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青春病。  作者: 翠吉
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85/105

涙の落ちる場所

十六対十七。

第三セットで初めて追い越された。

それでも誰一人、下を向かなかった。

「一本。」

神谷先輩の声。

たった二文字。

それだけで全員が前を向く。

私は胸の前で両手を強く握った。

お願い。

まだ終わらないで。

白鷹のサーブ。

守屋先輩が拾く。

神谷先輩。

「蓮。」

ドンッ!!

三枚ブロックを弾き飛ばす。

十七対十七。

「よし!!」

蓮さんが初めて大きく声を出した。

会場が揺れる。

でも白鷹はすぐに取り返す。

十八対十七。

神谷先輩のツーアタック。

十八対十八。

白鷹の時間差。

十九対十八。

水谷先輩がブロックアウト。

十九対十九。

ここから一本ごとに歓声が入れ替わる。

白鷹。

聖明。

白鷹。

聖明。

誰も流れを渡さない。

二十一対二十一。

二十二対二十二。

二十三対二十三。

会場全員が立ち上がっていた。

汗で床が光る。

肩で息をする選手たち。

それでも誰一人、膝に手をつかない。

二十四対二十三。

白鷹、マッチポイント。

私は息を止めた。

神谷先輩は蓮さんを見る。

蓮さんも頷く。

それだけだった。

サーブ。

守屋先輩が拾く。

神谷先輩。

高いトス。

「蓮!」

三枚。

ドンッ!!

ブロックを吹き飛ばす。

二十四対二十四。

デュース。

歓声が爆発する。

「まだ終わらない!!」

実況が叫ぶ。

二十五対二十四。

白鷹。

二十五対二十五。

水谷先輩が誰もいないコースへ打ち抜く。

二十六対二十五。

白鷹。

二十六対二十六。

神谷先輩がブロックアウトを奪う。

二十七対二十六。

白鷹。

二十七対二十七。

守屋先輩が倒れ込みながら繋ぐ。

岡田先輩。

神谷先輩。

「蓮!!」

ドンッ!!

ライン際へ突き刺さる。

私は思わず涙が出そうになる。

まだ。

まだ終わらない。

二十八対二十七。

白鷹。

もう一度、マッチポイント。

体育館は静まり返っていた。

誰も声を出さない。

神谷先輩が全員を見る。

「一本。」

その一言だけだった。

蓮さんが頷く。

水谷先輩が拳を合わせる。

守屋先輩が笑う。

「最後まで。」

岡田先輩も杉山先輩も小林先輩も静かに頷いた。

ピーーーッ。

最後の一本。

白鷹のサーブ。

鋭い。

守屋先輩が前へ滑る。

パシッ!!

完璧。

神谷先輩の頭上へ返る。

私は思った。

勝てる。

神谷先輩が跳ぶ。

その手から放たれたトスは、この試合で一番綺麗だった。

ネット際を一直線に滑る。

「蓮!!」

蓮さんが助走へ入る。

今までで一番高く跳んだ。

本当に、高かった。

体育館の照明に届きそうなくらい。

右腕が振り抜かれる。

ドンッ!!!!!

誰も止められない。

そう思った。

だけど。

パシィィッ!!!!

白鷹のリベロが右手一本で拾いた。

「え……。」

思わず声が漏れる。

返った。

まだ終わらない。

守屋先輩が飛び込む。

岡田先輩が繋ぐ。

神谷先輩が押し上げる。

水谷先輩。

フェイント。

拾われる。

また返る。

ラリーは続く。

誰も諦めない。

誰も止まらない。

神谷先輩がブロックへ飛ぶ。

ワンタッチ。

守屋先輩。

また拾く。

蓮さん。

また跳ぶ。

返される。

白鷹セッターがネット際へ走る。

月島。

最後のトス。

私は時間がゆっくり流れた気がした。

月島が跳ぶ。

守屋先輩が飛ぶ。

あと少し。

あと指一本。

ドンッ。

クロス。

パシッ……。

指先には触れた。

でも。

ボールはゆっくり床へ落ちた。

ピーーーーーーーッ。

二十九対二十七。

試合終了。

その瞬間。

音が消えた。

歓声も。

拍手も。

実況も。

何も聞こえない。

転がるボールだけが見えていた。

神谷先輩はその場で動かなかった。

蓮さんはネットを握ったまま俯く。

守屋先輩は床に倒れたまま起き上がれない。

水谷先輩は天井を見上げ、小さく息を吐いた。

私は……。

泣きそうだった。

いや。

もう泣いていたのかもしれない。

でも駄目。

マネージャーは最後まで泣いちゃいけない。

私は唇を噛んだ。

監督が静かに立ち上がる。

「整列。」

その一言で全員が前へ歩き出す。

神谷先輩が一番前へ立つ。

「ありがとうございました!!」

体育館中へ響く声。

その声を聞いた瞬間。

堪えていた涙が、一粒だけ頬を伝って落ちた。

私たちの、初めてのインターハイが終わった。

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