ベスト8までの足音
インターハイ三日目。
朝。
会場へ到着すると、昨日までとは明らかに空気が違っていた。
「見ろ。」
「聖明だ。」
「あの大阪代表倒した学校。」
「静岡の。」
選手たちの視線が、一斉にこちらへ向く。
昨日までは無名だった。
でも、一日で変わった。
全国上位常連の大阪代表・凌星高校を破った。
その結果だけで十分だった。
「結構見られてますね。」
私が小さく呟く。
守屋先輩が笑った。
「有名人っすね。」
「一日だけな。」
水谷先輩も笑う。
神谷先輩と蓮先輩は気にする様子もなく、そのままアップへ向かった。
「相変わらずだな。」
監督が苦笑する。
コートではアップが始まる。
蓮先輩が軽く打つだけで、会場がざわつく。
「やっぱあいつだ。」
「昨日のライト。」
「343センチって書いてあったやつ。」
「いや、絶対350ある。」
「三枚の上から普通に打ってたぞ。」
その声があちこちから聞こえてくる。
神谷先輩がサーブを打つ。
ドンッ!!
乾いた音が体育館へ響く。
「サーブもやばい。」
「セッターなんだよな?」
「何でもできるじゃん。」
水谷先輩は軽くコースを打ち分ける。
クロス。
ストレート。
フェイント。
アップなのに、相手コートへ吸い込まれるように決まっていく。
「三年生三人。」
「全員レベル高すぎる。」
「昨日の試合、本物だったんだな。」
私はその声を聞きながら、ノートを開いた。
今日の相手。
特徴。
ローテーション。
全部頭へ入れる。
ふと視線を上げる。
関係者席。
昨日と同じ場所。
腕を組む、一人の男性。
全日本U-18男子代表監督。
その周りには、日本バレーボール協会の関係者たちが並んでいた。
監督は静かにパンフレットを閉じる。
「やはり来ましたね。」
協会スタッフが話しかける。
「ああ。」
監督は短く答えた。
「昨日だけじゃ判断できん。」
「もう一試合見ておきたい。」
視線は、神谷先輩と蓮先輩へ向く。
「どこまでやれるか。」
「見せてもらおう。」
その頃。
コートでは整列が始まっていた。
「男子バレーボールインターハイ三回戦。」
「聖明高校対——。」
場内アナウンスが響く。
両チームがネット前へ並ぶ。
神谷先輩が静かに前を見る。
水谷先輩が拳を握る。
蓮先輩は小さく息を吐いた。
「お願いします!!」
両チームの声が体育館へ響く。
ベスト8を懸けた戦いが、今、始まる。
ホイッスルが鳴る。
第三回戦。
第一セット。
相手のサーブで試合が始まった。
ドンッ!!
鋭いジャンプサーブ。
「ある!」
守屋先輩が綺麗に拾う。
神谷先輩がネット際へ走る。
「水谷。」
一球目から速いトス。
ドンッ!!
クロスへ叩き込む。
「よし!」
幸先のいいスタートだった。
しかし。
相手もすぐに取り返す。
高さのあるブロック。
速いコンビ。
昨日の凌星高校とはまた違うタイプ。
「ナイス!」
「切り替え!」
点差は開かない。
三対三。
五対五。
七対七。
互いに譲らない展開が続く。
「蓮!」
神谷先輩のトス。
ドンッ!!
ブロックを弾き飛ばす。
「ナイス!!」
次は。
「水谷!」
ストレート。
さらに。
フェイント。
「まただ!」
相手ブロッカーが思わず声を上げる。
それでも相手も粘る。
九対九。
十一対十一。
完全なシーソーゲームだった。
私はノートをめくる。
「監督。」
「相手リベロです。」
「クロスへ寄りすぎてます。」
監督は頷いた。
「神谷。」
「はい。」
「空いたところ使え。」
「分かりました。」
次の一本。
神谷先輩は助走へ入った蓮先輩を見る。
相手ブロック三枚。
全員が蓮先輩へ飛ぶ。
その瞬間。
「岡田。」
バックトス。
ドンッ!!
ノーマーク。
「よし!!」
岡田先輩が珍しく拳を握る。
「ナイス岡田!」
守屋先輩が飛びついた。
流れは少しずつ聖明へ傾く。
十四対十二。
十六対十三。
だが。
相手も全国まで勝ち上がってきたチームだった。
レシーブ一本。
トス一本。
その精度が落ちない。
十六対十五。
十七対十七。
再び並ばれる。
「一本。」
神谷先輩が静かに声を掛ける。
その一言だけで、全員が落ち着く。
十八対十八。
十九対十九。
二十対二十。
会場全体が固唾をのんで見守る。
「ここだ。」
監督が小さく呟いた。
神谷先輩のサーブ。
ドンッ!!
相手が崩れる。
守屋先輩。
岡田先輩。
神谷先輩。
「蓮!!」
高いトス。
ドンッ!!
二十一対二十。
さらに。
水谷先輩がブロックアウト。
二十二対二十。
守屋先輩がスーパーレシーブ。
神谷先輩がワンハンドで繋ぐ。
最後は杉山。
速攻。
二十三対二十。
会場が沸く。
「あと二本!!」
監督の声が飛ぶ。
二十四対二十一。
セットポイント。
最後は。
神谷先輩のジャンプサーブ。
ドンッ!!
相手は返すのが精一杯。
「チャンス!」
神谷先輩が跳ぶ。
全員が蓮先輩を見る。
三枚ブロック。
神谷先輩は微笑んだ。
「水谷。」
時間差。
ドンッ!!
ピーーーッ!!
二十五対二十一。
第一セット。
聖明高校。
「よっしゃあああ!!」
ベンチが一斉に立ち上がる。
関係者席。
全日本U-18男子代表監督は腕を組んだまま、小さく頷いた。
「やはり。」
「このチーム、面白い。」
聖明高校。
ベスト8まで、あと一セット。




