未来へ繋がる笑い声
拍手は、すぐには止まらなかった。
誰も立ち上がらない。
誰も言葉を発しない。
ただ、お互いを見ながら拍手を送り続けていた。
私は何度も涙を拭く。
でも、拭いても拭いても溢れてくる。
「……よし。」
監督が小さく笑った。
「これで終わり。」
そう言うと、一度全員を見渡す。
「悔しい夜だ。」
「でも。」
「今日だけは泣け。」
「今日だけ。」
「明日からは前を向け。」
全員が静かに頷く。
「三年生。」
「お前たちは、本当によくここまでチームを引っ張った。」
「全国ベスト八。」
「日本一まで、あと二点。」
「胸を張れ。」
三年生が立ち上がる。
監督へ深く頭を下げる。
「ありがとうございました。」
続いて二年生。
「ありがとうございました。」
私も頭を下げる。
「ありがとうございました。」
監督は少し照れ臭そうに笑う。
「まだ卒業式じゃない。」
「そんな顔するな。」
部屋に少し笑いが戻る。
「明日には学校へ帰る。」
「帰ったら。」
「間違いなく負けたことを言われる。」
「あと二点だったな。」
「惜しかったな。」
「そう言われる。」
監督は首を横に振る。
「違う。」
「俺はそう思わない。」
みんなが顔を上げる。
「お前たちは。」
「全国ベスト八じゃない。」
「日本一と最後まで戦い抜いたチームだ。」
「その誇りだけは。」
「絶対に忘れるな。」
誰も返事ができなかった。
涙で声にならない。
監督は時計を見る。
「今日はもう解散。」
「部屋戻って休め。」
「……と言いたいところだけど。」
少しだけ笑う。
「三年生。」
「最後くらい。」
「後輩と好きなだけ話せ。」
その言葉で、ようやく空気が少し柔らかくなった。
「はい。」
水谷先輩が返事をする。
監督は部屋を出ようとして、ふと足を止めた。
振り返る。
「そうだ。」
「神谷。」
「はい。」
「お前。」
「全国一のセッターだったよ。」
神谷先輩の目が大きく開く。
監督はそれ以上何も言わない。
静かに部屋を出ていった。
扉が閉まる。
部屋には部員だけが残った。
誰も立ち上がらない。
沈黙。
その沈黙を破ったのは守屋先輩だった。
「……腹減った。」
一瞬。
誰も反応できなかった。
「俺。」
「さっき全然食えなかった。」
蓮さんが吹き出す。
「お前なぁ。」
「こんな空気でそれ言うか。」
「いや。」
守屋先輩は笑いながら涙を拭く。
「だって。」
「水谷さんの話聞いて。」
「蓮さんの話聞いて。」
「神谷さんの話聞いて。」
「橘まで泣くし。」
「もうお腹空いた。」
部屋中に笑いが広がる。
さっきまで泣いていた岡田先輩も。
杉山先輩も。
小林先輩も。
笑いながら涙を拭いている。
「守屋。」
神谷先輩が小さく笑う。
「はい。」
「お前。」
「最後までお前だったな。」
部屋中がまた笑いに包まれる。
守屋先輩は照れ臭そうに頭を掻いた。
「だって。」
「このまま終わるの。」
「俺らしくないじゃないですか。」
その言葉に、水谷先輩が立ち上がる。
「そうだな。」
「最後くらい。」
「笑って終わるか。」
「お前ら。」
「写真撮ろう。」
みんなが顔を上げる。
「今日の顔。」
「絶対忘れたくない。」
私は慌ててカメラを取り出した。
「撮ります。」
「お願いします。」
みんなが自然と集まる。
神谷先輩と蓮さんが肩を並べる。
守屋先輩が真ん中へ割り込む。
「邪魔。」
「ひどっ。」
また笑いが起きる。
水谷先輩が言う。
「橘。」
「お前も入れ。」
「え?」
「今日はマネージャーじゃない。」
「仲間。」
その一言で。
私はまた泣きそうになった。
「監督呼んできます!」
守屋先輩が部屋を飛び出す。
「監督ー!」
「最後一枚だけお願いします!」
廊下に響く大きな声。
部屋のみんなが笑う。
私はその笑い声を聞きながら思った。
負けた。
悔しかった。
涙も止まらなかった。
それでも。
この部屋には、ちゃんと笑顔が戻ってきていた。
きっと、この人たちなら。
この悔しさも。
今日流した涙も。
全部、未来へ繋げていける。
そんな気がした。




