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青春病。  作者: 翠吉
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75/105

王者

試合を終えた体育館には、まだ歓声の余韻が残っていた。

「お疲れ!」

他校の選手たちと軽く挨拶を交わし、私たちは宿へ向かうバスへ乗り込む。

今日は、この一試合だけ。

全国上位常連・大阪代表凌星高校を破った興奮は、誰の顔にも残っていた。

「やばかったな。」

守屋先輩が笑う。

「蓮さん、最後意味分かんなかったっす。」

「三枚の上から普通に決めるんですもん。」

「俺も思った。」

岡田先輩が苦笑する。

「さすがに鳥肌立ちました。」

水谷先輩も笑いながら振り返る。

「本人は普通なんだろ。」

「普通じゃないです。」

守屋先輩が即答すると、車内に笑いが広がった。

その当の本人は。

一番後ろの窓側。

ヘッドレストへ頭を預けたまま、もう目を閉じていた。

「早っ。」

私が思わず笑う。

神谷先輩が一度だけ後ろを見る。

「寝たな。」

「ですね。」

バスはゆっくり走り出す。

窓の外には大阪の街並みが流れていく。

さっきまでの熱気が嘘みたいに、車内は少しずつ静かになっていった。

試合の疲れもあって、眠っている人も多い。

三十五分ほど走り、バスは宿の前へ止まる。

「着いたぞー。」

監督の声が響く。

選手たちが次々に立ち上がる。

「腹減ったー。」

「風呂入りてぇ。」

守屋先輩たちは荷物を持って降りていく。

私は最後尾へ向かった。

「蓮さん。」

返事がない。

「蓮さん。」

少し肩を叩く。

……動かない。

「蓮さん。」

もう一度。

ぴくりとも反応しない。

「え。」

思わず笑ってしまう。

「蓮、起きろ。」

水谷先輩が肩を揺らす。

反応なし。

「おい。」

守屋先輩も笑いながら腕を揺する。

「蓮さん!」

「ホテル着きましたよ!」

しーん。

車内が静まり返る。

「寝すぎだろ。」

岡田先輩が苦笑する。

神谷先輩はゆっくり最後尾まで歩いてきた。

眠ったままの蓮先輩を見て、小さく息を吐く。

「……相当疲れてるな。」

そう言って肩へ手を置く。

「蓮。」

一言。

それだけだった。

「……ん。」

ゆっくり目を開ける。

「着いたぞ。」

蓮先輩はぼんやり辺りを見回す。

「……ホテル?」

「ああ。」

神谷先輩が短く答える。

蓮先輩は小さく頷いた。

「……腹減った。」

その一言に。

「結局そこかよ!」

守屋先輩のツッコミで、車内は笑いに包まれた。

張り詰めていた全国の空気が、少しだけ和らいだ。


ホテルへ入ると、一気に疲れが押し寄せてきた。

「腹減ったー!」

守屋先輩が真っ先にロビーを歩いていく。

「さっきも言ってたじゃん。」

水谷先輩が笑う。

「試合したら腹減るんすよ!」

「蓮さんもですよね?」

「……減った。」

「ほら!」

守屋先輩が勝ち誇ったように笑う。

「一緒じゃん。」

「俺は試合中から減ってた。」

「早すぎますって!」

ロビーは笑い声に包まれた。

監督が全員を見渡す。

「部屋に荷物だけ置いて十分後、一階の食事会場集合。」

「はい!」

全員が返事をする。

私は荷物を持ってエレベーターへ向かった。

部屋へ荷物を置き、急いで一階へ降りる。

食事会場には、全国各地の学校が集まっていた。

北海道。

東京。

福岡。

今日勝ち上がった学校ばかり。

自然と視線が集まる。

「あれ。」

「静岡だ。」

「凌星倒した学校。」

そんな声が聞こえてきた。

守屋先輩が少し照れくさそうに笑う。

「なんか見られてません?」

「見られてるな。」

水谷先輩は苦笑した。

蓮先輩は気にする様子もなく席へ座る。

「腹減った。」

「それしか言わないじゃないですか。」

「本当に減った。」

また笑いが起きる。

神谷先輩は料理を取りながら、小さく周りを見渡していた。

全国の強豪校。

誰が残ったのか。

どこのチームが勝ったのか。

自然と目で確認している。

その視線に気付いた監督が隣へ立つ。

「気になるか。」

「少し。」

「見るのはいい。」

監督は静かに続けた。

「でも、見るだけだ。」

「明日勝たなきゃ意味がない。」

神谷先輩は短く頷く。

「はい。」

その時だった。

食事会場の入口が少しざわつく。

「東京代表だ。」

「去年の春高王者。」

「来た。」

自然と何人もの選手が入口へ視線を向けた。

聖明高校の選手たちも、思わず顔を上げる。

全国には、まだ強敵がいる。

そう感じさせる空気だった。

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