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青春病。  作者: 翠吉
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次代の力


第二回戦までの時間は、思っていたより短かった。

ベンチへ戻ると、私は急いでドリンクを並べ直す。

「結衣。」

「はい。」

守屋先輩が手を差し出す。

「ゼリー。」

「もう食べたじゃないですか。」

「さっきのは試合前。」

「これは試合と試合の間。」

「違いあります?」

「気持ち。」

「また気持ちですか。」

「気持ち大事。」

思わず笑うと、水谷先輩が横から口を挟んだ。

「食べさせてやって。」

「ありがとうございます!」

「でも食べ過ぎ。」

「えぇ。」

周りから笑いが起こる。

さっきまで試合をしていたとは思えない空気だった。

神谷先輩は少し離れた場所で、次の相手のアップを見ている。

「どうですか?」

私が隣へ行くと、神谷先輩はコートから目を離さないまま答えた。

「サーブはそこまで強くない。」

「でも。」

少しだけ視線を細める。

「レフトは振ってくる。」

「はい。」

私はすぐにノートへ書き込んだ。

その様子を見ていた神谷先輩が、小さく頷く。

「それでいい。」

その一言だけだった。

けれど、それだけで十分嬉しかった。

「第二回戦。」

「聖明高校 対 富士南高校。」

笛が鳴る。

第一セット。

神谷先輩のサービスエース。

杉山先輩のブロック。

岡田先輩の鋭いクロス。

水谷先輩のフェイント。

小林先輩の速攻。

守屋先輩のダイビングレシーブ。

そして。

神谷先輩の高いトスに合わせ、蓮先輩がバックアタックを叩き込む。

「ナイス!」

ベンチから大きな声が響く。

相手も粘る。

けれど、一度も流れを渡さない。

二十対十三。

監督が静かに立ち上がった。

「交代。」

控えの選手が呼ばれる。

「はい!」

水谷先輩が肩を叩いた。

「思い切っていけ。」

「はい!」

私はベンチへ戻ってきた先輩たちへタオルを渡す。

「お疲れさまです。」

「ありがと。」

蓮先輩が笑う。

「今日は出番少なそう。」

「それだけいい試合ってことですよ。」

「確かに。」

神谷先輩はコートを見たまま、小さく言った。

「任せられる。」

その一言で、控えの選手たちの表情が変わる。

試合終了。

二十五対十四。

第二セット。

二十五対十六。

ストレート勝ち。

「ありがとうございました!」

全員が頭を下げる。

観客席から、小さな声が聞こえた。

「やっぱ聖明強いな。」

「新人戦優勝は伊達じゃない。」

少し離れた反対側のコート。

紺色のジャージを着た集団が、こちらを見ていた。

胸元には。

『青峰』

その中央で腕を組む監督が、聖明のコートを静かに見つめている。

神谷先輩も、一瞬だけ視線を向けた。

何も言わない。

けれど。

決勝で会うかもしれない。

そんな予感だけが残った。

夕方。

宿泊先のホテルへ到着した。

「疲れたぁー!」

守屋先輩が真っ先に荷物を降ろす。

「また蓮さんと同じ部屋だ。」

「嫌なの?」

蓮先輩が笑う。

「寝言うるさいんですよ。」

「言ってねぇよ。」

「いや言ってます。」

水谷先輩が横から笑う。

「お前の方がうるさい。」

「え?」

「夜中に『ナイス!』って叫んでた。」

一瞬静かになる。

「……それ俺ですか?」

「お前しかいない。」

全員が笑った。

夕食会場。

監督を中心に円卓を囲む。

「二試合、お疲れ。」

全員が静かに頭を下げる。

「今日の内容は悪くない。」

誰も気を抜かない。

監督は続ける。

「だが。」

その一言で空気が変わる。

「明日からが本番だ。」

準々決勝。

準決勝。

その先には。

青峰高校。

誰も口にはしない。

それでも全員が分かっていた。

食事を終え、それぞれ部屋へ戻る。

私はロビーで今日の試合をノートへまとめていた。

サービスエース。

ブロック。

レシーブ。

相手の傾向。

一つずつ書き込んでいく。

「まだやってるのか。」

顔を上げる。

神谷先輩だった。

手には缶コーヒー。

自動販売機で買ったばかりらしい。

私はスポーツドリンクを持っていた。

神谷先輩は隣へ座る。

しばらく沈黙が続く。

静かなロビー。

自動販売機の音だけが響いていた。

「今日。」

神谷先輩が口を開く。

「はい。」

「助かった。」

私は顔を上げる。

「……え?」

「二セット目。」

少しだけ視線をノートへ向ける。

「センター。」

「あ……。」

南陽戦。

神谷先輩に聞かれたこと。

「ありがとうございます。」

それ以上、言葉が出なかった。

神谷先輩は缶コーヒーを一口飲む。

「明日も。」

短く言う。

「ちゃんと見てろ。」

「はい。」

私は強く頷いた。

神谷先輩が立ち上がる。

その時。

「凛太郎。」

蓮先輩だった。

部屋から出てきたらしい。

神谷先輩が振り返る。

「ん?」

「明日も頼む。」

神谷先輩は少しだけ笑う。

「任せろ。」

それだけ。

たった一言。

でも二人には、それで十分だった。

並んで部屋へ戻っていく背中を見送る。

私はノートを閉じた。

今日も。

ちゃんと見ることはできただろうか。

窓の外には、静かな街の明かりが広がっていた。

明日は準々決勝。

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