に並ぶ。

監督は生徒たちを見渡した。

そして、小さく頷く。

「挨拶。」

「ありがとうございました!!」

全員で頭を下げる。

拍手はさらに大きくなった。

「神谷先輩ー!」

「蓮先輩ー!」

「守屋先輩ー!」

後輩たちが涙を流しながら名前を呼んでいる。

女子生徒まで泣いていた。

「あんな試合初めて見ました!」

「感動しました!」

「ありがとうございました!」

誰も負けたチームを見る目ではなかった。

日本一には届かなかった。

でも。

この学校のみんなは。

胸を張って帰ってきた私たちを迎えてくれていた。

校長先生が前へ出る。

「諸君。」

拍手が止まる。

「本当によく頑張ってくれました。」

「君たちは、この聖明高校の誇りです。」

校長先生は一人ひとりを見る。

「優勝は逃した。」

「しかし。」

「全国ベスト8。」

「そして、日本一まであと二点。」

「私は誇りに思います。」

静かな拍手が再び始まる。

監督も静かに頭を下げた。

「ありがとうございました。」

校長先生は笑顔で頷く。

「今日はもう帰りなさい。」

「ゆっくり休みなさい。」

「始業式で、改めて全校生徒へ紹介します。」

部員たちは「はい」と返事をした。

私は体育館を見上げる。

春。

初めてここへ来た日。

何も分からなくて、不安でいっぱいだった。

そんな私を迎えてくれた場所。

この夏。

たくさん笑って。

たくさん泣いて。

たくさん成長した。

気が付けば、季節はもう少しずつ秋へ向かっていた。

熱かった夏は終わる。

だけど。

このチームの物語は、まだ終わらない。

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