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青春病。  作者: 翠吉
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1本に繋がる目


夕食を終えると、全員で食堂の奥にある会議室へ移動した。

壁には白いスクリーン。

中央には監督が用意したプロジェクターが置かれている。

「座れ。」

選手たちが椅子へ腰を下ろす。

長い一日の練習を終えたばかりで、全員の顔に疲れが見えていた。

守屋先輩は椅子の背もたれへ身体を預け、大きく息を吐く。

「寝るなよ。」

水谷先輩が横から言う。

「まだ寝てません。」

「まだって言ったな。」

「気のせいです。」

私は一番後ろの席へ座り、ノートを開いた。

前方の照明が消える。

スクリーンに映し出されたのは、全国大会へ出場する高校同士の試合映像だった。

「去年の全国大会、ベスト八。」

監督がリモコンを操作する。

「今年も主力はほとんど残っている。」

映像が動き出す。

速いサーブ。

高いブロック。

乱れたボールでも簡単には落とさないレシーブ。

県大会で対戦したどのチームとも違う。

「でか……。」

守屋先輩が小さく呟く。

相手のスパイカーが三枚ブロックの上から打ち抜く。

「最高到達点、三百四十超え。」

監督が言った。

「でも、高さだけじゃない。」

映像を一度止める。

「今の攻撃。何が見えた。」

誰もすぐには答えなかった。

水谷先輩が腕を組む。

「センターを見せて、レフト。」

「それもある。」

監督が映像を少し戻す。

同じ場面が、もう一度流れる。

私は相手セッターを見る。

レシーブが返る。

センターが助走へ入る。

その直前。

セッターの身体が、ほんの少しだけ左へ向いた。

「あの。」

思わず声が出た。

全員が振り返る。

「橘。」

監督が先を促す。

「相手のセッターなんですけど。」

私は映像を指差す。

「レフトへ上げる時だけ、ボールの下に入る前に左足が少し外へ向いてます。」

監督が映像をもう一度戻した。

ゆっくり再生される。

レシーブ。

セッターが移動する。

確かに、左足のつま先が少しだけ外側を向いていた。

神谷先輩が椅子から少し身を乗り出す。

「もう一回。」

映像が繰り返される。

今度はセンターへ上げる場面。

足は真っ直ぐ。

次はライト。

身体が少し後ろへ残る。

そしてレフト。

左足が外へ開く。

「癖か。」

水谷先輩が呟く。

「たぶんですけど。」

私はノートへ視線を落とす。

「レシーブが綺麗に返った時だけです。乱れた時は分かりません。」

神谷先輩がスクリーンを見たまま頷く。

「十分。」

監督が映像を進める。

次は相手のサーブ。

背番号八がエンドラインへ立つ。

強烈なジャンプサーブが、相手コートの奥へ突き刺さった。

一本目。

次も同じ選手。

今度はネット際へ短く落ちる。

受け手が反応できず、サービスエース。

「今のは厄介だな。」

蓮先輩が言う。

映像がさらに進む。

同じ選手のサーブが何本か続いた。

強打。

強打。

短いサーブ。

また強打。

私はペンを止める。

何かが引っかかった。

「監督。」

「なんだ。」

「少し戻してもらえますか。」

映像が戻る。

背番号八がサーブ位置へ立つ。

ボールを一度床へ突く。

高いトス。

強打。

次の場面。

同じように一度床へ突く。

強打。

短いサーブの場面。

ボールを二度、床へ突いた。

「もう一回お願いします。」

見間違いではなかった。

短く落とす時だけ、ボールを二度突いている。

「回数が違います。」

私が言う。

「強く打つ時は一回です。でも、前へ落とす時は二回。」

守屋先輩が目を細める。

「本当だ。」

「映像の中では全部そうです。」

「全部?」

「四本しかないですけど。」

監督は少し考え、ノートへ何かを書き込んだ。

「守屋。」

「はい。」

「背番号八が二回突いたら、一歩前を意識しろ。」

「はい。」

映像が続く。

今度は相手のブロック。

蓮先輩のような高いスパイカーを、三枚で何度も止めている。

「真ん中の動きが速い。」

杉山先輩が言う。

「両サイドにほとんど遅れない。」

神谷先輩もスクリーンを見つめていた。

私は中央のブロッカーではなく、ライト側の選手を見る。

相手のレフト攻撃。

三枚が揃う。

ライト攻撃。

また三枚。

速い中央。

二枚。

けれど。

一つ前のラリーで長く動いた直後だけ、ライト側のブロッカーが少し遅れていた。

「この人。」

私は相手の背番号三を指差す。

「長いラリーの後、右への移動が少し遅くなってます。」

「疲れてるだけじゃない?」

守屋先輩が聞く。

「それもあると思います。」

映像を見返す。

長いラリーの次。

背番号三の一歩目が遅れる。

さらに別の場面。

何度も左右へ振られた後、ライト側へのブロックが半歩遅れていた。

「左へは速いです。」

私は続ける。

「でも、右へ動く時だけ少し身体が残ってます。」

神谷先輩が腕を組んだまま、映像を見つめる。

「蓮を使える。」

「え?」

「長いラリーの後。」

神谷先輩が短く答える。

「三番を一度センターへ寄せて、次にライト。」

監督が頷く。

「使えるかどうかは、お前のトス次第だ。」

「はい。」

映像が止まる。

部屋の照明がついた。

眩しさに目を細める。

監督が全員を見渡した。

「今見つけたことが、全国でもそのまま通用するとは限らない。」

全員が静かに聞く。

「相手も変えてくる。」

「それでも、気付けるかどうかで一本が変わる。」

監督の視線が私へ向いた。

「橘。」

「はい。」

「今の三つ、まとめておけ。」

「分かりました。」

私は急いでノートへ書き込む。

セッターの左足。

サーブ前のボールの回数。

背番号三の右への移動。

文字にしていると、隣から小さな声が聞こえた。

「よく見てんな。」

顔を上げる。

神谷先輩が立っていた。

「映像なので、何度も見られただけです。」

「それでも気付かない奴は気付かない。」

「神谷先輩は気付いてなかったんですか?」

「足は見てた。」

「じゃあ、一緒ですね。」

「サーブは見てなかった。」

少しだけ悔しそうに言う。

その表情が珍しくて、思わず笑った。

「何。」

「神谷先輩でも見落とすんだなって。」

「お前。」

神谷先輩が私のノートへ視線を落とす。

「明日から、映像は隣で見ろ。」

「え?」

「見えたこと、すぐ言え。」

それだけ言って、先に会議室を出ていく。

私は開いたままのノートを見る。

今までは、先輩たちの邪魔にならないように。

少し離れた場所から、ただ見ていた。

でも今は。

見つけたことを、伝えていい。

私の目が。

全国で戦うための、一本に繋がるかもしれない。

そう思うと、眠いはずなのに胸の奥が熱くなった。

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