おかえり
「お願いします!」
練習試合が始まった。
私はいつものように脚立へ座り、ノートを開く。
相手は県内でも上位の強豪校。
序盤からラリーが続く。
「ナイス!」
「切り替え!」
守屋先輩の声が体育館へ響く。
神谷先輩は冷静にトスを散らす。
水谷先輩。
ライト。
センター。
誰もが次も同じだと思った。
「蓮!」
その声に、体育館の空気が少し変わった。
蓮先輩が助走へ入る。
一歩。
二歩。
三歩。
私は無意識にアンテナへ目を向けた。
(……。)
赤五段目。
戻ってる。
バシッ!
鋭い音。
だけど。
ボールはエンドラインをわずかに越えた。
「アウト!」
「ドンマイ!」
守屋先輩がすぐに駆け寄る。
「惜しい惜しい!」
蓮先輩は悔しそうに笑った。
「悪い。」
私は静かにノートを開く。
『赤五段目』
思わず小さく笑った。
戻ってる。
高さは、戻ってる。
神谷先輩は何も言わない。
ボールだけを拾う。
次のラリー。
守屋先輩が体を投げ出して拾う。
「チャンス!」
神谷先輩がボールの下へ入る。
私は息を止めた。
また。
蓮先輩だった。
「蓮!」
神谷先輩の声が体育館に響く。
トスが上がる。
一歩。
二歩。
三歩。
私は無意識にアンテナへ目を向けた。
(……。)
赤五段目。
まだ伸びる。
六段目。
(え……。)
ドンッ!!
ブロックの指先を弾き飛ばし、スパイクは相手コートへ鋭く突き刺さった。
一瞬。
体育館から音が消えた。
次の瞬間。
「ナイスーーー!!」
守屋先輩が真っ先に駆け寄る。
「蓮さん!」
「やりましたね!」
水谷先輩も笑いながら拳を差し出す。
「やっと戻ったな。」
蓮先輩は照れくさそうに笑い、その拳を軽く合わせた。
私は震える手でノートを開く。
ゆっくりとペンを走らせる。
『赤六段目』
書き終えた瞬間。
思わず笑みがこぼれた。
戻ったんじゃない。
超えた。
神谷先輩はネット越しに蓮先輩を見つめる。
「……おかえり。」
蓮先輩は少し照れくさそうに笑う。
「ただいま。」
あの日。
『23-23 赤四段目』
そう書いたページは、今もノートに残っている。
そして今日。
私はその隣の新しいページに書いた。
『赤六段目』
人は、元に戻るだけじゃない。
仲間がいれば。
あの日より、もっと高く跳べる。
私はそっとノートを閉じた。
この一冊は。
きっと、一生忘れられない。




