はじまりの合宿
合宿当日。
朝の空気は、まだ少し冷たかった。
学校の前には、すでに何人か集まっている。
普段より少し早い時間。
それだけで、空気が違う気がした。
「おはよー」
声をかけられて、小さく挨拶をする。
まだ眠そうな人もいれば、すでに騒いでいる人もいる。
その中にいると、
(……なんか、場違いかも、)
ふと、そんな感覚がよぎる。
まだ、この空気に、ちゃんと馴染めていない気がした。
「全員いるな?」
部長水谷の声で、ざわつきが落ち着く。
「じゃあ荷物積んで、出るぞ」
言われるままに、バスへと向かう。
座席に座って、窓の外を見る。
もう、見慣れた景色なのに今日は少し冷たく見えた。
(……合宿)
まだ実感なないけど、
確実に自分も、チームも何かが変わる気がする。
バスがゆっくりと動き出す。
その揺れに合わせて、
胸の奥も、少しだけ揺れた気がした。
ふと、前の席に目がいく。
凛太郎が、窓の外を眺めていた。
相変わらず、表情は動かない。
周りの声から、少しだけ離れているみたいに見える。
(なにを見て、なに考えてんだろ)
そんなことを考えてしまった。
少しずつ、街が遠くなっていく。
まだ始まったばっかなのに
なぜか
少しがけ、胸が落ち着かなかった。
宿について、荷物を置いたあと。
全員が一室に集められた。
畳の上に並ぶ空気は、作家までの移動とは少し違う。
「座れ」
部長の一言で、ざわつきが静まる。
それだけで、この人の立場がわかる。
「今回の合宿の目的は、5月の予選に向けた調整だ」
低く、はっきりした声。
「インターハイは、その先にある」
その言葉に、誰もフザ切る空気はない。
「ゴールデンウィークの間で、どこまで仕上げれるか」
「正直、ここで決まると思ってる。」
空気が、少しだけ重くなる。
(……そんなに大事なんだ)
なんとなくできている自分との温度差に、少しだけ息が詰まる。
「練習試合も組んでる。逃げ場はないと思え」
短く言い切る。
その言葉に、誰も反応しない。
ただ、受け止めているだけ。
「以上。質問あるやついるか」
沈黙。
誰も手をあげない。
「……ないな」
そう言って、部長は立ち上がる。
「じゃあ、各自準備して14時に体育館に集合」
一気に空気が緩む。
ざわざわと音が戻る中で、
(……大丈夫かな)
小さく、不安が溢れる。
こんな空気に中で、
ちゃんとやっていけるのか……
「考えすぎ」
すぐ近くにから、声。
顔を上げると、凛太郎が立っていた。
「え」
「顔に出てる」
相変わらず、淡々とした声。
「最初はそんなもんだろ」
それだけ言って、すぐ視線を外す。
フォローなのか、ただの真実なのか。
よくわからない。
でも、
(……少しだけ、楽かも)
さっきより、ほんの少しだけ。




