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青春病。  作者: 翠吉
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マネージャー 橘結衣

監督の言葉が終わる。

部屋には誰かのすすり泣く声だけが残っていた。

私は涙で前が見えないまま立っていた。

「MVP。」

監督が優しく言う。

「最後に、お前の言葉を聞かせてやれ。」

私は首を横に振る。

「……無理です。」

声にならなかった。

「私なんかが……。」

涙ばかりが溢れてくる。

水谷先輩が笑う。

「ゆっくりでいい。」

蓮さんも頷いた。

「誰も急がない。」

守屋先輩は涙を拭きながら笑う。

「待つの得意なんで。」

部屋に少しだけ笑いが広がる。

私は深呼吸をした。

何度吸っても震えは止まらない。

目の前には、この半年間、毎日見続けてきたみんながいた。

私はゆっくり口を開いた。

「……私。」

「入学した日。」

「何も知りませんでした。」

「バレーのルールも。」

「ポジションも。」

「マネージャーが何をするのかも。」

「何も。」

少し笑う。

「ボールが飛んできただけで怖くて。」

「ペットボトルを並べるだけでも失敗して。」

「毎日謝ってばかりでした。」

守屋先輩が笑う。

「謝り過ぎだったな。」

部屋に小さな笑いが広がる。

私も泣きながら笑った。

「でも。」

「入学式の日。」

「校庭でボールが頭に当たって。」

「体育館へ行って。」

「そこで。」

「神谷先輩が、一人でサーブを打っていました。」

夕日に照らされた体育館。

何度も何度も。

誰もいないコートで。

一人。

サーブを打ち続ける姿。

「あの姿を見て。」

「なんで、この人は一人でこんなに練習してるんだろうって思いました。」

「今なら分かります。」

「誰よりも。」

「全国へ行きたかったから。」

涙が止まらない。

「そこから。」

「毎日。」

「体育館へ行くのが楽しみになりました。」

「水谷先輩が笑って。」

「守屋先輩が騒いで。」

「蓮さんが大きな声で笑って。」

「岡田先輩が誰より真面目で。」

「杉山先輩が黙って努力して。」

「小林先輩が空気を明るくして。」

「神谷先輩が。」

「誰より厳しくて。」

部屋に笑いが起きる。

私は涙を拭きながら続けた。

「最初は。」

「本当に怖かったです。」

神谷先輩が少しだけ笑う。

「怒られるたびに。」

「また失敗したって。」

「何回も落ち込みました。」

「でも。」

「神谷先輩。」

私は真っ直ぐ神谷先輩を見る。

「一回も。」

「私を。」

「マネージャーだからって。」

「女だからって。」

「一年生だからって。」

「そういう見方をしませんでした。」

「できないなら覚えろ。」

「見ろ。」

「考えろ。」

「何回も言われました。」

「その時は怖かったです。」

部屋に笑いが広がる。

「でも。」

「今なら分かります。」

「神谷先輩は。」

「私のことも。」

「ちゃんと部員として見てくれていました。」

神谷先輩は何も言わない。

でも、少しだけ俯いた。

「水谷先輩。」

「部長って。」

「前で引っ張るだけじゃないんだって知りました。」

「後ろでみんなを支えること。」

「誰より周りを見ること。」

「その背中を見て。」

「私ももっと周りを見ようって思いました。」

「蓮さん。」

「怪我をして。」

「跳べなくなって。」

「それでも毎日体育館へ来る姿を見て。」

「諦めないって。」

「言葉じゃないんだって知りました。」

「守屋先輩。」

「苦しい時ほど笑う人は。」

「本当に強い人なんだって教えてもらいました。」

「岡田先輩。」

「努力してる人は。」

「ちゃんと報われるって。」

「杉山先輩。」

「誰にも見えないところで頑張る人が。」

「チームを強くするんだって。」

「小林先輩。」

「どんな時でも笑顔って大事なんだって。」

「みんなから。」

「いっぱい教えてもらいました。」

涙で言葉が詰まる。

私は一度だけ大きく息を吸った。

「私。」

「最初は。」

「ペットボトルを並べることしかできませんでした。」

「でも。」

「いつの間にか。」

「みんながどんな顔をしてるか。」

「疲れてるのか。」

「悔しいのか。」

「笑ってるのか。」

「それだけで分かるようになっていました。」

「ノートを書くのも。」

「ドリンクを作るのも。」

「テーピングを巻くのも。」

「全部。」

「みんなが勝ってほしかったからです。」

「一勝でも。」

「一点でも。」

「みんなに笑ってほしかったからです。」

私はもう涙を止めることができなかった。

「今日。」

「負けました。」

「本当に悔しいです。」

「最後の一本。」

「あと二点。」

「きっと。」

「私は一生忘れません。」

「でも。」

「今日負けたから。」

「この半年が悔しい思い出になるなんて。」

「私は思いません。」

「私は。」

「毎日が幸せでした。」

「朝早く体育館へ行くことも。」

「ドリンクを作ることも。」

「怒られることも。」

「みんなが笑うことも。」

「勝って泣くことも。」

「負けて泣くことも。」

「全部。」

「私にとって。」

「宝物です。」

私は監督を見る。

「監督。」

「何もできなかった私を。」

「ここまで育ててくださって。」

「ありがとうございました。」

深く頭を下げる。

もう一度みんなを見る。

「三年生。」

「まだ卒業まで少しあります。」

「だから。」

「もう少しだけ。」

「皆さんのマネージャーをやらせてください。」

水谷先輩が笑いながら涙を拭いた。

「もちろん。」

守屋先輩も大きく頷く。

「当たり前じゃん。」

蓮さんも笑う。

神谷先輩だけは静かに頷いた。

私は最後に涙を拭いた。

震える足で真っ直ぐ立つ。

胸を張る。

「皆さん。」

「安心してください。」

「皆さんが。」

「この半年。」

「私たちに見せてくれた景色。」

「教えてくれたこと。」

「全部。」

「絶対に無駄にしません。」

「このチームは。」

「私たちが守ります。」

部屋中が静まり返る。

私は最後に大きく息を吸った。

「そして。」

「聖明高校男子バレー部は。」

「来年も。」

「必ず。」

「全国へ行きます。」

誰よりも大きな声だった。

その瞬間。

誰からともなく拍手が鳴った。

パン。

パン。

パン。

監督だった。

続いて水谷先輩。

蓮さん。

神谷先輩。

守屋先輩。

岡田先輩。

杉山先輩。

小林先輩。

部屋いっぱいに拍手が響く。

私は泣きながら笑っていた。

半年間。

何もできなかった私を、この人たちは仲間にしてくれた。

だから今度は。

私たちが、このチームを繋いでいく。

そう心に誓った。

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