ここからが本番
試合再開。
青峰のタイムアウトが明ける。
相手セッターがコートへ戻ると、神谷先輩へ小さく笑った。
「面白くなってきた。」
神谷先輩も静かに返す。
「まだこれからだ。」
笛。
青峰のサーブ。
今度は狙いを変えてきた。
一直線に、水谷先輩へ。
「来た!」
水谷先輩が身体を入れる。
綺麗に返る。
神谷先輩が走る。
蓮先輩へ上がる。
三枚。
完全に囲まれた。
「くっ……!」
ブロックアウトを狙ったボールだった。
だが。
青峰はそれすら読んでいた。
ボールがコートへ返ってくる。
「まだ!」
守屋先輩が飛び込む。
片手一本。
高く上がる。
神谷先輩が追う。
今度は水谷先輩。
ブロック一枚。
強打。
ドンッ。
十五対十一。
「ナイス!!」
聖明ベンチが立ち上がる。
その一本で終わらなかった。
青峰も意地を見せる。
相手エース。
サービスエース。
十五対十二。
さらに。
ブロック。
十五対十三。
一本。
また一本。
点差が縮まっていく。
「落ち着け!」
水谷先輩が叫ぶ。
「まだリードしてる!」
その声に全員が頷く。
十七対十六。
一点差。
体育館の熱気がさらに増していく。
私は記録を書きながら、青峰のベンチを見る。
監督は腕を組んだまま動かない。
その隣。
相手セッターだけが神谷先輩を見続けていた。
「神谷。」
試合中。
ネット越しに声が飛ぶ。
「お前。」
「前より速くなったな。」
神谷先輩はボールを受け取りながら答えた。
「お前は。」
「変わらない。」
「褒め言葉?」
「知らん。」
次の瞬間。
二人とも笑った。
試合中なのに。
楽しそうだった。
私は少し不思議な気持ちになる。
勝負している。
それなのに。
どこか嬉しそうだった。
十八対十八。
とうとう追いつかれる。
「一本!」
神谷先輩が叫ぶ。
その声だけで全員が前を見る。
青峰のサーブ。
鋭い。
守屋先輩が受ける。
少し乱れた。
神谷先輩がネットから離れた位置でトスを上げる。
高い。
蓮先輩。
助走へ入る。
三枚。
それでも振り抜く。
ドンッ!!
ブロックを弾き飛ばし、コート奥へ突き刺さる。
十九対十八。
「よし!!」
蓮先輩が珍しく拳を握る。
「ナイス!」
守屋先輩が飛びつく。
「まだだ。」
神谷先輩が全員を集める。
「ここから。」
二十対十九。
二十一対二十。
二十二対二十一。
一点ずつ。
どちらも譲らない。
そして。
二十三対二十三。
観客席がざわめく。
誰も座っていない。
全員が立ち上がり、この一球を見つめていた。
相手エースへトス。
「来る!」
杉山先輩と小林先輩が二枚で跳ぶ。
ワンタッチ。
ボールが大きく逸れる。
「守屋!」
コートの外。
広告板の手前。
守屋先輩が身体ごと飛び込んだ。
「まだ落とすか!!」
腕一本。
ボールが天井近くまで上がる。
体育館中がどよめいた。
「ナイスレシーブ!!」
神谷先輩が全力で走る。
ネットには戻れない。
後ろ向き。
それでも。
指先だけでボールを押し上げる。
高い。
ゆっくり。
ライト側へ。
蓮先輩が走る。
三枚ブロック。
踏み切る。
空中で一瞬止まる。
全員が強打を予想した。
その瞬間。
「フェイント!?」
蓮先輩はボールをブロックの後ろへそっと落とした。
誰も反応できない。
二十四対二十三。
セットポイント。
会場が割れそうな歓声に包まれる。
私はペンを握る手に力が入った。
あと一本。
あと一本で第一セット。
青峰も最後のタイムアウトを取る。
ベンチへ戻る選手たち。
誰も笑っていない。
水谷先輩が全員を見る。
「一本。」
神谷先輩も頷く。
「一本。」
蓮先輩。
杉山先輩。
小林先輩。
岡田先輩。
守屋先輩。
全員が静かに頷いた。
タイムアウト終了。
最後の一本。
神谷先輩がサーブラインへ立つ。
ボールを一度だけ床へ突く。
深呼吸。
高いトス。
助走。
乾いた音が体育館へ響く。
サーブは相手コート奥へ一直線に伸びた。
青峰のリベロが何とか上げる。
セッターが走る。
トス。
最後はエース。
「止めろ!」
杉山先輩と水谷先輩が跳ぶ。
ドンッ!!
強烈なスパイク。
ブロックに当たる。
ワンタッチ。
後ろへ弾かれる。
「守屋!!」
守屋先輩が滑り込む。
今度も拾った。
「上がった!!」
神谷先輩が走る。
ボールの下へ入る。
青峰のブロックは蓮先輩へ三枚。
誰もが蓮先輩へ上がると思った。
その瞬間。
神谷先輩は手首だけでボールを反転させた。
「岡田!!」
完全にノーマーク。
岡田先輩が迷わず振り抜く。
ドンッ!!
ボールがライン際へ突き刺さった。
笛。
二十五対二十三。
第一セット。
聖明。
体育館が大歓声に包まれた。
「よっしゃあ!!」
守屋先輩が真っ先に岡田先輩へ飛びつく。
水谷先輩が拳を握る。
蓮先輩は岡田先輩の肩を強く叩いた。
神谷先輩だけが静かにネットの向こうを見る。
青峰のセッターもこちらを見ていた。
目が合う。
相手は小さく笑う。
「一本取られた。」
神谷先輩も口元を少しだけ上げた。
「あと二本。」
青峰のセッターは首を横に振る。
「いや。」
「ここからが本番だ。」
その一言で、会場の空気がさらに張り詰めた。




