戻れない理由
翌朝
昨日と同じ体育館。
扉を開けると既にいくつかのチームがアップを始めていた。
昨日別コートで試合をしていたチーム
今日はその相手になる。
「あのチームって、強いんですか?」
隣でストレッチをしていた、守屋に尋ねる。
守屋は視線だけ向けた。
「あそこ?」
「あっちは長野県ベスト4」
指さす先には赤いジャージの集団
「あの青いチームは神奈川ベスト8」
「東京はベスト16」
「山梨はベスト4」
「愛知はベスト8だね」
思わず体育館を見渡す。
(そんな強いチームばかり、、)
アップなのに、どこのコートも緊張感がある。
ボールを打つ音、選手同士の声。
そのレベルの高さがうかがえる。
その時だった。
「集合」
監督の一声で、全員が集まる。
「今日当たるチームは各県で結果を残してきたチームだ。」
「だが、」
少しだけ間を開ける
「相手の実績にのまれるな」
「お前たちも去年静岡準優勝」
「この中でも実績なら引けを取らない」
誰も口を開かない。
監督は続ける。
「昨日も言ったが、今日も勝ち負けだけ見るな」
「精度をあげろ」
「1本をこだわれ」
短い言葉。
それだけで十分だった。
「よし、アップ行くぞ」
「はい!」
声が揃う
(このチームも、、)
昨日勝っても満足しなかった理由。
細かなプレーにこだわる理由。
その意味がわかった。
第1セット
序盤から一進一退の展開だ。
相手は長野県ベスト4
昨日、別コートから見ていた時から強いなと思っていたが、実際は想像したよりはるかに強かった。
1本決めればすぐ取り返される。
こちらになかなか流れを握らせない。
「ナイスっ!」
「切り替え!」
声は出ている。
だが、あと1本が遠い。
凛太郎がトスをあげる。
高くも低くもないいつも通りの軌道。
水谷が助走に入る。
相手ブロックは3枚着いてくる。
その瞬間。
手首だけ返し、ストレートに打ち切る。
ボールは指先を目指して飛びはじける。
「ぴーー!」
第1セット終了
喜びは一瞬。
すぐさま第2セットが始まる。
相手も修正をしてきた
長い長いラリーが何度も続いた。
守屋がコートを走り回り何度もボールを繋ぐ。
そのボールを凛太郎がスパイカーへセット。
水谷が打つ。
拾われる。
もう一度繋ぐ。
何度攻めてもなかなか決めきれない。
最後は相手のスパイクがコートに突き刺さる。
セットカウント一対一
勝負は最終セット
第3セット
二十点を超えても点差は開かない。
1本とってはまた1本追いつかれる
その繰り返しだった。
凛太郎がトスを上げ
水谷がフェイントで相手を揺さぶる。
相手も負けじと飛び込んでくる。
もう一度。
バックアタック
それも拾われる。
(息ができない、、)
それでも最後は、凛太郎が託したボールを
水谷がブロックの隙間を射抜いた。
試合終了の笛がなる。
長野県ベスト4
結果だけを見れば勝利だ。
それでも、誰一人もこの結果に満足する者はいなかった。
試合後のミーティングが始まった。
監督が前に出る。
「勝ちは勝ちだ。よくやった」
「だが、この内容じゃ足りない。勝てない。」
部屋に緊張が走る。
「決定打がない。1本欲しいところで流れを引き寄せれてない。」
「だから競る。」
監督はゆっくりと全員を見渡した。
「今日の相手は長野県ベスト4。この内容ではこの先通用しない」
短く言い切る。
静かな時間が流れる。
監督は小さく息を吐いた。
「……今」
その一言で全員の視線が集まる。
「お前たち」
少しだけ間を置く。
「【蓮がいたら】と思っただろ」
部屋が静まり返る。
誰も否定しない。
息を飲む。
監督が首を振る。
「その考えを捨てろ」
「今、いない人間に期待をしてどうする」
監督の視線が、一人一人へ向けられる。
「蓮は怪我自体は治っている。」
「だが、まだ復帰はさせない」
(怪我は治ってる……?)
私は、思わず顔を上げた
監督は続ける。
「蓮がいれば、蓮が戻ってくれば勝てる。そんな考えならこのチームはここまでだ。」
「自分が1本拾う。
自分が1本切る。
自分が流れを変える。」
「その気持ちがなければ誰が入っても同じだ。」
監督はもう一度全員を見渡した。
「蓮が戻ってきた時。」
「【蓮がいれば勝てる】じゃない」
「【蓮が加わればもっと強くなる】」
「そんなチームになれ」
「以上だ。」
短く告げると監督は部屋を出ていった。
誰も立ち上がらない。
監督の言葉が心に刺さる。
(……自分が)
(私にもできることがあるのかな)
小さく膝の上で拳を握った。
そして、もう1つ。
(蓮さん……)
怪我は治っている。
それなのに戻れない。
その理由だけが、心に引っかかった。




