1番強い時
十六対十八。
青峰リード。
会場の歓声も、少しずつ青峰へ傾いていく。
「ナイスキー!」
相手ベンチの声が響く。
その勢いに飲まれるように、聖明は思うように攻撃を決め切れなかった。
蓮先輩のスパイクも拾われる。
水谷先輩のフェイントも繋がれる。
杉山先輩のクイックにもブロックが付く。
「まだ!」
守屋先輩が何度も床へ飛び込む。
一本。
また一本。
何度倒れても立ち上がる。
「オーライ!」
「繋げ!」
「もう一本!」
誰一人、諦める声はなかった。
十八対二十。
あと二点離されれば、流れは完全に青峰だった。
私は記録を書きながら、無意識に拳を握る。
苦しい。
それでも。
ベンチの空気だけは変わらなかった。
「焦るな。」
水谷先輩が静かに言う。
「我慢。」
神谷先輩も短く続ける。
「一本。」
蓮先輩が頷く。
「一本ずつ。」
その言葉だけで、不思議と全員の表情が落ち着いていく。
次のラリー。
青峰の強烈なサーブ。
守屋先輩が身体ごと受け止める。
少し乱れる。
神谷先輩が走る。
ネットから離れた位置。
それでも両手で高く上げる。
蓮先輩。
二枚ブロック。
「くっ……!」
止められる。
「まだ!」
岡田先輩が落ちる寸前で繋ぐ。
水谷先輩。
フェイント。
拾われる。
またラリー。
今度は青峰の攻撃。
エース。
リベロ。
センター。
何度も打ってくる。
「守屋!」
「はい!」
一本。
「杉山!」
「ナイスワン!」
また一本。
「小林!」
「オッケー!」
さらに一本。
三十秒近く続くラリー。
体育館中が息を呑んでいた。
最後。
青峰エースのスパイクがライン際へ落ちる。
十八対二十一。
「くそっ……!」
守屋先輩が床を軽く叩く。
悔しい。
でも誰も責めない。
神谷先輩が守屋先輩へ手を差し出す。
「ナイス。」
守屋先輩はその手を掴んで立ち上がる。
「次。」
「はい。」
その姿を見て、私は気付いた。
点は取られている。
押されてもいる。
それでも。
誰も下を向いていない。
苦しい時間を、全員で耐えている。
これが。
監督がいつも言っていた。
『チーム』
なんだ。
十九対二十二。
二十対二十二。
一点返す。
でもまた取られる。
二十対二十三。
会場の空気は、まだ青峰だった。
その時。
神谷先輩がボールを受け取り、全員を見渡した。
「ここから。」
静かな声だった。
でも。
その一言だけで、全員の目が変わる。
水谷先輩が笑う。
「やっと来たか。」
蓮先輩も小さく息を吐いた。
「待ってた。」
守屋先輩が拳を握る。
「ここからっす。」
私は記録用紙から顔を上げる。
流れが変わる。
理由なんて分からない。
でも。
毎日この人たちを見てきた。
だから分かる。
この空気は。
聖明が、一番強い時の空気だった。




