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青春病。  作者: 翠吉
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たった一言

数日後。

全国大会へ向けた練習は、県予選前よりもさらに厳しくなっていた。

「もう一本!」

神谷先輩の声が飛ぶ。

守屋先輩が床へ滑り込み、弾いたボールを水谷先輩が繋ぐ。

蓮先輩が助走へ入る。

高く跳び、ブロックの上から叩き込んだ。

「ナイス!」

私は空になったボトルを回収しながら、記録用紙へ目を落とす。

県予選で優勝しても、何かが大きく変わったわけではない。

先輩たちは、今日も一本のために走っている。

「結衣。」

体育館の入口から声が聞こえた。

振り返る。

「葵?」

葵が小さな紙袋を持って立っていた。

「お邪魔します。」

「どうしたの?」

「インターハイ出場のお祝い。」

「わざわざ持ってきたの?」

「結衣にじゃないよ。バレー部の皆さんに。」

「分かってるよ。」

紙袋の中には、個包装されたお菓子がたくさん入っていた。

「ありがとう。練習が終わったらみんなに渡すね。」

「うん。」

葵は体育館の中を見渡した。

「せっかくだから見ていってもいい?」

「いいと思うけど、ちょっと待ってて。」

監督へ確認すると、邪魔にならない場所なら構わないと言われた。

葵は壁際へ移動し、練習を眺め始める。

「橘、ボール!」

「はい!」

私はすぐにコートの外へ転がってきたボールを拾う。

神谷先輩へ投げると、胸元へ真っ直ぐ収まった。

「ナイス。」

「はい。」

次のボールを拾いに動く。

練習が続く間、葵は何も言わずにこちらを見ていた。

給水の時間になり、私は先輩たちへドリンクを渡していく。

「水谷先輩。」

「ありがとう。」

「蓮先輩、これです。」

「助かる。」

最後に神谷先輩へ渡す。

「はい。」

「ああ。」

神谷先輩が受け取る。

その様子を見ていた葵が、少しだけ笑った。

「何?」

私が近づくと、葵は首を横に振る。

「別に。」

「絶対何かあるじゃん。」

「結衣、ちゃんとマネージャーしてるなと思って。」

「そりゃするでしょ。」

「前より自然。」

「何が?」

「みんなと話すの。」

葵はコートへ視線を戻す。

「入ったばっかりの頃は、先輩に話しかけられるたびに固まってたのに。」

「そんなことないよ。」

「名前を呼ばれただけで慌ててたじゃん。」

誰に。

そう聞く前に、葵が神谷先輩の方を見る。

「特に凛太郎先輩。」

「それは……。」

否定しようとしたけれど、最初の頃を思い出すと言葉が続かなかった。

「今は普通に話してる。」

「毎日一緒にいるんだから、慣れるよ。」

「ふーん。」

「何、その言い方。」

「別に。」

またそれだ。

休憩が終わり、私は練習へ戻った。

それから一時間ほど経ち、練習が終わる。

「ありがとうございました!」

全員の声が体育館へ響いた。

片付けを終えた先輩たちへ、葵から預かったお菓子を渡す。

「これ、葵からです。」

「まじで?」

守屋先輩が嬉しそうに紙袋を覗き込む。

「葵ちゃん、ありがとうございます!」

「いえ。インターハイ出場おめでとうございます。」

「さすが結衣の親友。」

「どういう意味ですか。」

「気が利く。」

「結衣より?」

「ちょっと、守屋先輩。」

笑い声が起きる。

葵も楽しそうに笑っていた。

「そういえば。」

守屋先輩が何かを思い出したように手を叩く。

「葵ちゃん、集合写真見た?」

「見ました。」

「結衣、一番似合ってたでしょ。」

「すごく似合ってました。」

「やめてください!」

「凛太郎さんの隣で、めちゃくちゃ笑ってたよな。」

「優勝したからです!」

「誰もそれ以外だなんて言ってないけど。」

「守屋。」

神谷先輩の低い声が飛ぶ。

「片付け終わってねぇぞ。」

「終わってますって。」

「なら帰れ。」

「照れてるんすか?」

「もう一本レシーブやるか。」

「帰ります!」

守屋先輩が急いで鞄を持ち上げる。

その場にいた全員が笑った。

神谷先輩は呆れたように息を吐き、私の方を一度だけ見た。

目が合いそうになり、私は慌てて紙袋へ視線を落とす。

「じゃあ、私も帰るね。」

葵が言った。

「一緒に帰らないの?」

「結衣、まだ片付けあるでしょ。」

「もう少しで終わるけど。」

「今日は先に帰る。」

葵は私の肩を軽く叩く。

「頑張ってね。」

「何を?」

「いろいろ。」

「いろいろって何。」

葵は答えず、そのまま体育館を出ていった。

私は首を傾げながら、残ったボトルを片付ける。

「結衣。」

後ろから神谷先輩に呼ばれた。

「はい?」

「葵って、いつもあんな感じなのか。」

「すみません。昔から余計なことばっかり言うんです。」

「別に。」

神谷先輩は短く返し、外したネットをまとめる。

少しだけ沈黙が続いた。

「集合写真のこと、気にしないでくださいね。」

「何が。」

「その……ユニホームとか、隣だったこととか。」

「気にしてねぇよ。」

「そうですよね。」

それだけ答えて、私はボトルを箱へ戻す。

「でも。」

神谷先輩がネットを抱えたまま、こちらを見る。

「似合ってた。」

「え?」

聞き返した時には、神谷先輩はもう倉庫へ向かっていた。

「神谷先輩。」

呼んでも振り返らない。

私はその背中を見つめたまま、しばらく動けなかった。

県予選が終わって。

全国へ向けた毎日が始まって。

私たちの距離は、何も変わっていないはずだった。

それなのに。

たった一言で。

前よりもずっと、胸が騒ぐようになっていた

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