聖明のバレー
第三セット。
会場の熱気は、さらに増していた。
「ラスト。」
神谷先輩が静かに言う。
「取り切るぞ。」
「はい!」
全員の声が重なった。
ホイッスルが鳴る。
運命の最終セットが始まった。
序盤から、一点を奪い合う展開だった。
「ナイスレシーブ!」
守屋先輩が飛び込む。
岡田先輩が繋ぐ。
神谷先輩が跳ぶ。
「蓮!」
ドンッ!!
スパイクが決まる。
「よし!!」
すぐに凌星高校も取り返す。
鋭いバックアタック。
高さのある速攻。
全国屈指の攻撃力。
簡単には離れない。
五対五。
七対七。
九対九。
一歩も譲らない。
「結衣。」
監督に呼ばれる。
「はい!」
「相手のサーブ、何かあるか。」
私は急いでノートをめくる。
「八番です。」
「終盤になるとジャンプサーブのコースがクロスに寄ります。」
「力んで少し右へ流れる傾向があります。」
監督は頷いた。
「神谷。」
「はい。」
「狙え。」
「分かりました。」
次の一本。
相手エースが助走へ入る。
会場が静まり返る。
強烈なジャンプサーブ。
ドンッ!!
だが。
「あるぞ!」
守屋先輩が一歩だけ右へ動く。
完璧なレシーブ。
「ナイス!!」
神谷先輩が走る。
速いトス。
「水谷。」
ドンッ!!
決まった。
十対九。
ベンチが沸く。
「ノート通りだ!」
監督が笑う。
私は思わず胸をなで下ろした。
でも。
凌星高校も黙っていない。
十一対十一。
十二対十二。
点差は開かない。
関係者席。
全日本U-18男子代表監督は腕を組んだまま、小さく頷いた。
「面白い。」
「技術だけじゃない。」
「考えて勝とうとしている。」
スタッフも静かにメモを取る。
コートでは。
神谷先輩がゆっくり息を吐いた。
「ここから。」
その一言で、全員の目が変わる。
全国まで積み重ねてきた時間。
怪我。
悔しさ。
努力。
全部を、この一セットへぶつける。
スコアは十二対十二。
勝負は、ここからだった。
水谷先輩が前へ出る。
「一本。」
神谷先輩が静かに頷く。
トスが上がる。
「水谷!!」
ドンッ!!
鋭いクロス。
相手リベロの指先をかすめ、コートへ突き刺さる。
「ナイス!!」
次の一本。
また水谷先輩。
今度はストレート。
ブロッカーがクロスを警戒した、その逆を射抜く。
「また違う!?」
凌星高校の選手が思わず顔を見合わせる。
さらに次。
相手ブロックがぴったり付く。
「今度こそ止める!」
ドンッ!!
ブロックアウト。
ボールは相手の手を弾いて外へ飛んだ。
「くそっ!」
「全部読まれてる!」
「違う!」
相手セッターが叫ぶ。
「読まれてるんじゃない!」
「打ち分けられてるんだ!」
次のラリー。
水谷先輩が大きく助走へ入る。
相手ブロックが一斉に跳ぶ。
その瞬間。
コトッ。
フェイント。
誰もいないコートへ静かに落ちた。
「またかよ!!」
相手リベロが床を叩く。
「クロス。」
「ストレート。」
「ブロックアウト。」
「フェイント。」
「全部あるのかよ……。」
水谷先輩は静かに息を吐いた。
「まだ終わってない。」
その一言だった。
相手ブロックは完全に迷い始める。
その変化を、神谷先輩は見逃さなかった。
エンドラインへ歩く。
ボールを受け取り、一度だけ静かに回した。
私は思わず息をのむ。
(違う。)
(空気が変わった。)
神谷先輩が高くトスを上げる。
踏み込む。
ドンッ!!!
乾いた衝撃音が体育館中へ響いた。
今までとは明らかに違う。
一直線に突き刺さる弾丸サーブ。
「速っ!!」
相手レシーバーが弾く。
「チャンス!」
次も。
ドンッ!!
ライン際いっぱいへ突き刺さる。
サービスエース。
会場が揺れた。
さらにもう一本。
ドンッ!!
ネットすれすれを通るサーブ。
相手は触れるだけ。
守屋先輩が拾う。
岡田先輩が繋ぐ。
神谷先輩が跳ぶ。
相手ブロック三枚。
迷わず集まる。
神谷先輩は笑った。
「蓮。」
高いトス。
蓮先輩が跳ぶ。
ドンッ!!!!
三枚ブロック、そのさらに上。
誰も届かない。
「また決めた!!」
「止まらねぇ!!」
「水谷に揺さぶられて!」
「神谷のサーブで崩されて!」
「最後は朝倉が決める!」
「なんだ、この三年生……!」
関係者席。
全日本U-18男子代表監督は腕を組んだまま、小さく笑った。
「面白い。」
「今年は逸材がいる。」
その様子を見ていた聖明高校の監督は、小さく笑みを浮かべる。
「完成した。」
誰にも聞こえないほど小さな声。
「これが――」
監督は誇らしそうにコートを見つめた。
「聖明のバレーだ。」




