希薄な酸素、満ちる熱
体育館の扉を開けた瞬間、
空気が少しだけ重く感じた。
「ここ標高高いから」
誰かが、軽く言う。
「最初きついよ」
(……え?)
その時はまだ、軽く考えていた。
「よし、アップから行くぞ」
部長の声で、全員が動き出す。
その間に、ボールやドリンクを運ぶ。
いつもやってること。
それだけのはずなのに――
「……っは」
息があがる。
たったそれだけなのに、胸が苦しい。
(……なんで)
少し歩いただけなのに、
呼吸が浅くなる。
腕に持ったボールがいつもより重く感じた。
コートの中ではアップが始まっている。
走る音。
声。
ボールの音。
全部がいつもより遠く感じる。
(……ついていけない)
何もしてないのに、そんな感覚だけが残る。
「ボールこっち!」
呼ばれて、慌てて動く。
走る。
それだけで息があがる。
「はっ……はっ」
渡すだけなのに、
それすら遅れる。
(やばい)
そう思った瞬間、
別の手が、自然にそのボールを受け取った。
「大丈夫か」
低い声。
振り向くと凛太郎がいた。
「……すみません」
息を整えながら返す。
「大丈夫、そのうち慣れる」
短く言って、すぐにコートに戻る。
走る。
ボールを集める。
渡す。
ドリンクを作る。
その繰り返し。
それだけなのに、体が思うように動かない。
「……っは」
呼吸が浅い。
頭が少しぼんやりする。
(……無理かも)
一瞬頭をよぎる。
コートの中の人はきっともっとしんどい。
こんな所で負けていられない。
ボールが飛んでくる。
何となく、ここに行けばボールを逸らすことなく取れる。
いつもより、少しだけ早く動けた。
「ナイス!」
声が飛ぶ。
私に向けられたものじゃないのはわかっている。
でも、それが嬉しかった。
(……まだ、ここからだ)
全然できてない、足りてない。
もっとやらないと。
「だいぶ動けるようになったな」
「な、最初より全然いい」
「ちゃんと周りも見えてる」
「俺たちも負けてらんないな」
その声は届かない。
ほんの少しだけボールが見えてきた。
少しづつ無駄な動きを無くせてる気がした。
「いいな」
顔をあげる。
凛太郎がいた。
「それ取ってくれるの、助かる。」
それだけ言って、視線を外す。
(……え)
思考が止まる。
でも次の声が飛んでくる。
また体が動く。
苦しい。
息も上がる。
目も霞んでくる。
それでも、少しだけ
さっきより動けている気がした。




