夜の体育館
食堂は思ってたよりも賑やかだった。
トレイを持って、少しだけ周りを見渡す。
「こっち、空いてるぞー」
守屋の声。
一瞬迷ってから、そちらに向かう。
「お疲れ様です」
軽く頭を下げる。
「おつかれー」
ラフな返事に少しだけ肩の力が抜けた。
「いやでもさ、今日の練習キツかったでしょ」
守屋が箸を動かしながら言う。
「……キツかったです」
正直に答える。
「だよなー」
笑いながら頷く。
「ここ、空気薄いからな」
「最初みんな、ああなる」
横からも声が入る。
「でも、ちゃんとできてたよ」
守屋がサラッと言う。
「え……いや、全然です」
反射的に否定する。
「いやいやー」
「最初より全然できてるぞ!」
軽い調子。
でも、見ていてくれたことがわかる。
「明日から試合だしな」
誰かが、言う。
空気が一瞬変わる。
「……練習試合ですよね」
「まぁな。でも普通にガチ」
「相手も容赦ないぞ〜」
「……こわ」
思わず漏れて笑いが起きる。
その中で
少し離れた席が目につく。
神谷先輩
静かに食べてる。
誰とも話さない。
(……やっぱり、少し違う)
何となく、そう思った。
食事が終わり部屋に戻る。
ドアを閉めた瞬間、静かになった。
さっきまでの声が、全て消える。
「……はあ」
ベットに倒れ込む。
体が重い。
何もしてないのに
(……きつい)
天井を見上げる。
ぼんやりする。
少しだけ横になった。
(ほんとにしんどいなあ)
でも、
頭に残ってるのは別のこと。
「いいな」
って言われたこと。
少しだけ動けた瞬間。
(……ほんの少しだけ)
できてた気もする。
でもそれ以上に、
(全然たりない)
って気持ちの方が大きい。
目を閉じる。
浮かんでくる。
「いいな」
の一言。
(……なんであの人なんだろ)
別に特別なことじゃないのに、
それでも、
1番残ってる。
ゆっくり体を起こす。
「……お風呂行こ」
風呂を出ると少しだけ体は軽く感じた。
それでも疲れは残ってる。
廊下を歩く。
とても、静かだ。
(……水飲も)
自販機へと向かったその時、体育館の方から空気が弾けた音がした。
なんの音だろ。
自然と体は体育館に向かっていた。
そこには凛太郎がいた。
ひとりで黙々と、サーブを打ち込んでいた。
疲れているはずなのに、その動きは俊敏だ。
思わず見入ってしまう。
その時、ボールが止まった。
「……なにしてる」
低い声。
気づかれていた。
「……すみません」
少しだけ、焦って答える。
「水飲みに行く途中で……」
言い訳みたいになる。
「別にいいよ」
短く帰ってくる。
それだけ、
またボールを握る。
「明日の練習試合」
「しっかり見とけ」
「……はい」
自然と、返事がでた。
また、サーブの音が響く。
(……すごい)
やっと言葉になる。
でも、それ以上に残ったのは……
上手く言えない
別の感情だった。




