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青春病。  作者: 翠吉
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13/57

どうやって決まったか

「よしっ!」

守屋が立ち上がる

「昼飯行きましょ!」

いつも通りの軽い声

その一言で、止まっていた空気が動き出した

「腹減ったっす」

「お前いつも腹減ってんじゃん」

誰かが笑う。

「大事っすよー?午後も動くんですから!」

小さな笑いが広がる。

さっきまでの重たかった空気が、少しだけ明るくなる。

「たちばなー」

「午後も忙しーぞ!」

「はいっ!」

部屋いっぱいに笑顔が広がり、どことなく凛太郎も笑ってる気がした。


昼飯を終えると、そのまま体育館へ向かった。

午後は練習試合では無く、課題練習だった。


「水谷、岡田、杉山、中村、小林、加藤」

凛太郎がスパイカー陣を見渡す。

「あと、橘」

私は、少し驚いて返事をした。

「は、はい」

慌ててかけよる

「午後はコンビを詰める。」

「改めて、みんなが要求するトス、高さ、速さを確認したい。」

「ブロックの位置、助走、サイン全て確認する」

そして、橘を見る。

「橘」

「橘も全部見ろ」

「今から同じ動き、同じトス、スパイクを繰り返す。」

「誰がどこでズレてるか全部見て。」

私は戸惑う。

「私、ですか?」

「試合中、1番外から見てるのは橘だ。」

「なんか気づいたことがあったらなんでも言ってくれ」

「気づいたことがあったら言え」


神谷先輩はそれだけ言って、コートへ向き直った。

「水谷、最初から」

「分かった」

水谷先輩が助走位置まで下がる。

神谷先輩がボールの下へ入る。

触れたと思った時には、もうボールは水谷先輩の前へ伸びていた。

踏み込み。

跳ぶ。

振り抜いたボールが、ブロック役の手の横を抜けて床へ落ちる。

「もう一本」

水谷先輩がすぐに助走位置へ戻る。

今度のトスは、さっきよりも少しだけ外側だった。

水谷先輩は空中で打ち方を変え、ブロックの指先へ当てて外へ弾き出す。

「今のはどうだ?」

水谷先輩は着地すると、確かめるように一度コートの外側を見た。

「さっきより打ちやすい。こっちでいい」

「分かった」

神谷先輩は短く返す。

「ただ、一本目のコースは甘い」

「ブロックの位置、見えてた」

「見えてたから抜いた」

「抜いただけだろ。拾われる」

水谷先輩が相手コートへ目を向ける。

「次は決める」

「最初からやれ」

言い方は厳しい。

それでも、水谷先輩は嫌そうな顔をしなかった。

もう一度、助走へ下がる。

神谷先輩が上げたトスに合わせて跳び、今度はブロックの手を避けるように、鋭くストレートへ打ち抜いた。

ボールが床を叩く。

神谷先輩が小さく頷く。

「次」

今度は反対側のスパイカーが助走位置へ入った。

神谷先輩の体は、さっきとほとんど同じ向きをしている。

けれど、ボールは迷うことなく逆側へ飛んでいった。

ブロック役が一歩遅れる。

その隙に、スパイクが決まった。

「今の、入りが浅い」

「はい」

神谷先輩はボールを受け取りながら、助走位置へ視線を向ける。

「もっと思いっきり踏み込め」

スパイカーが少しだけ戸惑う。

「でも、トスと合わなくなりませんか」

「俺が合わせる」

迷いのない声だった。

「お前は一番高く跳べ」

スパイカーが助走位置へ戻る。

次は、さっきより大きく一歩目を踏み出した。

迷いのない助走。

振り抜いたボールが、ブロック役の手の上を抜けて床へ突き刺さる。

乾いた音が体育館に響いた。

「今のは?」

神谷先輩が尋ねる。

スパイカーは着地しながら、自分の手を確かめるように開いた。

「さっきより、ちゃんと振れました」

「なら、その踏み込みを忘れるな」

「はい」

次は中央。

短い助走から跳び出したスパイカーへ、低く速いトスが伸びる。

けれど、打点が少しだけ下がった。

「遅い」

神谷先輩の声が飛ぶ。

「ボールを見てから跳ぶな。俺が触る前に入れ」

「もう一回お願いします」

「いくぞ」

再びボールが入る。

今度は、神谷先輩が触れるより先にスパイカーが踏み切った。

そこへ、狙ったようにトスが届く。

ブロック役が跳ぶ頃には、もうボールは床へ落ちていた。

「それ」

神谷先輩は短く言って、次のボールを受け取る。

水谷先輩には、コースと打点。

反対側のスパイカーには、助走と踏み込み。

中央の選手には、跳び出すタイミング。

同じスパイカーでも、求められているものが違う。

神谷先輩は一人ずつの感覚を確かめながら、少しずつトスを変えていた。

ただ自分の形へ合わせさせているわけじゃない。

相手が一番力を出せる場所を探しながら、その上で、もっと高いものを求めている。

私はコートの外から、そのやり取りを必死に追った。

トスの高さ。

助走を始める位置。

ブロックが動き出す瞬間。

見ようとすればするほど、今まで気づかなかったものが増えていく。

「橘」

突然名前を呼ばれ、肩が跳ねた。

「はい」

神谷先輩はボールを持ったまま、こちらを見ていた。

「今の二本、どう見えた」

「え……」

急に聞かれて、頭の中が真っ白になる。

どちらのスパイクも決まっていた。

けれど、同じではなかった。

「分からないなら、それでもいい」

神谷先輩は急かさなかった。

「見えたものだけ言え」

もう一度、さっきの動きを思い返す。

助走。

トス。

ブロック。

打った位置。

「水谷先輩の二本目の方が、打つ時に余裕があったように見えました」

自信のない声になった。

「一本目は、少し体が中に入ってた気がして」

水谷先輩が私を見る。

間違えたかもしれない。

そう思った直後、水谷先輩が小さく頷いた。

「合ってる」

「一本目は少し中だった」

神谷先輩も否定しなかった。

「だから外へ直した」

「……はい」

「決まったかどうかだけ見るな」

神谷先輩は次のボールを手に取る。

「どうやって決まったかを見ろ」

そのまま視線をコートへ戻した。

「次」

練習が再開する。

さっきまでと同じ光景のはずなのに、少しだけ違って見えた。

打ったボールだけじゃない。

その前の助走。

トスの位置。

相手ブロックの動き。

一本のスパイクが決まるまでに、いくつもの動きが繋がっている。

「橘」

再び呼ばれる。

「はい」

「今度はブロックを見ろ」

「分かりました」

返事をして、相手役の選手へ視線を向ける。

神谷先輩がボールの下へ入る。

同じ体勢。

同じ手の形。

どこへ上げるのか、私には分からない。

相手のブロックも中央に残ったままだった。

次の瞬間、ボールは水谷先輩の前へ伸びる。

ブロックが慌てて移動する。

けれど、間に合わない。

水谷先輩は空いたコースへ、力を抜くように打ち込んだ。

ボールが床へ落ちる。

「今のは?」

神谷先輩が聞く。

「ブロックが、水谷先輩の方へ行くのが遅れてました」

「なんで」

また言葉に詰まる。

神谷先輩は答えを言わずに待っている。

「神谷先輩が、最後までどこに上げるか分からなかったから……ですか?」

「そう」

たった一言。

それでも、胸の奥が少しだけ熱くなった。

「それが見えれば、試合の見え方も変わる」

神谷先輩はもう次のボールへ視線を移している。

「続けるぞ」

スパイカーたちが、それぞれの助走位置へ戻る。

私はコートの外で、さっきより強く目を凝らした。

まだ全部は分からない。

きっと、半分も見えていない。

それでも、今までただ速いと思っていたプレーの中に、少しずつ意味が見え始めていた。

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