ノートに残る声
朝。
久しぶりに目覚ましの音で起きなくてもいい日だった。
カーテンを開ける。
青空が広がっている。
「……休みか。」
合宿が終わって初めての休日。
体は疲れているはずなのに、不思議といつもより早く目が覚めた。
リビングへ行くと、母が朝食を並べていた。
「おはよう。」
「おはよう。」
「合宿どうだった?」
少しだけ考える。
「楽しかった。」
自然と笑っていた。
朝食を済ませ、自分の部屋へ戻る。
バッグの中から、一冊のノートを取り出す。
合宿中に書き留めていたメモ。
『助走』
『ブロックを引きつける』
『トスの高さ』
『決まったかじゃない。どう決まったか。』
ページをめくるたび、神谷先輩の言葉が浮かぶ。
私はペンを手に取り、新しいページを開いた。
『サーブ』
・強く打つだけじゃない
・相手を動かす
・フォームを変えない
・狙いを持つ
思い出しながら、一つずつ書き足していく。
書いているだけなのに、昨日までの体育館が頭の中に浮かんだ。
『少しは見えるようになったな』
ふと、ペンが止まる。
あの時の、ほんの一瞬だけ見せた笑顔。
自然と頬が緩んだ。
「……何笑ってるんだろ。」
自分で呟いて、小さく笑う。
その時だった。
スマートフォンが震える。
画面を見ると、守屋先輩からだった。
『休みの日までノート見てそう笑』
「えっ。」
思わず声が漏れる。
『図星?』
私は慌てて返信する。
『なんで分かったんですか笑』
すぐに返事が届く。
『神谷さんに鍛えられた人、大体そうなる笑』
思わず吹き出した。
さらに一件。
『でも、その調子。』
『また明日な。』
私は笑いながら画面を見つめる。
『はい!』
送信すると、静かにスマートフォンを机へ置いた。
ノートへ視線を戻す。
昨日まで見えなかったものが、少しずつ見えるようになってきた。
もっと知りたい。
もっと分かるようになりたい。
そんな気持ちが、合宿へ行く前よりもずっと大きくなっていた。
窓の外では、夕日がゆっくりと街を染め始めている。
私はノートを閉じ、小さく息を吐いた。
明日から、また学校。
そして、また新しい一日が始まる。




