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青春病。  作者: 翠吉
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コートの外の戦い方

翌朝。

目覚ましが鳴るより少し前に目が覚めた。

身体を起こすと、昨日の疲れが一気に押し寄せる。

選手でもない私でこれなら、先輩たちはもっときついはずだ。

急いで着替え、食堂へ向かう。

厨房では、水谷先輩と蓮先輩が朝食の準備をしていた。

「おはようございます。」

「おはよう、結衣。」

水谷先輩が振り返る。

「早いな。」

「手伝います。」

「じゃあ、パン並べてくれる?」

「はい。」

皿へパンとゼリーを並べていく。

しばらくすると、二階から足音が聞こえ始めた。

「おはようございます……。」

守屋先輩が眠そうな顔で入ってくる。

髪は跳ねたまま。

目も半分しか開いていない。

「守屋、顔洗った?」

水谷先輩が聞く。

「洗いました。」

「嘘つけ。」

「水には触りました。」

「もう一回行ってこい。」

守屋先輩が肩を落としながら食堂を出ていく。

その後ろから、神谷先輩が入ってきた。

「おはようございます。」

「ああ。」

神谷先輩は机に並んだ朝食を見る。

「ゼリーあるんだな。」

「昨日、買っておきました。」

「そうか。」

一つ手に取り、席へ座る。

水谷先輩がこちらを見て、何か言いたそうに笑った。

私は気付かないふりをして、残りのパンを並べた。

朝食を終えると、すぐに午前練習が始まった。

昨日と同じ基礎体力。

走って。

跳んで。

また走る。

二日目の疲れが残る中、練習の量は減らなかった。

「足止めるな!」

監督の声が響く。

「全国は疲れたからって待ってくれないぞ!」

「はい!」

返事は出ている。

それでも、昨日より明らかに身体が重そうだった。

守屋先輩のレシーブが少しずれる。

杉山先輩のブロックが遅れる。

蓮先輩の着地も、普段より深い。

私は給水のたびに一人ずつ様子を確認した。

「蓮先輩、足大丈夫ですか?」

「大丈夫。」

蓮先輩が膝を曲げ、軽く確かめる。

「ただ疲れてるだけ。」

「少しでも違和感があったら言ってください。」

「分かった。」

「本当にですよ。」

「結衣、最近厳しいな。」

「全国前なので。」

「はいはい。」

蓮先輩が笑いながらドリンクを受け取る。

午前の後半。

監督が選手を二つのチームへ分けた。

「昨日見た映像を使う。」

ホワイトボードに簡単な配置を書く。

「片方は、昨日の高校を想定して攻撃しろ。」

「セッターは水谷。」

「俺ですか?」

「相手の癖を再現しろ。」

水谷先輩が苦笑する。

「難しいな。」

「神谷たちは、それを見抜いて止めろ。」

「はい。」

私はベンチの横に立ち、ノートを開いた。

ゲームが始まる。

水谷先輩がトスを散らす。

中央。

ライト。

レフト。

神谷先輩たちは、映像で見た癖を意識しながら動く。

けれど、最初の数本は上手く噛み合わなかった。

「遅い!」

監督の声が飛ぶ。

「分かってから動いても間に合わないぞ!」

神谷先輩がネット際で水谷先輩を見る。

次のラリー。

レシーブが綺麗に返る。

水谷先輩がボールの下へ入った。

左足。

ほんの少し外へ開く。

「レフト!」

私は反射的に声を出した。

水谷先輩のトスが左へ上がる。

杉山先輩と岡田先輩が揃って跳ぶ。

ブロック。

ボールが相手コートへ落ちた。

「よし!」

神谷先輩が二人の背中を叩く。

次の一本。

水谷先輩の足は真っ直ぐ。

「センターです!」

今度は小林先輩が早く動く。

完全には止められなかった。

それでも、ワンタッチを取る。

守屋先輩が拾う。

神谷先輩が走る。

トスは蓮先輩。

一枚。

高い打点から叩き込む。

「ナイス!」

少しずつ。

昨日見つけたものが、コートの中で形になっていく。

ゲームの途中、監督がボールを止めた。

「橘。」

「はい。」

「声が遅い。」

「すみません。」

「見えてるなら、迷うな。」

私はノートを握り直す。

「はい。」

再開。

水谷先輩がボールを持つ。

レシーブが乱れる。

今度は足の向きだけでは分からない。

水谷先輩の視線。

身体の傾き。

スパイカーの助走。

全部を見る。

レフトが早い。

でも、センターも入っている。

神谷先輩のブロックが中央へ寄った。

その瞬間、水谷先輩が背面へ上げる。

「ライト!」

私の声と同時に、神谷先輩が振り返る。

岡田先輩が一歩遅れて跳ぶ。

ボールはブロックの指先に当たり、守屋先輩の前へ落ちた。

「上がった!」

守屋先輩が拾う。

神谷先輩がすぐに切り返す。

中央へ速いトス。

杉山先輩が決めた。

笛が鳴る。

「今のはいい。」

監督が短く言う。

私は小さく息を吐いた。

神谷先輩がネット越しにこちらを見る。

何も言わない。

ただ一度だけ、頷いた。

それだけで、今の判断が間違っていなかったと分かった。

ゲームは続いた。

何度も外す。

見えていたのに、声が遅れる。

逆に読まれることもある。

それでも、少しずつ成功する回数が増えていった。

最後のラリー。

水谷先輩が長いラリーの後、中央を使う。

杉山先輩が跳ぶ。

ブロックに当たり、ボールが戻る。

もう一度、水谷先輩。

今度はライト。

昨日の映像と同じ形。

「右、遅れます!」

神谷先輩がすぐに反応した。

ブロックが遅れた場所へ、蓮先輩のトスを上げる。

「蓮!」

高く跳ぶ。

鋭いスパイクがコートへ突き刺さった。

笛。

ゲーム終了。

「ありがとうございました!」

全員の声が響く。

選手たちはその場に座り込み、息を整えていた。

私も緊張が解け、長く息を吐く。

「結衣。」

神谷先輩がこちらへ歩いてくる。

「はい。」

「最後の。」

「右への移動ですか?」

「ああ。」

神谷先輩が汗を拭いながら頷く。

「早かった。」

「昨日、何度も見たので。」

「それでいい。」

短く答え、ドリンクを受け取る。

「でも。」

「はい?」

「外した時も言え。」

「え?」

「正解だけ残したら、次も間違える。」

その言葉に、私はノートを見る。

当たった場面だけではない。

外した理由。

迷った瞬間。

見落とした動き。

それも全部、残さなければいけない。

「分かりました。」

私は新しいページを開いた。

「全部書きます。」

神谷先輩は小さく頷き、コートへ戻っていく。

見つけるだけじゃ足りない。

伝えて。

試して。

間違えて。

また見る。

全国で戦うための練習は。

選手だけのものではなかった。

私も今。

同じコートの外側で、戦い方を覚え始めていた。

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