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青春病。  作者: 翠吉
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44/58

同じ緊張の中で


決勝まで、一時間。

体育館の熱気は、朝とは比べものにならなかった。

観客席はほとんど埋まり、立ち見の人までいる。

「すごい人……。」

思わず声が漏れる。

「決勝だからな。」

水谷先輩がコートを見渡す。

「毎年こんな感じ。」

私は記録席の横へ荷物を置き、いつものようにドリンクを並べ始めた。

手は動いている。

それなのに、落ち着かない。

「結衣。」

神谷先輩だった。

「はい。」

「手。」

「え?」

言われて初めて気付く。

少しだけ震えていた。

私は慌てて握り直す。

「……緊張してます。」

正直に言うと、神谷先輩は少しだけ笑った。

「俺も。」

「え?」

思わず聞き返す。

「毎回。」

短い言葉。

その一言が、胸にすっと入ってきた。

神谷先輩でも緊張する。

だから、今の自分はおかしくない。

「ありがとうございます。」

神谷先輩は何も返さず、そのままコートへ向かった。

その背中を見送る。

「神谷も言うようになったな。」

後ろから監督が小さく笑う。

「はい?」

「昔は緊張してても絶対言わなかった。」

私はもう一度、神谷先輩の背中を見る。

少しだけ。

本当に少しだけ。

あの背中が近く感じた。

「整列!」

アップが始まる。

ネットの向こう。

青峰高校。

全員の身体が大きい。

ブロック練習だけで、圧倒されそうになる。

「でかいな。」

守屋先輩が苦笑する。

「全国常連だぞ。」

水谷先輩が答える。

「でも。」

蓮先輩がネットを見つめたまま言った。

「跳べば関係ない。」

その言葉に、神谷先輩が小さく頷く。

アップが進む。

神谷先輩のトス。

蓮先輩のスパイク。

杉山先輩、小林先輩のクイック。

岡田先輩、水谷先輩の打ち分け。

守屋先輩のレシーブ。

どちらのコートも、一歩も譲らない。

その時だった。

「神谷。」

低い声が響く。

振り返る。

青峰高校。

背番号一。

相手セッターだった。

神谷先輩が歩み寄る。

ネット越し。

二人が向かい合う。

「久しぶり。」

青峰のセッターが笑う。

「……ああ。」

神谷先輩は短く返した。

「新人戦、見てた。」

「そうか。」

「やっと当たれる。」

神谷先輩は少しだけ口元を上げた。

「負けねぇよ。」

「俺も。」

それだけ。

握手もない。

挑発もない。

二人はそのまま背を向ける。

私は思わず守屋先輩を見る。

「知り合いなんですか?」

「中学の選抜。」

守屋先輩が答えた。

「全国で一緒だった。」

「そうだったんですね。」

「だから。」

守屋先輩は神谷先輩を見る。

「今日だけは、絶対負けたくない相手。」

体育館にアナウンスが流れる。

『これより、男子バレーボールインターハイ静岡県予選決勝を行います。』

会場が大きく沸く。

「聖明高校。」

「青峰高校。」

両校の選手がコートへ入る。

私は深く息を吸った。

今日勝てば。

インターハイ。

負ければ。

三年生の夏が終わる。

今まで積み重ねてきた時間。

笑った日も。

苦しかった日も。

全部。

この一試合に詰まっている。

「お願いします!」

両チームの声が体育館いっぱいに響いた。

私は記録用紙を開き、ペンを握る。

決勝。

聖明高校対青峰高校。


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