1-17 食事会は人による
17話です
「あり? この肉、半分生じゃねぇか?」
「あんたのだけ半生なのよ」
「おい! お前は俺を殺す気か!?」
爆庵の言う肉とは唐揚げの事だ。
周りのメンバーが平然とした顔で食べる中で、爆庵の取った物だけが完全に揚げきれてなかった様だ。
「てか、何で七英傑と飯食ってんだ俺は……」
事の発端は、聖に連れられたところから始まる。
ーーー
ーー
ー
どこまで行くのかと思いつつ修行していた寮の裏地から抜け出すと、聖はそのままその寮に入って行った。
「え……あんたの住んでる所ってここなのか?」
「ん……? そうだけど?」
何食わぬ顔で寮へと入って行く聖。
自分はずっと聖の住んでいる寮の裏地の所で修行に励んでいたのかーー。
「皆、連れて来たよ!」
聖は少し長めの通路を歩くと突き当たる扉を開けて、先に居る誰かに声を掛けた。豹牙からは、聖の体が重なって扉の向こうは殆ど見えていない状態だ。
「お邪魔しーーって、え……?」
他人の家に上がった事は数える位しか無いが、ある程度の常識は備えている。『お邪魔します』と玄関を通った時や、部屋に入った時には言わないといけない。
その常識通りに、聖が声を掛けた人物達に挨拶をしようとした途中で言葉が止まった。
勿論、豹牙だって初見知りの人物なら言葉が止まる事なく言えただろうが、知り合いとなると話が変わってくる。
特に、
「な、何であんた等が居るんだよ!?」
豹牙の天敵・七英傑ともなるとーー。
「何でって豹牙君。僕等はここに住んでるんだから」
「え!? お前ら全員で住んでるのか!?」
「別に驚く事じゃ無いだろう? じゃあ君は寮の中に1人で住んでるのかい?」
「い、いや……部屋を分けて住んでるけどよ」
冷静になって考えると、七英傑が同じ寮に住んでいても別におかしくは無いが、あの七英傑が共同で生活してるのは何だかしっかりとした想像が出来ない。
「とりあえず豹牙君もお腹空いたでしょ? 先に食べようよ」
「お、おう……そうだな」
聖が座った席の向かいの席に座る豹牙。
その後に続く様に、残りのメンバー達が空いている席に座り始める。
「お、おいおいおいおい!? 何で全員座るんだよ!?」
「……何でって、皆で食べるからだよ?」
「はっ……はぁぁぁぁ!?」
驚きのオンパレード。
別に豹牙だって大勢で食べるのが嫌な訳じゃ無い。よく『みんなで食べると美味しいね!』という言葉を耳にして来た。
が、豹牙の大勢で食べたランキングは1位・稀に帰ってくる両親の家族4人。2位・日常時の隼牙と2人。3位・ここ最近の豹牙1人ーーと大勢とは言い難い数でしか食べた事が無い。
だからこそ今、豹牙を抜いて数えても7人の大勢と言える人数で食事が出来るから大満足なのだが、若干ーーいや、かなり敵視している七英傑と一緒となると美味しい不味いの話では無く、そもそも食事をしてる気分になれない気しかしない。
「いやいや……そんなの別に良いよ。何なら俺帰るからさ?」
「ここまで来て帰るのは駄目だよ豹牙君。折角、渚が作ってるくれたんだから」
「……え、マジで?」
豹牙は、聖曰く机に並ぶ食事達の調理者・漣 渚の方へ顔を向ける。それに気づくと渚も、前回の戦いの際と同様のクールな顔で豹牙と目線を合わせてくる。
「……何?」
「い、いや……料理するんだ、と思って」
女子は料理が上手な方が良いとは聞くが、見た目の問題もあるだろう。
超絶美貌な持ち主で料理下手かこの世の終わりの様な顔をした持ち主で料理が上手なら、人間の過半数は前者を選ぶ。「いや俺は見た目問題じゃないから」とか言ってる奴は、言葉と逆で最有力候補だ。
それにしても、彼女程の見た目で料理が出来るとなるとこの世の女性の大半は消滅するんじゃないだろうか。
だが、見た目はしっかりと料理になってるが安心は禁物だ。見た目だけの料理なんてこの世の中、腐る程ある。
見た目が良くて不味いのと、見た目が悪くて美味しいのならーー何だかどっちもどっちだ。
とりあえず、豹牙は置かれている料理の1つに手を伸ばして口に入れた。
「……うめぇ」
食べられるーーとかそんな次元じゃ無い。美味しい。
「でしょでしょ? 渚のご飯は凄く美味しいんだよね」
手を合わせてから聖も並ぶ料理の1つに箸を伸ばす。
それに連れて他のメンバー達も各々の食べたい物を皿に移していく。
ーーー
ーー
ー
皆の「美味しい」の言葉が飛び交った後が現在に至る。
「てか俺の取った半生の唐揚げもこの沢山ある中の1つだぞ? って事は他のも半生じゃ……?」
「あんたが真っ先に脂物に手を出すのと、その中で一番大きなやつを食べようとするのは目に見えていたから、それだけ個別に揚げたわーー半生で。他のは確認したから大丈夫よ」
やる事がえげつない。それにしても、何故ここまで爆庵は渚に嫌われているのだろうか。
「……そう言えば聖。今日は貴方、英傑戦じゃなかったの?」
爆庵の大きな声で騒がしく感じる食事の中で、夢葉がその小さな体の一部である口の中の食べ物を呑み込むと、口周りの汚れを横に置いてあるナプキンで拭いた後で聖に言った。
「うん。ちゃんと勝負して来たよ」
「どれだけ掛かったの?」
「うーん……5は切れなかったかな?流石に、序列300位は強かったよ」
豹牙は聖の言葉にとりあえず一安心する。
自分が倒すまでは聖に第一席で居てもらう必要がある。負けるとは思ってなかったが、人に甘い所がある聖の事だから少し不安だ。
「でも300位にもなると第一席相手に5分も保つんだな。俺なんか1分なのに」
聖が今日言っていた渚の技の話が正しければ豹牙は2分保ったかどうかのレベルだ。第三席にそれでは今の豹牙は単純に計算すると聖を相手に1分保てないレベルだ。
「何言ってるのよ5秒よ。5分も300位の魔導士が聖に保つ訳無いでしょ?」
「えっ……ご、5秒?」
5秒と言えば、豹牙が渚に1発目のパンチを繰り出して防がれた時間くらいだ。もし相手が渚では無く聖だったら、そのパンチの間にやられてる可能性が有ったと言う事だ。
ーーヤバイ。流石にそれは心が折れる。
「僕の話はさておき、夢葉は香澄さんを教えてあげたのかい?」
「えぇ……余りにも可哀想だから仕方なくね?」
会話を聞く辺り、香澄は無事に弟子入り出来たと言う事か。
「3冊の本を同時に読んでもらって書き違いを見つけさせてるわ……制限日数を設けてね」
「あの分厚い本をかい? それは香澄さんも大変だね」
「何言ってんのよ。それくらいしないとあの子は急速に伸びないわ。私はあの子を早く追い払いたいのよ」
「素直じゃないなぁ……夢葉は」
無視をするかの様に「ふん」とだけ返事をすると、また食事に戻ってしまう夢葉。
そんな夢葉を見て軽く微笑んだ後に、聖は禍谷に視線を変える。
「廻。夢葉の指導が終わったら次は頼むよ」
「ん? あぁ……そいつがどれだけ出来るのかは知らないが、出来るだけは教えよう」
夢葉の指導がーーと言う事は、香澄は第二席の禍谷廻に弟子入りするという事か。
「何で2人に弟子入りするんだ? あいつは治癒魔法しか使えねぇぞ?」
「治癒魔法は術式魔法の1つなんだよ。だから彼女は夢葉という治癒魔法のスペシャリストと廻という術式魔法のスペシャリストの下で学ぶんだ」
「じゃあ俺を教えるあんたは何のスペシャリスト何だ?」
「……魔法のスペシャリストかな?」
それだと、この世の全ての魔法のスペシャリストみたいに聞こえる。数えきれない程の魔法が存在する中で全てを扱える人間でも無いのに、随分と良い身分をご希望の様だ。
「……そう言えば俺はあんたが何の魔法を使うのか聞いた事なかったな」
「あれ? そうだっけ?」
今まで色んな場面で話して来たが、聖の魔法を聞いた事を1度も無いーーというか、渚と今、夢葉と廻の魔法を知ったぐらいで他のメンバーは全員知らない。思い出すと、金丸と時雨、多田や間所の魔法も聞いた事がない。
(どれだけ相手の魔法に関心ねぇんだよ……)
聖の魔法は流石に気になる。と言うか、知らない事に気がついたら物凄く気になり始めた。
そんな気持ちが顔に出ていたのだろうか。豹牙を見て軽く噴き込むとーー
「はは! じゃあそれは戦った時のお楽しみだね!」
「なっ!? それはずるいだろ!」
「敵に情報を軽々と教える訳無いだろ?」
「そんなの知るかよ! 早く教えろって!」
聖に吐かせるために、机を強く叩いて脅しかける。しかし、この天然な男にその意図が伝わってるはずも無くーー叩いた衝撃で溢れた飲み物をじっと見つめており、豹牙の方を見向きもしない。
「て、てめぇ……」
段々と怒りが蓄積されていく。こうなってくると気になって気になって仕方がない。
ぶん殴ってでも吐かせようかーー。
「もう……仕方が無いなぁ。じゃあヒント!」
フラストレーションの溜まった顔が表に出てしまっていたのだろうか。聖はため息を吐くと、仕方無さげな顔を言葉だけで留まらず、表に出しながら、天井を指差した。
「……何もねぇじゃねぇか」
豹牙も聖の指差す天井を見るが、在るのは白い天井と部屋を照らす電球のみ。
「はい! これ以上は言わないからね?」
「あんなのヒントもクソもねぇだろ!?」
文句と異議を申し立てる豹牙に聞く耳を傾けない聖。先程まで喧嘩してた渚と爆庵は何もなかったかの様に食事をしている。
「あの聖さん?」
豹牙には「聞こえない」と言って、無視をするくせに豹牙以外の人物の声にはすぐ様反応する辺りが、豹牙の堪忍袋を刺激する。
そんな聖に声を掛けたのは、第六席・仙石朧。豹牙の倒す相手ランキング3位の男。
因みに1位は聖だが、この前まで2位だった朧と代わったのは、豹牙が負けた相手・漣 渚だ。
「どうしたの朧?」
「これ決まったんでお願いしますね」
そう言う朧から渡された紙を、聖は視線を落として内容を確認した後に、いつもの笑顔に加えて笑い声まで発し始めた。
「はははっ! これは中々面白い組み合わせだね!」
笑い声を含んだ聖が、その紙を朧に返さずに豹牙に渡してくる。
豹牙も聖と同じ様に目線を下にある紙へと落とすと、そこにはトーナメント図と思われる物が確認出来た。
1番上には「1年戦対戦図」と書かれており、その紙がトーナメントの話をしているのを理解して、直ぐに自分の名前を確認し始める。
「お、あったあった!」
横長に書かれた図の最右列から3列目に豹牙の名前が書かれていた。パッと見た感じの参加人数は30人くらいと見受けられ、先日言っていた間所の例年数よりも若干多いのが分かる。
豹牙はそのまま【仙石朧】と書かれた名前がどこにあるかを詳しく探し出す。左から順に探していくが、一瞬では見つからないーー見間違いのない様にゆっくりと確認するが、そのまま大きく2つに分かれたブロックの片方を見終わってしまった。
それは、豹牙と朧が遅くても戦うのは準決勝で、参加者が30人位と言う事は大体4回戦でぶつかるという事になる。
見終わった方のブロックから豹牙の名前が書かれてあるブロックへと視線を移す。こちらでもゆっくりと、名前の見間違いや見落としが無いかを確認しながら見ていく中で、ようやく見つける事が出来た。
「お、見つけたぜ。って……ん?」
一瞬ーー見つけた事に嬉しさを感じてしっかりと見てなかったが、もう1度確認すると、仙石朧の名前が書かれていたのは最右列。豹牙と位置が2つしかずれていない。
「まさかこんな直ぐに当たる事が出来るとは思わなかったよ豹牙君」
「おいおい……マジかよ」
2つしかずれていないのは、豹牙が朧と戦うのは2回戦になるという事を意味していたーー。
「お手柔らかに頼むね……豹牙君?」
「ふん……学院長の孫か曾孫か知らねぇけどよ。手加減無しで行くからな?」
お手柔らかにーーと言う割には余裕の表情を見せる朧に、上からの物言いをする豹牙。
その内心がここまで早くぶつけた神様を恨んでるのは、勿論豹牙しか知らないーー。
読了頂きありがとうございます!
頭のいい人なら聖のヒント分かったかも知れませんね……
次回の更新は12/21(木)の21時頃です
次回も是非読んで下さいね!