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青春病。  作者: 翠吉
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84/105

王者の咆哮

十六対八。

あと九点。

誰もが聖明の流れだと思っていた。

だが。

王者は、ここからだった。

白鷹の主将・月島が静かにボールを受け取る。

「一本。」

それだけだった。

大きな声もない。

派手なガッツポーズもない。

ただ一言。

その空気が白鷹全体を変えた。

ドンッ!!

鋭いジャンプサーブ。

守屋の真正面。

(重い。)

腕に衝撃が走る。

返球は少しだけ短くなった。

神谷が無理やり押し上げる。

「蓮!」

三枚。

ドンッ!!

打ち切った。

しかし。

パシィッ!!

白鷹のリベロがまた拾く。

「返る!」

時間差。

レフト。

ドンッ!!

ピーーーッ!!

十六対九。

月島は何も言わない。

ただ静かにサーブ位置へ戻る。

もう一本。

ドンッ!!

今度は岡田が狙われる。

崩れた。

神谷が走る。

ネットから離れる。

「水谷!」

ブロックアウト狙い。

だが。

アウト。

ピーーーッ!!

十六対十。

会場の空気が変わる。

「白鷹、二連続ポイント!!」

実況の声が響く。

ベンチ。

「タイムは?」

結衣が監督を見る。

監督は首を振った。

「まだ。」

コートでは神谷が全員を集めていた。

「一本。」

その一言だけ。

守屋は頷いた。

(分かってる。)

王者は必ず来る。

ここで終わる相手じゃない。

それは試合前から分かっていた。

だから焦る必要はない。

月島が三本目を打つ。

ドンッ!!

今度は守屋の左。

飛び込む。

パシッ!!

上がった。

少しだけライトへ流す。

神谷が追い付く。

「杉山。」

速攻。

ドンッ!!

バシィッ!!

止められた。

ピーーーッ!!

十六対十一。

会場がざわつく。

三連続失点。

守屋はボールを拾いながら小さく息を吐いた。

(嫌な流れだな。)

でも。

怖くはない。

一年の頃なら違った。

一点取られる度に焦った。

「俺のせいだ。」

そう思っていた。

だけど今は違う。

一点は一点。

取り返せばいい。

そう教えてくれたのは神谷だった。

『下向いてる時間が一番もったいない。』

練習中。

何度も言われた言葉。

『次の一本に間に合わねぇぞ。』

守屋は顔を上げる。

目の前には神谷。

その背中は少しも変わっていなかった。

焦っていない。

なら。

自分も焦らない。

「守屋。」

「はい。」

「一本目。」

「任せてください。」

笑った。

自然と笑えた。

神谷も少しだけ口元を緩める。

ピーーーッ!!

試合再開。

白鷹のサーブ。

今度は蓮を狙う。

レシーブが乱れる。

相手ブロックは完全に読んでいた。

ドンッ!!

白鷹のスパイク。

(落ちる。)

そう思った瞬間だった。

守屋は反射で体を投げ出す。

腕一本。

パシィッ!!

ボールが高く舞う。

「ナイス!!」

神谷が叫ぶ。

その一言だけで守屋の足が動く。

立ち上がる。

次のカバーへ走る。

まだ終わっていない。

神谷がトスを上げる。

蓮。

水谷。

岡田。

誰に上がってもいい。

このチームは、誰でも決められる。

だから自分は拾うだけだ。

拾って。

繋いで。

また拾う。

それがリベロの仕事。

歓声なんていらない。

得点もいらない。

最後に一点多く取れれば、それでいい。

守屋はもう一度腰を落とした。

目の前には王者・白鷹。

その奥には、まだ誰も見たことのない景色が待っていた。


十六対十一。

会場の空気が少しずつ変わり始めていた。

私はタオルを握る手に力が入る。

「大丈夫。」

自分に言い聞かせるように小さく呟く。

神谷先輩は焦っていない。

水谷先輩も。

蓮さんも。

守屋先輩も。

だから、大丈夫。

そう思っていた。

ドンッ!!

白鷹のサーブ。

守屋先輩が綺麗に返す。

神谷先輩。

「蓮。」

高いトス。

三枚ブロック。

ドンッ!!

バシィッ!!

止められた。

十六対十二。

白鷹の歓声が大きくなる。

「ドンマイ!」

水谷先輩が真っ先に声を出す。

誰も下を向かない。

でも。

流れだけは確実に白鷹へ傾いていた。

次の一本。

月島のサーブ。

今度は私でも分かった。

狙っている。

レシーブを少しずつ崩している。

真正面じゃない。

半歩ずつ。

一番嫌な場所へ打ってくる。

岡田先輩が飛び込む。

神谷先輩が追い付く。

体勢は苦しい。

「水谷!」

ドンッ!!

ワンタッチ。

返る。

また返る。

ラリー。

二十回近く続く。

最後。

白鷹のエースがバックアタック。

ドンッ!!

十六対十三。

「三連続ポイント!」

実況が声を張る。

観客席から白鷹コールが聞こえ始めた。

私はスコアボードを見る。

十六対十三。

さっきまで四点あった。

もう三点。

神谷先輩は静かに手を叩く。

「一本。」

その一言だけ。

みんなが頷く。

ドンッ!!

サーブ。

今度は守屋先輩。

少しだけ乱れた。

神谷先輩がネット際で何とか触る。

「岡田!」

苦しいトス。

ドンッ!!

アウト。

十六対十四。

私は思わず息をのんだ。

白鷹ベンチが初めて大きく盛り上がる。

応援の音も一段と大きくなった。

体育館全体が白鷹の空気へ飲み込まれていく。

「結衣。」

監督が静かに言う。

「はい。」

「ドリンク。」

「はい!」

私は急いでボトルを持つ。

手が少し震えていた。

その震えに気付かれないよう強く握る。

まだ大丈夫。

まだ一点リードしてる。

そう思った。

だけど。

ドンッ!!

月島のサーブ。

蓮さんが崩された。

神谷先輩が走る。

ネットから大きく離れる。

「水谷!」

高いボール。

三枚ブロック。

ドンッ!!

パシィッ!!

拾かれる。

切り返し。

レフト。

ドンッ!!

十六対十五。

ついに一点差。

私は胸が苦しくなった。

周りを見る。

観客は全員立ち上がっている。

どっちを応援しているのか分からないくらい、大歓声だった。

それでも神谷先輩は変わらない。

蓮さんも。

水谷先輩も。

守屋先輩も。

誰一人焦った顔をしていなかった。

だから私も前を向く。

「頑張って……。」

声にならない。

次の一本。

月島のサーブ。

今度はライン際。

守屋先輩が飛び付く。

パシッ!!

上がった。

でも少し短い。

神谷先輩が押し上げる。

「蓮!」

三枚。

ドンッ!!

バシィッ!!

真上へ止められた。

もう一本。

岡田先輩。

繋ぐ。

神谷先輩。

「水谷!」

ドンッ!!

また拾かれる。

返る。

もう一度。

白鷹の速攻。

ドンッ!!

ピーーーッ!!

十六対十六。

追い付かれた。

会場が割れそうな歓声に包まれる。

私は何も言えなかった。

神谷先輩はボールを拾う。

静かにサーブ位置へ歩く白鷹。

嫌な予感がした。

そして、その予感は当たる。

ドンッ!!

強烈なサーブ。

岡田先輩が崩される。

神谷先輩が無理な体勢でトスを上げる。

蓮さん。

三枚。

打ち切る。

ワンタッチ。

返る。

時間差。

センター。

ドンッ!!

ピーーーッ!!

十六対十七。

初めて。

第三セットで初めて。

聖明高校が逆転された。

私はスコアボードから目を離せなかった。

たった一点。

なのに、その一点が、今までで一番遠く感じた。

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