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青春病。  作者: 翠吉
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88/105

主将 水谷瞬

監督の言葉が終わる。

部屋にはまた静寂が戻った。

「まずは、水谷。」

監督の視線が水谷先輩へ向く。

「お前から話せ。」

「……はい。」

水谷先輩はゆっくり立ち上がった。

いつものように背筋は真っ直ぐだった。

だけど、その表情には試合中には見せなかった疲れが浮かんでいる。

少しだけみんなを見回し、小さく笑った。

「なんかさ。」

その一言で、全員が水谷先輩を見る。

「こういうの、苦手なんだよな。」

少しだけ笑いが漏れた。

本当に少しだけ。

水谷先輩も優しく笑う。

「最後くらい、部長らしく喋れって監督に言われたから。」

「頑張る。」

そう言うと、一度深呼吸をした。

「まず。」

「ありがとう。」

「一年。」

「二年。」

「マネージャー。」

「監督。」

「保護者。」

「ここまで一緒に来てくれて、本当にありがとう。」

頭を下げる。

私たちも自然と頭を下げていた。

「俺さ。」

「一年の頃、本当に下手だった。」

守屋先輩が少し驚いた顔をする。

「え、そんなこと」

「ある。」

水谷先輩は笑って頷く。

「レシーブは吹っ飛ぶし。」

「サーブは入らないし。」

「試合出ても緊張して何もできなかった。」

「でも。」

「その時、神谷が言ったんだよ。」

部屋の視線が神谷先輩へ集まる。

「"下手なら練習すればいいだけだろ。"」

神谷先輩は少し照れたように目を逸らした。

「すっげぇ腹立った。」

部屋に小さな笑いが起きる。

「なんだこいつって思った。」

「でも。」

「その通りだった。」

「だから練習した。」

「毎日。」

「毎日。」

「毎日。」

「気付いたら。」

「全国まで来てた。」

少し間が空く。

「みんな。」

「努力ってさ。」

「すぐ結果が出るもんじゃない。」

「今日だって負けた。」

「でも。」

「だから努力が無駄だったなんて、一度も思わない。」

水谷先輩の声が少し震える。

「この三年間。」

「朝早く起きて。」

「眠い目こすって。」

「走って。」

「怒られて。」

「笑って。」

「合宿して。」

「試合して。」

「怪我して。」

「泣いて。」

「また立ち上がって。」

「その全部が。」

「俺の高校生活だった。」

部屋は静まり返っている。

「後輩。」

水谷先輩は二年生を見る。

「岡田。」

「お前、本当に上手くなった。」

岡田先輩が少し俯く。

「最初はさ。」

「自信なくて。」

「すぐ謝ってた。」

「でも今は違う。」

「全国で普通に戦ってた。」

「自信持て。」

「杉山。」

「お前は誰より真面目。」

「真面目過ぎる。」

「もっと自分を褒めろ。」

杉山先輩が照れ臭そうに笑う。

「小林。」

「お前は空気読めない時ある。」

部屋に笑いが起きる。

「でも。」

「その空気読めない明るさに何回救われたか分かんない。」

「そのままでいろ。」

小林先輩は涙を拭きながら笑った。

「守屋。」

「お前は。」

水谷先輩は少し笑う。

「本当にうるさい。」

「はい。」

「でも。」

「お前がいたから、このチームは笑えた。」

「お前がいなかったら。」

「もっと苦しいチームだった。」

「今日。」

「最後までボール追い掛けてたな。」

「かっこよかったぞ。」

守屋先輩が唇を噛む。

涙が落ちた。

「ありがとうございます……。」

「橘。」

急に名前を呼ばれ、私は顔を上げる。

「はい。」

「最初。」

「ペットボトル並べるだけでも大変そうだったな。」

部屋が少し笑う。

「はい……。」

「でも。」

「気付いたら。」

「誰より先に動いて。」

「誰より選手見て。」

「誰より試合見て。」

「誰より俺たちのこと考えてた。」

涙が込み上げる。

「ありがとう。」

「マネージャーって。」

「試合に出ない。」

「点も取らない。」

「でも。」

「俺は。」

「お前も。」

「一緒に全国ベスト8まで戦った仲間だと思ってる。」

もう駄目だった。

涙が止まらない。

「ありがとう。」

私は何度も頷くことしかできなかった。

水谷先輩は最後に神谷先輩と蓮さんを見る。

「二人には。」

「本当に助けられた。」

「神谷。」

「お前がセッターだったから。」

「俺は安心して打てた。」

「どんなに苦しい場面でも。」

「お前なら上げてくれるって信じられた。」

神谷先輩は静かに頷く。

「蓮。」

「お前の怪我。」

「あの時、本当に悔しかった。」

蓮さんも俯く。

「でも。」

「戻ってきてくれてありがとう。」

「最後。」

「あの一本。」

「日本一相手に思いっきり振り抜いたお前は。」

「日本一のエースだった。」

蓮さんの目から涙がこぼれる。

部屋中が静かだった。

水谷先輩は一度だけ深く息を吸う。

「最後に。」

「俺は。」

「このチームの部長になれて。」

「本当に幸せだった。」

「ありがとう。」

そう言って、深く頭を下げた。

誰も拍手はしなかった。

ただ。

部屋中にすすり泣く声だけが響いていた。

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