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青春病。  作者: 翠吉
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エースの解体と再構築

水谷先輩の笛と一年生たちの声が響く隣で、蓮さんのチームも練習を始めていた。

集められたのは、岡田先輩。

二年生の加藤先輩と広瀬先輩。

そして一年生の村山。

四人ともアウトサイドを中心に、攻撃を任される選手だった。

「最初に言っとく。」

蓮さんはボールを一つ持ち、四人を見渡した。

「今日は決める練習じゃない。」

「フォームを直す。」

「だから、ネットもブロックも見なくていい。」

「自分の体だけ見ろ。」

岡田先輩が頷く。

「はい。」

「一本ずつ打って。」

「今のフォームを確認する。」

蓮さんはコートの外へ出る。

「岡田から。」

「お願いします。」

藤枝がいないため、ボールは蓮さん自身が軽く投げ上げる。

岡田先輩が助走へ入った。

左。

右。

左。

力強く踏み込み、腕を振り抜く。

乾いた音が体育館へ響いた。

ボールは鋭くコートへ突き刺さる。

「ナイス!」

村山が声を上げる。

けれど。

蓮さんは何も言わなかった。

床へ落ちたボールを拾い、岡田先輩を見る。

「もう一回。」

「はい。」

二本目。

同じように助走へ入る。

同じように高く跳び。

同じように強く打つ。

「もう一回。」

三本目。

「もう一回。」

四本目。

五本目。

全て決まっている。

それでも蓮さんは首を縦に振らなかった。

「止める。」

岡田先輩が振り返る。

「何が悪いですか。」

「悪くない。」

「え?」

「だから直す。」

岡田先輩の表情が少し曇る。

蓮さんは岡田先輩の助走位置へ立った。

「お前。」

「全部同じ速度で入ってる。」

「助走も。」

「踏み込みも。」

「腕の振りも。」

「最初から最後まで、全部全力。」

「それじゃ駄目ですか。」

「県なら決まる。」

蓮さんは真っ直ぐ答えた。

「でも全国じゃ読まれる。」

岡田先輩が黙る。

「白鷹戦。」

「覚えてるか。」

「はい。」

「後半。」

「お前の助走にブロックが合い始めた。」

「高さが足りなかったんじゃない。」

「毎回同じだったからだ。」

蓮さんはゆっくりと助走へ入る。

最初の一歩は小さく。

二歩目で速度を上げ。

最後の踏み込みで一気に床を蹴る。

「最初から飛ばすな。」

「溜めろ。」

「ブロッカーに。」

「まだ来ないと思わせろ。」

そして最後の一歩だけを強く踏み込む。

身体が軽く浮いた。

「最後で変える。」

「助走の速度を。」

「踏み込みの幅を。」

「打つタイミングを。」

「全部同じにするな。」

蓮さんは岡田先輩を見る。

「エースは。」

「高く跳んで強く打つだけじゃない。」

「相手が分かってても止められないか。」

「相手に分からせないか。」

「どっちかが必要だ。」

「今のお前には。」

「まだ両方ない。」

言葉は厳しかった。

岡田先輩は一瞬だけ俯く。

それでも。

すぐに顔を上げた。

「もう一回お願いします。」

蓮さんが小さく笑う。

「そのために俺がいる。」

再びボールを持つ。

「最初はゆっくり。」

「最後だけ速く。」

「はい。」

岡田先輩が助走へ入る。

一歩目。

少し遅い。

二歩目。

身体が前へ流れる。

最後の踏み込みで足が合わず、ジャンプが低くなる。

ボールはネットへ掛かった。

「すみません。」

「謝るな。」

蓮さんはすぐに次のボールを持つ。

「今までのフォームを壊してる。」

「できなくて当たり前。」

「もう一回。」

二本目。

また踏み込みが合わない。

三本目。

今度はタイミングが遅れ、ボールを後ろから押す形になる。

四本目。

打点が下がる。

「くそ……。」

岡田先輩が唇を噛む。

蓮さんはその姿を見ていた。

「岡田。」

「はい。」

「打てなくなるのが怖いか。」

岡田先輩は少し迷ってから頷いた。

「はい。」

「今までできてたことまで。」

「できなくなりそうで。」

蓮さんは静かにボールを回した。

「俺もそうだった。」

全員が蓮さんを見る。

「怪我した後。」

「跳び方が分からなくなった。」

「前と同じようにやろうとするほど。」

「余計に跳べなくなった。」

少しだけ沈黙が流れる。

「でも。」

「壊さないと。」

「前より上には行けない。」

蓮さんはボールを岡田先輩へ渡した。

「今までのお前で春高へ行くか。」

「今までより強いお前で行くか。」

「決めるのはお前。」

岡田先輩は手の中のボールを見る。

そして。

力強く顔を上げた。

「変えます。」

「全部。」

「春高で。」

「エースになるために。」

蓮さんは静かに頷いた。

「よし。」

その言葉を聞き。

加藤先輩と広瀬先輩も姿勢を正した。

「次。」

蓮さんは加藤先輩を見る。

「お前は腕が遅い。」

「はい。」

「踏み込んでから腕を引いてる。」

「それじゃ最高点に間に合わない。」

蓮さんは腕の振りをゆっくり見せる。

「最後の二歩に入る時には。」

「もう腕を後ろへ持っていけ。」

「跳んでから準備するな。」

「跳ぶ前に準備を終わらせろ。」

加藤先輩が何度も腕を振りながら確認する。

「こうですか。」

「肩に力入れすぎ。」

「もっと自然に。」

「はい。」

次に広瀬先輩。

「お前は身体が開く。」

「打つ前からクロスしかない。」

「ブロッカーに全部見えてる。」

「肩を残す。」

「最後までストレートも打てる形を作れ。」

広瀬先輩が助走へ入る。

けれど、踏み切る直前に左肩が大きく開いた。

「今。」

「はい。」

「自分でも分かりました。」

「分かるなら直せる。」

最後に村山。

一年生の村山は緊張した表情で前へ出た。

「お願いします!」

「力みすぎ。」

「まだ打ってないです。」

「顔で分かる。」

周りから笑いが起きる。

村山も恥ずかしそうに笑った。

「お前は。」

「ボールを強く打とうとしすぎ。」

「はい。」

「全身に力入れたら。」

「腕は速く振れない。」

蓮さんは村山の肩へ手を置く。

「跳ぶまでは力を抜け。」

「打つ瞬間だけ。」

「一気に振る。」

「鞭みたいに。」

村山が一度深呼吸する。

助走へ入り。

肩の力を抜いたまま跳ぶ。

大きな音ではなかった。

それでもボールは、さっきより鋭く床へ落ちた。

村山の目が大きく開く。

「今の。」

「全然力入れてないのに。」

「飛びました。」

「それがフォーム。」

蓮さんは少しだけ笑った。

「力が強いから。」

「強いスパイクになるわけじゃない。」

「持ってる力を。」

「全部ボールに伝えられる奴が強い。」

四人が真剣に頷く。

それから。

同じ動きを何度も繰り返した。

ボールを使わず助走だけ。

踏み込みだけ。

腕の振りだけ。

ジャンプをせず、最後の二歩を合わせる。

岡田先輩は何度も足が合わなくなった。

加藤先輩は腕を引くタイミングを間違えた。

広瀬先輩は何度も肩が開いた。

村山は気を抜くとすぐ全身へ力が入った。

それでも蓮さんは。

一度も答えを先に教えなかった。

「今のどこが違う。」

「自分で考えろ。」

「もう一回。」

「今の感覚を忘れるな。」

「もう一本。」

何度も。

何度も。

同じ言葉を繰り返した。

しばらくして。

岡田先輩が助走へ入る。

最初の一歩を抑え。

二歩目で速度を上げ。

最後の踏み込みで一気に床を蹴った。

さっきまでより。

身体が高く浮く。

腕を振り抜く。

バンッ——。

今日一番の音が響いた。

ボールがコートの奥深くへ突き刺さる。

全員が一瞬止まった。

岡田先輩も、自分の手を見つめている。

「……今の。」

蓮さんが小さく笑った。

「忘れるな。」

岡田先輩の表情が明るくなる。

「はい!」

「でも。」

蓮さんはすぐに次のボールを持つ。

「一回できただけ。」

「試合で使えなきゃ意味ない。」

「あと百本。」

「百本!?」

四人の声が重なる。

蓮さんは当然のように頷いた。

「フォームを変えるんだろ。」

「身体が勝手に動くまでやる。」

岡田先輩は少しだけ笑う。

「お願いします。」

加藤先輩も。

広瀬先輩も。

村山も。

同じように構えた。

「お願いします!」

蓮さんがボールを投げ上げる。

「一本目。」

岡田先輩が助走へ入る。

その横顔は。

少し前までとは違っていた。

全国で戦ったエースの背中を追うだけじゃない。

次は。

自分がその場所に立つ。

そんな覚悟が。

その一歩に表れている気がした。

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