↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
青春病。  作者: 翠吉
PR
54/69

夏合宿

インターハイ出場が決まってから、一週間。

全国大会へ向けた夏合宿の日程が発表された。

今回は長野ではなく、学校の合宿棟を使うことになった。

体育館のすぐ裏にある、古い二階建ての建物。

寝泊まりだけでなく、食事も自分たちで用意するらしい。

「ということで。」

練習後、水谷先輩が一枚の紙を掲げた。

「明日の午後、買い出し行くぞ。」

「誰が行くんすか?」

守屋先輩が聞く。

「俺と結衣。」

水谷先輩が紙を見ながら答える。

「あと、蓮と守屋。」

「神谷さんは?」

「監督と練習メニューの確認。」

神谷先輩は壁際でボールを片付けながら、小さく頷いた。

「食材は三日分。」

水谷先輩が続ける。

「米、肉、野菜、飲み物。あとは朝飯用のパンとか。」

「お菓子は?」

「いらない。」

「必要です。」

「練習しに行くんだぞ。」

「糖分は大事です。」

守屋先輩が真剣な顔で言う。

「じゃあ自分の金で買え。」

「厳しい。」

蓮先輩が笑いながら、守屋先輩の肩を叩いた。

「俺も買うから。」

「さすが蓮さん。」

「ただし、神谷に見つからないようにしろよ。」

「聞こえてる。」

神谷先輩の声が飛ぶ。

守屋先輩は何も言わず、蓮先輩の後ろへ隠れた。

翌日。

練習を終えた私たちは、学校の近くにあるスーパーへ向かった。

入口で水谷先輩が買い物リストを広げる。

「二組に分かれるか。」

「俺たち、お菓子見てきます。」

守屋先輩がすぐに言う。

「食材を見ろ。」

「分かってますって。」

「蓮、頼んだ。」

「任せて。」

蓮先輩が苦笑しながら、守屋先輩を連れて店の奥へ向かう。

私は水谷先輩と一緒に、野菜売り場へ向かった。

「結衣、何から見る?」

「カレーの材料からでいいと思います。」

「やっぱり合宿はカレーか。」

「一日目なら作りやすいですし。」

「さすがマネージャー。」

カートへじゃがいもと玉ねぎを入れる。

人数を考えながら、量を一つずつ確認していく。

「これで足りますかね。」

「凛太郎と蓮がいるから、もう少しいるかも。」

「神谷先輩、そんなに食べます?」

「合宿中は食う。」

「普段、朝はあまり食べてないですよね。」

水谷先輩の手が止まった。

「よく見てるな。」

「マネージャーなので。」

私はそのまま人参をカートへ入れる。

「朝はゼリーもあった方がいいと思います。」

「凛太郎用?」

「全員分です。」

「まだ何も言ってないけど。」

水谷先輩が笑う。

「そういう言い方やめてください。」

「ごめんごめん。」

今度は飲み物の売り場へ向かう。

スポーツドリンク。

水。

お茶。

箱の数を確認しながらカートへ積んでいく。

「重いのは俺が持つから。」

「大丈夫です。」

「合宿始まる前にマネージャーが怪我したら困る。」

水谷先輩が私の持っていた箱を取り上げる。

「ありがとうございます。」

「凛太郎も同じこと言いそうだな。」

「言わないと思います。」

「言うよ。」

水谷先輩は前を向いたまま答えた。

「前だったら、黙って持っていくだけだったけど。」

「今もそんな感じじゃないですか?」

「そう見える?」

「はい。」

「じゃあ、まだ分かってないな。」

「何がですか?」

聞き返す。

水谷先輩は少しだけ笑った。

「別に。」

「それ、葵もよく言います。」

「便利な言葉だからな。」

結局、それ以上は教えてくれなかった。

売り場を一周して、必要な物を確認する。

最後に朝食用のパンを選んでいると、遠くから守屋先輩の声が聞こえた。

「蓮さん、これ絶対いりますって!」

「三袋は多いだろ。」

「合宿は長いんですよ?」

「三日だぞ。」

二人のカートには、食材よりもお菓子の方が多く入っていた。

「守屋。」

水谷先輩が低い声で呼ぶ。

「はい?」

「戻してこい。」

「全部ですか?」

「全部。」

「蓮さん。」

「俺を見るな。」

守屋先輩は肩を落としながら、お菓子を一つずつ棚へ戻し始めた。

その背中を見て、思わず笑う。

「結衣まで笑わないでよ。」

「すみません。」

「絶対思ってない。」

買い出しを終え、四人で学校へ戻る。

体育館では、神谷先輩たちがまだ練習を続けていた。

「ただいま戻りました。」

私が声をかけると、神谷先輩がこちらを見る。

「買えたか。」

「はい。」

「守屋が余計な物入れなかったか。」

「なんで俺だけ疑われるんすか!」

「入れただろ。」

「戻しました。」

「やっぱり入れたんじゃねぇか。」

水谷先輩が笑いながら、買ってきた物を合宿棟へ運び始める。

私も袋を持ち上げようとした。

その前に、神谷先輩が一つ持っていく。

「それ、軽いですよ。」

「知ってる。」

「じゃあ私が持ちます。」

「他の持て。」

神谷先輩はそれだけ言って、合宿棟へ向かった。

私は残された袋を持ち上げ、その後ろを追う。

水谷先輩の言葉を思い出す。

前だったら、黙って持っていくだけだった。

今も、ほとんど同じに見える。

でも。

少しだけ違うのかもしれない。

そう思った瞬間、前を歩いていた神谷先輩が振り返る。

「結衣。」

「はい?」

「遅い。」

「今行きます!」

慌てて歩幅を広げる。

明日から、夏合宿。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。