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青春病。  作者: 翠吉
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68/92

繋がる視線、重なる一本

主審の笛が鳴った。

全国大会二回戦。

大阪代表・凌星高校との試合が始まる。

最初のサーブは相手の四番。

左手でボールを持ち、ゆっくりと息を吐く。

体育館中の視線が、その一本へ集まった。

高く上がったトス。

鋭い踏み込み。

パンッ!!

打たれたボールが、聖明のコートへ一直線に飛んでくる。

「来るぞ!」

守屋先輩が一歩前へ出た。

腕に当たった瞬間、ボールが大きく弾かれる。

「っ!」

それでも水谷先輩が走る。

片手で繋いだボールを、神谷先輩が追う。

ネット際。

体勢は崩れている。

それでも神谷先輩は、迷わず後ろへトスを上げた。

「蓮!」

蓮先輩が助走へ入る。

相手のブロックが二枚つく。

ドンッ!!

打ち込んだボールは、その手に弾かれ、コートの外へ落ちた。

「よっしゃあ!!」

最初の一点。

聖明の応援席から、太鼓と歓声が一気に響く。

「ナイス蓮!」

「一本目取ったぞ!」

守屋先輩が大きく拳を上げる。

蓮先輩は静かに神谷先輩と手を合わせた。

「今の、よく上げたな。」

「あれくらい上げる。」

神谷先輩は表情を変えない。

でも、その目はすでに次の一点を見ていた。

聖明のサーブ。

岡田先輩がボールを受け取る。

笛が鳴る。

狙いは相手の五番。

鋭く打ち込まれたサーブを、相手は安定して返した。

セッターがネット際へ入る。

前衛。

バックトス。

「四番!」

私が声を上げる。

杉山先輩と水谷先輩が跳ぶ。

でも、相手の四番はブロックを見ていた。

手首を返す。

ボールは二人の外側を抜け、ストレートへ落ちた。

「ワンタッチなし!」

一対一。

相手の応援席が大きく沸く。

やっぱり上手い。

高さだけじゃない。

こちらのブロックを見て、空いている場所へ打っている。

私はすぐにノートへ書き込む。

『前衛セッター、四番へのバックトス。』

『二枚ブロックでもストレートを狙える。』

次のサーブ。

相手の四番が再びボールを持つ。

今度は守屋先輩が少し後ろへ下がった。

「一本で返す!」

パンッ!!

鋭いサーブ。

守屋先輩の正面。

今度は腕の中央でしっかりと受ける。

ボールが神谷先輩の頭上へ返った。

「ナイス!」

神谷先輩が跳ぶ。

相手のブロックは蓮先輩へ寄る。

その瞬間。

トスは中央へ上がった。

「小林!」

小林先輩が一気に跳ぶ。

ドンッ!!

ブロックが間に合わない。

ボールが相手コート中央へ突き刺さる。

二対一。

「ナイスクイック!」

応援席から太鼓が響く。

相手の強いサーブを守屋先輩が返し。

蓮先輩へ集まったブロックの逆を、小林先輩が決める。

いつもの聖明の形だった。

「いいぞ!そのまま!」

監督の声が飛ぶ。

でも、凌星高校は崩れなかった。

次のラリー。

相手のセッターがボールを大きく散らす。

左。

中央。

そして右。

攻撃の選択肢が多い。

聖明のブロックが少し遅れる。

四番が高く跳ぶ。

ドンッ!!

今度はクロス。

守屋先輩が飛び込む。

指先に当たったボールが、コートの外へ転がった。

二対二。

「惜しい!」

「触れてる!」

水谷先輩が声をかける。

相手の四番は、何事もなかったように定位置へ戻っていく。

ストレートだけじゃない。

私たちがさっきまで見ていた映像よりも、打ち分けの幅が広い。

「結衣。」

監督が私を呼ぶ。

「はい。」

「焦るな。」

ノートを握る手に、いつの間にか力が入っていた。

「まだ二点だ。」

「はい。」

「試合の中で見ろ。」

私は一度、深く息を吸った。

全部を最初から当てようとしなくていい。

一本ずつ情報を集める。

神谷先輩にも、そう言われた。

コートへ視線を戻す。

三対三。

四対四。

五対五。

どちらも譲らない。

蓮先輩が高い打点から決めれば、相手の四番も決め返す。

水谷先輩がブロックアウトを取れば、相手のエースもコースを狙う。

一点を取るたびに。

一点を取られるたびに。

両方の応援席から、大きな音が響いた。

大阪の太鼓。

聖明の祭囃子。

歓声がぶつかり合い、体育館全体が揺れている。

七対七。

長いラリーが続く。

守屋先輩が拾う。

岡田先輩が繋ぐ。

神谷先輩が走る。

崩れた体勢から、水谷先輩へ高いトスを上げる。

「一本で決めるな!」

監督の声。

水谷先輩は無理に打ち切らず、ブロックの手へ当てた。

ボールが聖明側へ戻る。

「チャンス!」

守屋先輩が上げる。

神谷先輩がネット際へ入った。

相手のブロックが蓮先輩を警戒する。

神谷先輩の視線も、蓮先輩へ向いていた。

でも。

上がったトスは、反対側。

岡田先輩。

相手のブロックが一枚遅れる。

「岡田さん!」

守屋先輩の声が響く。

ドンッ!!

岡田先輩が空いたクロスへ打ち込んだ。

ボールが床へ落ちる。

八対七。

テクニカルタイムアウト。

聖明が一点リード。

「ナイス岡田!」

全員がベンチへ戻ってくる。

私は急いでドリンクを差し出した。

「ありがとうございます。」

岡田先輩が受け取りながら息を整える。

「四番、やっぱ上手いな。」

「はい。」

私はノートを開く。

「でも、少し気になることがあります。」

神谷先輩がすぐに顔を上げた。

「何だ。」

「四番、助走が短い時にストレートが多いのは変わってません。」

「ただ、長く取った時はクロスだけじゃなくて、ブロックアウトも狙ってます。」

杉山先輩がタオルで汗を拭く。

「じゃあ、短い時はストレートを締める。」

「長い時は手を出しすぎない方がいいか。」

「はい。」

神谷先輩は一度だけ相手コートを見る。

「次、試す。」

監督も頷いた。

「全部止める必要はない。」

「コースを限定して、守屋に拾わせろ。」

「任せてください。」

守屋先輩が胸を叩く。

「でも俺、一人じゃ無理なんで。」

「分かってる。」

水谷先輩が笑う。

「全員で拾うぞ。」

「はい!」

笛が鳴る。

選手たちがコートへ戻っていく。

観客席から、再び出囃子が響いた。

太鼓の音に合わせて、聖明の名前が呼ばれる。

神谷先輩がコートへ入る直前、こちらを振り返った。

目が合う。

「結衣。」

「はい。」

「次、見るぞ。」

それは確認ではなかった。

私が見つけたものを、コートの中で確かめるという言葉だった。

「はい!」

神谷先輩は小さく頷き、定位置へ戻る。

試合再開。

相手のレセプションが乱れる。

セッターが走る。

上がったのは四番への高いトス。

助走は短い。

「ストレート!」

私の声が飛ぶ。

杉山先輩が外側を締める。

相手の四番が腕を振り抜く。

ボールは狙い通り、ストレートへ飛んだ。

でも、そこには守屋先輩がいた。

「っしゃあ!!」

低い姿勢で、正確に拾う。

ボールが神谷先輩の頭上へ返った。

「ナイスレシーブ!」

神谷先輩が跳ぶ。

相手のブロックが蓮先輩へ寄る。

バックトス。

水谷先輩が助走へ入った。

ドンッ!!

ブロックの外側を弾き飛ばす。

ボールが観客席側へ落ちた。

九対七。

聖明の応援席が一気に立ち上がる。

太鼓。

笛。

歓声。

全部が重なり、体育館を震わせた。

守屋先輩が私を指差す。

「結衣、当たり!」

顔が熱くなる。

「まだ一本です!」

「その一本が大事なんだろ!」

水谷先輩が笑いながら守屋先輩の背中を叩く。

神谷先輩は何も言わなかった。

ただ、コートの中から私へ向けて、小さく頷いた。

それだけで十分だった。

強い。

間違いなく、一回戦の相手よりも。

でも。

届かない相手じゃない。

コートの中で戦う選手たちと。

ベンチで見続ける私。

観客席から背中を押してくれる人たち。

全員の力が、一つの一点へ繋がっていく。

全国大会二回戦。

聖明と凌星。

試合はまだ、始まったばかりだった

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