思考の先
決勝。
第一セット。
主審がボールを高く掲げる。
会場全体が静まり返った。
「よろしくお願いします!」
両チームの声が重なる。
最初のサーバーは青峰高校。
背番号一。
神谷先輩と同じ、セッター。
ボールをゆっくりと回しながらエンドラインへ立つ。
私は思わず神谷先輩を見る。
視線は真っ直ぐ。
まったく相手から逸れない。
笛。
トス。
鋭いジャンプサーブが一直線に飛んできた。
「守屋!」
水谷先輩の声。
「オーライ!」
守屋先輩が一歩前へ出る。
重い。
今まで受けたどのサーブよりも速い。
それでも、身体を流さず真正面で受け止める。
「ナイス!」
神谷先輩がボールの下へ入る。
青峰のブロックが一斉に蓮先輩へ寄る。
その瞬間。
神谷先輩は迷わず中央へ。
「杉山!」
速い。
杉山先輩が相手ブロックより一歩早く跳び、クイックを叩き込んだ。
一点目。
「よし!」
聖明ベンチが沸く。
青峰のセッターが小さく笑った。
「相変わらずだな。」
神谷先輩は何も答えない。
ただボールを受け取る。
次は神谷先輩のサーブ。
高く上がるトス。
乾いた音。
狙いは相手リベロの前。
完璧なコース。
だが。
青峰のリベロは一歩も乱れない。
綺麗に返す。
「速い!」
相手セッターがネット際へ滑り込む。
トスはライト。
いや。
途中で手首だけを返した。
レフト。
「速っ……!」
水谷先輩が反応する。
それでも間に合わない。
ドンッ。
一点。
一対一。
私は思わず息を呑んだ。
「今の……。」
「見えなかった?」
守屋先輩が苦笑する。
「俺も。」
その一言に、青峰のレベルを感じた。
そこからは、一点の奪い合いだった。
神谷先輩が散らす。
青峰も散らす。
蓮先輩が決めれば。
相手エースも決め返す。
守屋先輩が拾えば。
向こうのリベロも拾う。
五対五。
八対八。
十一対十一。
どちらも、一歩も譲らない。
「タイム。」
審判の笛。
コートには短い給水時間が流れる。
私は急いでドリンクを配った。
「はい!」
水谷先輩。
神谷先輩。
蓮先輩。
一人ずつ渡していく。
その時。
神谷先輩が小さく呟いた。
「やっぱり。」
「はい?」
「全部読んでくる。」
私は相手セッターを見る。
神谷先輩が中央を使えば、相手ミドルが動く。
蓮先輩へ上げれば、必ず二枚。
時には三枚。
全部、読まれている。
「じゃあ……。」
思わず口に出る。
「読ませればいい。」
神谷先輩が短く答えた。
その一言に、水谷先輩が笑う。
「それだ。」
試合再開。
神谷先輩がレシーブを受ける。
いつも通り蓮先輩を見る。
青峰のブロックが寄る。
トス。
蓮先輩。
そう見せて。
背面。
岡田先輩。
ノーマーク。
「よし!」
十二対十一。
次の一本。
今度は本当に蓮先輩。
ブロック二枚。
その上から叩き込む。
十三対十一。
さらに次。
また中央。
小林先輩。
十四対十一。
青峰ベンチがざわつく。
「読めない……。」
相手監督がタイムアウトを要求した。
神谷先輩がベンチへ戻る。
守屋先輩が笑う。
「神谷先輩。」
「ん?」
「楽しそう。」
神谷先輩は少しだけ口元を緩めた。
「久しぶりだからな。」
その笑顔を見たのは、たぶん初めてだった。
私は少し驚いてしまう。
監督がホワイトボードを置く。
「いい。」
短く頷く。
「でも、向こうもこのまま終わる相手じゃない。」
全員が真剣に監督を見る。
「ここからが勝負だ」




