全国初勝利
アップが始まると、体育館の空気が一気に変わった。
「ナイス!」
「もう一本!」
あちこちから声が飛び交う。
ボールを打つ音が重なり、体育館中へ響いていた。
私はドリンクを並べながら、相手コートへ視線を向ける。
一回戦の相手。
三重代表・伊勢中央高校。
ウォーミングアップを見ているだけでも分かる。
全員が上手い。
レシーブはほとんど乱れない。
スパイクも高い。
「さすが全国……。」
思わず呟く。
ノートを開き、アップの様子を書き始める。
『エース、助走速い。』
『セッター、サーブ前に左手を見る癖。』
『リベロ、守備範囲広い。』
いつものようにペンが走る。
「結衣。」
顔を上げる。
神谷先輩だった。
「はい。」
「相手、どうだ。」
私はもう一度コートを見る。
「エースの打点が高いです。」
「あと、セッターは速いトスが多そうです。」
神谷先輩は相手を見つめたまま頷く。
「分かった。」
それだけ言うと、再びボールを手に取る。
パンッ。
鋭いサーブがコートの奥へ突き刺さった。
「ナイスサーブ!」
守屋先輩の大きな声が響く。
すると相手チームの何人かがこちらを見た。
「お。」
守屋先輩がニヤッと笑う。
「見られてる。」
「当たり前だ。」
水谷先輩が笑う。
「向こうも偵察してる。」
私は少し緊張した。
全国では、自分たちが相手を見るだけじゃない。
相手もこちらを見ている。
「橘。」
監督が呼ぶ。
「はい。」
「相手ばかり見るな。」
「え?」
「うちも見ろ。」
私は少し驚いた。
監督は続ける。
「全国まで来たんだ。」
「相手を分析するのも大事。」
「でも、お前が一番知ってるのは誰だ。」
私は聖明のみんなを見る。
神谷先輩。
水谷先輩。
蓮先輩。
岡田先輩。
杉山先輩。
小林先輩。
守屋先輩。
「……みんなです。」
「そうだ。」
監督は頷く。
「相手より、自分たちを信じろ。」
その言葉が胸に残った。
「集合!」
アップ終了の声が響く。
全員がベンチ前へ集まる。
監督はホワイトボードを置いた。
「相手は強い。」
誰も否定しない。
「だが、お前らも静岡を勝ち抜いてここへ来た。」
監督は一人ひとりの顔を見る。
「胸を張れ。」
全員が頷く。
その時だった。
会場アナウンスが響く。
『まもなく第一試合を開始します。出場校は入場してください。』
体育館全体の空気が張り詰める。
神谷先輩が立ち上がった。
「行こう。」
その一言で全員が立ち上がる。
私はタオルとドリンクを持ち直した。
全国大会、一回戦。
ついに、その一歩が始まる。
主審の笛が鳴る。
全国大会、一回戦。
聖明高校、最初の試合が始まった。
「お願いします!!」
両チームの声が体育館へ響く。
最初のサーブは神谷先輩。
深呼吸を一つ。
高くトスを上げる。
パンッ!
鋭いサーブが相手コートへ突き刺さる。
「ナイス!」
守屋先輩の声が飛ぶ。
しかし相手も全国代表だった。
レシーブは崩れない。
速い攻撃。
高い打点。
一進一退のラリーが続く。
「一本!」
「切り替え!」
点差は離れない。
8対8。
12対12。
17対17。
私はノートを見ながら相手を追い続けた。
『エース、苦しい場面はクロス。』
『リベロ、前へ落ちるボールに反応が遅い。』
「神谷先輩!」
タイムの合間、小さく伝える。
「エース、クロス多いです!」
神谷先輩は一度だけ頷いた。
コートへ戻る。
次の一本。
杉山先輩がクロスへしっかり手を出す。
ワンタッチ。
「チャンス!」
神谷先輩の速いトス。
蓮先輩。
ドンッ!!
コートへ突き刺さる。
「よっしゃあ!!」
聖明ベンチが立ち上がる。
流れは少しずつ聖明へ傾いた。
22対21。
23対22。
24対23。
セットポイント。
最後は神谷先輩のサーブ。
相手のレシーブが乱れる。
返ってきたボールを水谷先輩が冷静に繋ぐ。
神谷先輩。
バックトス。
蓮先輩が助走へ入る。
「っ!!」
ドォン!!
ブロックを弾き飛ばし、コートへ叩きつけた。
ピーッ!!
25対23。
第一セット。
聖明。
「ナイス!!」
全員が拳を合わせる。
私は急いでドリンクを並べた。
「結衣。」
「はい。」
神谷先輩が汗を拭きながら近付く。
「次も頼む。」
「はい。」
第二セットが始まる。
今度は最初から聖明のペースだった。
神谷先輩のサーブで崩し。
守屋先輩が拾い。
水谷先輩が繋ぎ。
速攻。
バックアタック。
時間差。
攻撃が次々に決まる。
「ナイス!!」
10対5。
15対10。
相手も必死に食らいつく。
それでも流れは渡さない。
「結衣!」
守屋先輩がベンチへ走る。
「ゼリー!」
「はい!」
「ありがとう!」
「食べ過ぎですよ。」
「今日は全国だから!」
思わず笑ってしまう。
その笑顔のままコートを見る。
神谷先輩が静かに頷く。
最後まで集中は切れていない。
20対15。
22対17。
マッチポイント。
24対18。
最後の一本。
神谷先輩のトスが中央へ上がる。
杉山先輩。
鋭いクイック。
ドンッ!!
ボールがコートへ突き刺さる。
ピーーーッ!!
試合終了。
25対18。
セットカウント2対0。
聖明高校、一回戦突破。
「ありがとうございました!!」
全員で整列する。
私は深く頭を下げた。
全国大会。
その最初の一勝。
聖明は、ストレート勝ちで勝ち取った。




