1-16 苦労の先に
16話です
聖の期待・喜びの顔に興奮が混ざった声。
豹牙は殴りつけようとして止めていた拳を、彼の言葉によって遂に解いた。
「俺の魔力がそれで測れない程……だと?」
にわかに信じ難い。もしかすれば、3度失敗した聖のその場凌ぎのでっち上げた嘘かもしれない。
それならば、聖はこんなにも嬉々とした顔をするだろうか。
「そうさ! 君には僕達よりも遥かに大きな魔力が存在しているんだよ!」
「って事は……」
魔力の制限解除の指導の為に聖の出したノルマは、この測定機で7以上を叩き出す事。七英傑が8という事はそれ以上の魔力を有すると語る聖の話だと、当然豹牙はーー
「これだけの魔力のリミットを外さずにいるのは愚か者過ぎるよ! 早速始めよう!」
「おぉ……! やってやるぜ!」
聖の乗り気な感じが俄然、豹牙のやる気に火を付ける。
ガサゴソと測定機を入れていた袋から、またしても何かを取り出す聖。ポンポンと同じ物3つを腕に抱え持つと、そのまま豹牙に全てを渡して来た。
「これは……縄?」
その3つに目をやると、細い縄と平均的な縄にかなり太い縄。共に藁で作られている様で、触っただけで頑丈だと分かるくらいだ。
「うん。その縄を使って、指導していくよ」
「縄でどうやって鍛えるんだよ?」
聖は「まぁ見てて」と言い、もう1度袋の中に手を入れる。取り出したのは豹牙が手に持つ藁製の縄。違う部分としては、豹牙の持つ太い縄よりも更に太い事だ。
それを自分の両腕と胴体に一緒に巻き付けて、上半身の自由を奪ったところで豹牙に声を掛けた。
「魔力というのは同じ様に体全体を流れる血と違って目に見えない。それでも外に放出する事によって攻撃として扱う事も出来るんだ」
「……?」
難しい事を言われても全く理解する事が出来ない豹牙は当然の様に首を傾げて、眉を寄せた顔をする。まるで聖が訳の分からない事を言ってる様な雰囲気だが、決して聖は間違った事は言ってない。
「うーん……簡単に言うと君の使う風と一緒だよ。風も目には見えないけども、物を飛ばしたりとか鋭くして切り裂いたり出来るでしょ?」
「……あ、なるほどな! そういう事か!」
ポンと手を打つ豹牙とそれに対して呆れる様にため息を吐く聖。
「見ててね」と豹牙に呼びかけると、縛られた上半身に対して、自由に動かす事の出来る下半身さえも動かす事なく巻き付いていた縄を破壊した。
「ふぅ……つまり目に見えない魔力を放出する事で、縄だってこの様になるんだ」
「……へぇ。じゃあ早速やってみるか!」
勢いのままに見よう見まねで、豹牙も適当に手に取った太い縄を体に巻き付ける。手先が器用では無いので若干縄を結ぶのに手間が掛かったが、ある程度は様になった結びに出来た。
そのまま聖と同じ様に体を出来るだけ動かさずに、何となく魔力が放出される様なイメージを持って挑んだーーが、
「……あれ?」
縄はピクリとも動かない。聖の様に縄が塵となる事までは期待していなかったが、豹牙の縄にはどこにも解れている箇所は見受けられなかった。
もう1度イメージを持って挑戦する。その最中にまるで大便をしてるかの様な感覚に襲われて、屁が出たのは気のせいだろう。
「あれ……どうしてだ?」
大便をしてる気分まで味わされたのに結果は何も変わっていない。
「最初は細い縄から始めていかないと……1発で出来る様なものじゃないんだからね?」
「えぇ……段階を踏んでいくのは嫌いなんだよ……」
露国に嫌な顔をする豹牙を無視して聖は無理矢理に豹牙の体に巻き付く縄を解いて、細い縄で上体を縛り上げる。
何故か、自分で縛った時よりも強く縛られている気がするーーというか、絶対縛られてる。
「ほんの少しでも縄と体にスペースを作っちゃうと、魔力は自分が思ってるよりも余分に放出されてしまう。それが仮に戦いの最中だとしたら、命取りになるかもしれない」
「い、命取りって……それに余分って言ってもどうせ大したものじゃないだろ?」
「じゃあ君は家の水の蛇口を完全に捻り切らずに、無駄な水を消費しても同じ事が言えるかい? 確かにその場限りでは大した問題は無いかもしれないけど、習慣付くとそれは積み重なって大きな損を招く」
この例えには豹牙もぐうの音も出ない。大人しくなる豹牙を見て聖は小さく微笑ましく思いながら、言葉を続けた。
「君が思ってるよりも魔力が回復するのは遅い。1分2分なんて考えちゃいけないよ? だからこそ、少しでも無理益な魔力を生み出さないよう、しっかりと体に染み込ませる為に段階を踏むんだ……良いね?」
「……はーい」
不貞腐れた様に返事をする豹牙。納得のいかない部分もあるだろうけど、聖としては縦に首を振ってくれる豹牙が有難い。
もう少しわがまま大魔王になるかと思っていた分、これならば十分に1年戦までに指導が間に合う。
「ただ何のコツも無くやらせても意味が無いからね。1つヒントを言うとしたら……そうだね、ハリネズミが防御の際に針を普段より突き出す様なイメージかな?」
「いや……分かんねぇよ」
例えるのが上手いのか下手なのか分からない。
とりあえず、聖の言うハリネズミの気分になって1度挑戦してみるが、当然無理だ。ハリネズミじゃないんだからーー。
それを見て、唸りを上げる聖。
「うーん……ウニが針をーー」
「お前、1回針から離れろよ!」
どうして、針を持つ動物に拘るのか謎だ。
「……ったく。もう1人でやるからあんたはあっち行ってな」
このまま聖が居ても居なくても一緒な気がするので邪魔者扱いでその場から追い出したのだが、師匠気取りが楽しかったのだろうか。聖は少し拗ねて文句を垂れながら、どこかへと去っていった。
「……さてと。とは言えどうしようか」
聖を追い払った今、豹牙1人でコツを掴まなくてはいけない。しかし、想像力が決して豊かでは無い豹牙に果たしてそんな事が可能なのか。ーー無理だ。
「でもこんな初歩的な事で躓く訳にはいかねぇからな……」
この世の中質より数だ。決して、器用でも応用の効く人間でもない豹牙には数をこなすのみ。
「……これは朝まで引っ張りそうだなぁ」
ーーー
ーー
ー
「よっしゃ……!」
聖が去ってから何回イメージをしただろうか。
ようやく細い縄に、小さな切痕が残り始めた。
始めた当初は夕刻の茜色の空が段々と闇に侵食されつつある状態だったが、いつの間にか完全な月夜に上る月が辺りを照らしている。時刻にして8時手前くらいだろうか。そろそろ夕飯を食べなくてはーー。
「……でも、何となく掴んできたんだけどなぁ」
ここで止めてしまっては明日まで体が覚えている気がしない。もう少し、確信出来るくらいのコツを掴んでから終了したいのが本音だった。
「う……良い匂いさせやがって」
豹牙の今居る場所は数ある中の1つの寮の裏。どこの何年の男か女かも分からない生徒が、自分の魔法を強化する為に半日程を費やしてから晩餐の準備でもしてるのだろう。
そう言えば、家を出てから1週間で自分の部屋で作った料理は全てインスタント。味は飽きないが、栄養を考えると流石によろしくない。普段は隼牙が料理をしていたから考えもしてなかったが、今思えば有難い話だ。
「……食べたいなら早くコツを掴まねぇとな」
ここで飛んでくる料理の匂いに涎を垂らしていても仕方がない。
邪念を振り切る様に自分を2時間近く縛り付けている縄へと意識を切り替えて、もう1度先程と似たイメージを縄へとぶつける。
「ーーー!」
そこで、明らかに縄に異変を感じた。先程の小さな切痕の時と違って更に大きく切り裂いた気がしたーーというか、見てみるとしっかりと大きな切痕を残していた。
「よしよしよし! この調子だぞ俺!」
もう1度同じイメージを縄へぶつける。1度覚えた感覚はそう簡単に違える事は無い。3度目の痕は、2度目までと違って完璧に両断していた。
縄は最初の細い縄ではあったが、こうなると段階を踏んで鍛えるのも悪くは無いかも知れない。
「それにしても流石に疲れたぜ……」
大きな達成感からそれまでの疲労をどっと感じてしまい、思わず地面に背中を預けて寝転んでしまう。
しかし、良い疲れだ。ここまで熱心になったのは久しぶりかも知れない。
それに今までのただ魔法を振り撒けるだけの喧嘩で強さを誇っていた時と違って、確実な成長を感じられる。
「……あれ? もう細い縄を切れたのかい?」
倒れて、微かに見える星空を眺めていると1つしかない通路の方から聞き覚えのある声が聞こえてくる。
先程、豹牙自身で追い払った聖だ。
「へへ……どうだ。余裕だ余裕」
見たか顔で聖へ言葉を投げる豹牙。しかし疲れからいつもの様な元気は含まれておらず、覇気が無い。
「失敗続きでムキになって未だに続けてるかなと思って見に来たんだけど……少し違った様だね」
聖は輪になっていたが切り裂かれた事で、途中の結び目により1本の線になった縄を手に取って確認するしてその結果に満足そうに微笑んだ。
「今からご飯の時間なんだけど一緒にどうだい?」
豹牙に預けていた縄を袋にしまって肩にかけると、豹牙を食事に招待する聖。
お腹を空かせて、且つインスタント生活の豹牙にとっては有難いお誘いだ。
「へっ……そうだな。仕方ないから付き合ってやるよ」
そう言いながら、疲れた体をゆっくりと起き上がらせる。ずっと縛っていた上半身が未だ縄に縛られた様な違和感を感じるが、それ以上に今は空腹過ぎて胃が無くなった様な違和感の方が大きい。
豹牙はゆっくりと先を歩く聖を追い掛けた。
初めての赤の他人との食事に胸を躍らせながらーー。
今回も読了頂きありがとうございます!
22時更新と言いながら23時に更新したホラ吹きはここです。
とは言え、執筆途中で消えてしまった僕のポンコツケータイを恨んで下さい。
次回は明日12/19(火)の18時頃更新予定(前後する場合があります…)です!
次回も是非読んで下さいね!




