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悪魔へ墜ち、天使を殺せ  作者: 大器晩成
序章 滅びの十年後
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序章 滅びの十年後Ⅴ

驚くくらいに話が進まなくてもうしわけありません。

今回から名前が明らかになったソロモン72柱の簡単な解説を後書きに載せていきたいと思います。

お話はまだまだ序盤ですので、これから盛り上がっていく……筈です。

大質量の大剣が高速で振り下ろされることによって、凄まじい暴風が吹き荒れた。その暴風はそのまま、衝撃となって、天使へと叩き込まれる。


「ぐぉおあああ……っ!」


ザドキエルが手を翳してその一撃を防ぐ素振りを見せた途端、夕の身体は十メートル以上吹き飛ばされていた。

全身、特に心臓が疼くように痛む。心臓は辛うじて脈打ってこそいるが、それだけだ。術を起動させることは不可能の様であった。


「貴様、いつもちょっかいをかけてくる奴の一人かい! まともに相手をしてくれたことがなかったから一瞬誰か分からなかったよ!」


「ああ? てめぇに顔を覚えられるなんて反吐が出るな! それにその余裕な態度も気に入らねぇ!」


「ならこのワタシを崩してみなよ! 貴様にワタシを楽しませることが出来たらだけどね!!」


身体を起こすことも出来ず、夕は呆然と二人の戦いに見入る。


黒衣の男が身の丈ほどある大剣を縦横無尽に振るう。絶大な質量を持つをそれが軽々とふるわれる様は非現実的だ。

黒衣の男の攻撃は暴力的で感情的なように見えて、その実、素晴らしいほどに隙がなかった。大剣を囮にすら使い、直接相手を殴ろうとすらしていた。大剣の振りで生じてしまう隙を拳の牽制で失くしているのだ。


しかもそれが目にもとまらぬ速さで繰り出され続けるのだからたまったモノではない。並みの相手なら、長くは持たないだろう。夕が決死の覚悟で挑み、勝利をもぎ取った智天使(ケルビム)でさえも、この男には確実に敗北するということが容易に想像できた。


だが、今回に限っては相手が悪すぎる。


「いつもより本気なのは伝わってくるけどさ? そろそろワタシも貴様たちを泳がし続けるのにあきてきたんだよね。だから――」


ザドキエルが無造作に黒衣の男へとその右手を突き出した。


「くぉ……っ?!」


圧倒的な威力を持った暴風が黒衣の男へと殺到した。目にみえない筈の風が、辺りの塵や瓦礫を巻き上げて、その蛇のような姿をさらす。グネグネと捩じれた竜巻が、男の巨体を地から引き剥がし、すぐ後ろにあったビルを貫いて、吹き飛ばした。


「――ワタシを楽しませろよ、薄汚い悪魔ども」


ザドキエルは舞台役者のように仰々しくその両腕を広げ、その背に純白の翼を展開した。生物のモノとは思えない、機械的な翼。それが二対、×のような形で広がる。

継ぎ目のない流麗なフォルムは、彼が神の被造物の中でも抜きん出て秀作だということをいやおうなしに物語っていた。


天使は軽く翼をはためかせる。只それだけの動作で、黒衣の男が埋もれているビルへと風が襲いかかった。

凄まじい音と粉塵を散らしながら、倒壊していく小ビル。五階建てほどのそれは、夕が暴風から身を守っている間に、無機質な瓦礫の山へと変貌してしまっていた。

あの中に埋もれている黒衣の騎士も恐らく無事ではないだろう。常識的に考えて、息絶えていると考えるのが妥当だ。


だが、夕の予想に反して、瓦礫の山がグラグラと揺らいだ。

天使は笑みを浮かべ、追い打ちすることなくその様子を興味深く眺めている。


――唐突に、瓦礫の山からかつてのビルの支柱が高速で射出された。音速近くに達したそれが、天使へと襲い掛かる。

ザドキエルはそのコンクリートの柱を翼で無造作に防いだ。翼で自身の身体を覆ったのだ。相当の重量を持つはずの柱は、無残にも砕け散り、その微細な瓦礫がほんの一瞬、天使の視界を防ぐ。

ザドキエルはまた、不敵に笑った。

その直後、雄々しい叫びと共に、黒衣の騎士が禍々しいオーラを纏った大剣を天使の脳天目掛けて降り下ろしていた。その光景を最後に夕の意識は暗闇へと沈む――。


△                                               ▽


「おいっ! おきなって! おい!」


「う……っ?」


痛む。身体中がのた打ち回りたくなるような激痛に苛まれている。思わず顔を顰めた夕は自分がむき出しのコンクリートの上で、その身体を伏せさせていることに気が付いた。


記憶が混濁している。何が起きたのだったか? 頼りない記憶の糸をゆっくりと引き寄せていく。

智天使を倒した、そこまでは覚えている。そこから先の記憶が不明瞭だ。ええと確か……。


「おい! きィてんのかよ!?」


嗚呼、うるさい。今、思い出せそうなんだ。智天使を倒してその後どうなったんだ? 何かとんでもないことが起きていたような――。


夕は周囲の風景から何かしらの情報を読み取ろうと、傷む身体を鞭打って身体を捻り、俯せの状態から仰向けへとシフトする。

かくして夕が見上げた景色はどんよりと濁った曇り空と、同色の廃ビルたち、映り込んだ。


「そうだ……俺、天使と鉢合わせて……それで、それで……どうなった」


記憶が徐々に鮮明になっていく。智天使の相手をした後の、人の形を持った天使との戦闘。いや、あれは戦闘とは言わない。人間がアリ一匹を踏みつぶすことを戦闘と言わないのと一緒だ。

そのくらいスケールが違う相手と戦って、勝てる筈もなく。夕の捨て身の攻撃は、その体を成さなかった。

なら、なぜ自分は――。


「イイかげんにシろよな!! こんなアホみたいなところで黄昏テンじゃねぇゾ、ガキぃ!!」


甲高い声が夕の耳に届いた途端、視界に星が飛んだ。全身に響き、只頭突きを受けただけでは済まない激痛が身体中を駆け巡る。



「~~~~~っっっ!??」


両腕すら上げることすら叶わない夕は芋虫のように地面を転がるしかできなかった。視界が涙で滲む。男なのにこんなことで涙を流すとは情けないが、生理現象を制御するには夕の人生経験はまだまだ足りないようだった。


「ッたく。手間かけさせんジャねェよ。ほらサッサと立ちナ。アンドラスが惹きつけてくレていル間にトンズラすんゾ!」


「た、立てるわけねぇだろ!  つーかあんた誰だよ!?」


「オマエは生き死にかかっテる時に悠長に挨拶すンのカ?!」


甲高い声の主が唾を飛ばしながら、夕の顔へと詰め寄る。黒髪の少年はその時、ようやく声の主を視界にとらえることが出来た。

そしてその瞬間に絶句した。やけに甲高い声だったで、小柄なおっさんでも近くにいるのかと考えていたが、そこにいたのはそんなものではなかった。


それは、夕が今まで見た生き物のの中で、上位天使と同等、それ以上の奇妙さを有していた。


強いて言うなら。それは車輪だ。円形の毛が生えた体に、五本の蹄付きの脚が生えている。五本のうち、二本しか歩行には使っていないらしく、残った三本は腕や前髪のようにブランと垂れ下がっていた。


「……………………………………」


思わず絶句してしまう。こいつの身体が機械的なモノであれば、まだ理解が早かったのかもしれないが、残念なことに、彼の身体は馬の毛皮にも似た質感の毛がびっしりくまなく生えていた。完全に生ものだ。

しかもそれに、妙齢の男性らしき顔のパーツが付与されているのだから、始末に負えない。

完全に夕の思考回路はショートしていた。


「おぃ?! また黄昏んテンじゃねぇよォ!? 早くしねェと――」


「は!?」


甲高い声で再度呼びかけられて、夕は我に返った。車輪男は三本の蹄脚で器用に夕を掴み、引き摺って行く。


「お、おい?! どこに連れてくんだよ!? つーかお前ホントに何なんだ?!」


「いいから黙っテろヨ!! 早くしねェとアイツがもたねェ!!」


「あいつ!? あいつってだれだ――」


不恰好に引き摺られていく中、夕はようやく思い出した。夕の窮地に割って入った黒衣の騎士。この車輪は恐らく彼のことを言っているのだろう。


夕は深呼吸して気持ちを落ち着かせる。すると意外なほど近くから、激しい剣戟の音が響いているのが、分かった。

急いでそちらへ首を捻るとそこには、


「……クソが。どこまで化け物なんだよテメェ」


満身創痍の騎士が大剣を支えに膝立ちになっている姿が見て取れた。その十メートルほど先に、凄絶な笑みを浮かべた白衣の貫頭衣の男が、翼を広げて立っている。


「……素晴らしいっ!! 最高だよ貴様!! ワタシにわざわざ攻撃を防がせるなんて芸当、今まで見たことがない!! ここまでの力を持っていながら、どうしてお前たちはワタシとまともに戦ってくれなかったんだっ!! こんな愉悦が隠されていたなんて、驚嘆したよ!!」


興奮した様子で男――ザドキエルが叫ぶ。それに呼応するように背の翼が激流の風を伴って振るわれた。


――吹き飛ばされる。そう感じ、夕は身を竦ませる。しかし、何らかの術が働いたのか、夕と車輪男の周りはほとんど無風状態のままだった。


「こっちにも事情ってモンがあんだよ。それにテメェみたいなクソ野郎に一々構っていられるほど、俺は暇じゃねぇんだよ」


黒衣の男は黒い瘴気に覆われた顔を歪ませる。皮肉を言う元気はあるようだったが、相当に疲労しているらしい。

だが、それを物ともせず、男は二歩で天使と自身の距離を詰めた。流れる様な動きで瘴気を纏った大剣が振り上げられる。


夕が放った渾身の一撃を躱すことすらしなかった天使が、その攻撃に対して、翼と不可視の風の刃で応戦する。重く堅いものがぶつかり、弾かれる鈍い音が辺りに響く。


何合にも及ぶ激しい打ち合いは、黒衣の騎士が後方へと飛ばされることによって終止符が打たれた。


「ぐくっ……独りじゃ流石に無謀か……」


大男は悔しげに歯噛みし、大剣を構えなおす。だが今の打ち合いで相当消耗したらしく、剣が纏う瘴気が薄れていた。


「オイっ! 俺もいるゼ!!」


車輪男が声を上げる。知らぬ間に夕を放していたらしく、彼は思わぬ脚力を見せながら、騎士へとアピールをしていた。


「このクソボケ!! テメェは早く小僧を起こして撤退の準備しろっ!! 俺と小僧の命はテメェの技量に懸かってんだからなっ!!」


「言われナくてモ分かっテルよ!! もう術式は書き終ワった!! 後はオマエがここまデくルだけダ!!」


術式――? 夕は不思議に思い、車輪男の足下へと視線を送る。するとそこには不思議な文様で彩られた魔術式ともいえるサークル型の紋章が淡い光を放ちながら、地面へと刻まれていた。


「ああ、そうかい……つーわけで、俺たちの撤退準備が整ったわけなんだが、このまま見逃しちゃくれねえか? もし見逃してくれるんだったら、また戦ってやっからよ」


冗談めかして天使へと提案する黒騎士。だが、その目はこんな提案が呑まれるはずが無いことをきちんと理解しており、瘴気が薄れつつあった大剣が、どす黒い陽炎を揺らめかせていた。


「この戦いは今だからこそ輝いているんだ。あるかもわからない次の為に、ワタシが今を手放すと思うのかい?」


天使の顔が愉悦を含んだものから不機嫌のそれへと変貌していく。それを感じ取った黒衣の男は、術式と自身の距離を一瞬だけ確認し、大剣を構えなおした。


「じゃあ交渉は決裂だな。穏便にことを運びたかったが、仕方ねぇ」


その言葉を終えるとともに、黒の騎士は両手に持つ大剣を空振りした――いや、よくよく見れば、剣が纏っていた瘴気が空を裂く刃として、天使への一撃となっている。


今まで秘されていたその攻撃に対し、瞬間的な判断が遅れた天使は、四枚あるうちの翼の半分を用いて、その攻撃を防いだ。ギャギャギャと金属が削れる異音が耳をつんざく。


思わず顔を顰めさせた夕の視界には、天使が攻撃を防いだ隙に乗じた騎士が、こちらへ猛然と走り込んできている姿が映り込んでいた。


その巨体に似合わぬ俊敏性で、地を駆ける姿はまさに黒狼だ。


「おい、ブエル!! 早くしろ!!」


転がり込むように術式の上へと到った大男が叫ぶ。ブエルと呼ばれた車輪男が陣の中心を蹄で弾くと、淡く発光していた方陣が激しい光を迸り始めた。


全身を包む浮遊感。そして意識が剥離していく感覚。天界に頭の回転が追い付いていない夕はそれを眺めることしかできない。

何もすることの出来ない光の奔流の向こう側で、激情に顔を歪めた天使が、風の弾丸を放った姿が確認できた。


不可視の筈の弾丸が、確かな形を伴ってこちらへと直進してくる。ブエルの撤退が先か、天使の風の弾丸が先か、夕がそれらを判断する材料は限りなく少なかった。だが――。


「―――――っ!!」


――こちらを庇うように飛び出した満身創痍の騎士の背中だけがはっきりと確認できた。

結末を見届ける前に、夕の意識は奔流の中へと溶けていくのであった。

アンドラス――ソロモン72柱序列63番の大侯爵。その姿は黒い狼に跨るフクロウの頭部を持った男であるとされており、その手には大きな長剣が握られている。彼は召喚者共々皆殺しにしようとする悪癖があるので、注意しなければならない。また、彼が持つ不和の力も侮れないだろう。

本作では狼を模した漆黒の鎧を纏う無貌の大男として描かれている。何かと物騒な逸話の多い悪魔にしては、仲間を助けるために尽力していたりと、言い伝えとのギャップがある。これには、彼が憑代としている何某かが影響しているらしいが……?


ブエル――ソロモン72柱10番の大総統。星かヒトデ、もしくは五本の蹄付きの脚を持つ車輪魔人として描かれている。彼は傷を癒すことに長けており、死に至る外傷であっても時間をかけて癒す事が出来る。本作においてもその姿は継承されており、微妙な訛りのある日本語を話していた。その実力はまだはっきりとしない。彼が人の形をしていないのには理由があるのだろうか……?


その内一纏めにしますのでご容赦を。主人公である夕君はもう少し先にさせていただきます。


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