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悪魔へ墜ち、天使を殺せ  作者: 大器晩成
序章 滅びの十年後
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序章 滅びの十年後Ⅳ

誤字脱字は後に修正いたしますのでご容赦ください。

震える。息が出来ない。吐くだけで吸う事が出来ない。

目の前に現れた男の視線に曝されただけで、夕の身体はいう事を聞かぬ木偶へと変貌してしまっていた。


「ああ、怖がらなくても大丈夫だ。ワタシは優秀な戦士にはそれ相応の礼儀を払う。智天使(ケルビム)を独りで倒すなんて、素晴らしいよ。いやまったく最高だね」


金の髪を気障っぽく払いながら、男はゆったりとした動作で夕の方へと歩み寄ってくる。

格好から見れば普通の人間だ。欧風の目鼻立ちがはっきりとした顔。金の髪に翡翠色の瞳。身長は百八十を超える程で大きいが、その身体は細い。健康的な細さだ。その身体に不思議な衣装を纏っている。純白の貫頭衣のようなモノだ。


その男が一歩ずつ踏み出してくるだけで、どうしてこんなに恐ろしいのだ。男の素足が砕かれたアスファルトの上を踏みしめる。じゃりという音に夕の心臓はいつもと違う鼓動を奏でてしまう。


「聞いているかい? そんなに緊張しないでくれよ。天使でも末端とはいえ、智天使を人の身で倒すというのは素晴らしい偉業だ。最低限、それくらいの英雄が相手じゃないと遊ぶのもつまらないだろうしね」


守護天使は柔らかな笑みを浮かべながら、また一歩踏み出してくる。心臓がさらに鼓動を速めた。

息が出来ない。舌がのどに詰まる。目の前が真っ赤に――。


「がぇっ――」


自分の頬に力いっぱい右拳をぶちこんだ。歯に口内の肉がぶつかり、血が出る。鼻も切れた。視界にも星が散っているし、拳も頬もジンジンと痛む。だが――。だが、身体の硬直は解けた。呼吸も出来る。心臓も正常に動く。


なら、今すべき行動は。


「おいおい、貴様は自身の身体を傷つける趣味でもあるのか? 神から賜りし肉体を自ら傷つけるなんて呆れるなあ。……ワタシの楽しみが減らない程度にしてくれよ? 自分を傷つけるのは、さ」


天使の戯言を尻目に夕は思考する。考えるのは両手に持つ二丁の拳銃のことだ。このカスタムモデルの装弾数は8+1発。先ほどの智天使との戦闘の前にリロードを行っているので8発となる。

……戦闘中に何発消費した? この拳銃の中には弾は何発あるんだ? 


確認することは容易い。しかし、今この瞬間においてはその一瞬の行動は、危険すぎる刹那だ。

残弾数を確認するには目の前の敵から目を背けなければならない。

夕は生唾を呑み込んだ。酷く喉に絡む。そのくせ喉は干上がりそうなくらいにカラカラだ。


覚悟を決めるしかない。元々智天使との一騎打ちを制したこと自体がクソッタレな奇跡なのだ。そして奇跡は行動を起こしてこそ、訪れるものである。


「ふむ。何か考えているみたいだ。いいね。最高だ。大概の人間はワタシが姿を見せたら萎縮しちゃうんだよ。たまに変な連中が絡んでくるけど、毎度良いところで逃げていくんだよね。天使同士での私闘は我らが主によって禁止されているし――おや」


撃つ。左右の拳銃からそれぞれ四発ずつ弾が吐き出され、天使の顔へと穿ち込む。馴染みの衝撃が両手に響く。だが、それに感慨を感じている暇はない。この銃撃はいわば目くらまし。陽動である。

夕は着弾したことを確かめるよりも早く、拳銃からマガジンを吐き出した。空の弾倉が宙を舞う。それらが地面に弾かれるよりも早く、夕はリロードを終える。


両腕を垂直に伸ばし、天使へと銃口を再び向ける。そして拳銃と自身に刻まれた術を起動させる。

それは夕たちが用いていた、身体能力を向上させる術とは全く異なるモノだ。これは魔弾だ。

寿命を贄として捧げて、銃弾の威力を飛躍的に向上させる魔弾。身体能力の術も多少の命への負担はあるが、これはその比ではない。それを二つ同時に起動しようというのだ。夕は自分の命が弾丸に吸い取られていくのを確かに感じ取った。


だがこれならば、人の形を持つ災厄に届くかもしれない。世界を壊したこいつらに報復できるかもしれない。


ならば、撃たない理由はない。トリガーを引く。赤黒い燐光を伴った銃弾二発が、真っ直ぐに天使の頭へと吸い込まれていく。不思議なことに天使は身動ぎすらしなかった。躱す素振りすら見せない。奴は只愉快そうな微笑を湛えたまま、踏み出した格好で突っ立ていた。


極度の集中によって引き伸ばされていた時間が動き出す。銃弾が天使の眉間と左目に直撃する。

赤黒い燐光が激しく発光し、鮮烈な閃光と化す。


あまりの光量に、一瞬目が眩んだ。咄嗟に目を閉じ、狂乱する光が目を焼くのを防ぐ。


――手応えはあった。普通の天使を相手取った場合には、無用の長物であるこの魔弾の術ではあるが、その威力は確かだ。使って意味があるかは疑問ではあるが、上位天使の身体部分ですら、穿てるという。頭を砕かぬ限り死なない相手に対して、無理に分厚い装甲を通す意味が分からないが。

それはともかくとして、高威力の一撃を二発同時に撃ちこんだ。如何に人の形を持った厄災でも、無事では済まないだろう。


夕は深く息を吐きながら地へ膝を落とす。魔弾の反動だ。この術はすこぶる燃費が悪いらしく、命を喰らう上に、体力まで根こそぎ奪う。夕たちの日常を奪った天使たちと同じ、理不尽な術だった。


とびそうになる意識をどうにか保ちながら、眼前の天使を睨み付ける。金の髪を持った男は顔を垂直に仰け反らせて、微動だにしなかった。人間なら死んでいる首の角度だ。ホラー映画染みた光景に思わず怖気が走るが、夕は頭を振るってそれを断ち切る。


ここで気を抜いてはいけない。夕はボロボロになった腕を無理やり駆動させて、もう一度天使へと銃口を向ける。


(銃を構えるのが辛いなんていつ以来だ……?)


全身を襲う倦怠感、否、剥離感に嫌悪を覚えながらも、引き金を引き――。


「ああ、もう一度、今の攻撃をくれるのかい? 中々に刺激的な体験だったが――同じのはもういらないな。他のを所望したいね」


「あ……?」


聞き違いだと、そう思いたかった。空耳だと信じたかった。けれど、しっかりと見開いた瞳はきちんと現実を直視している。視神経からの情報を遮断できない。


「んん? どうしたんだ、そんな顔をして。早く次を撃ちなよ。まだ何かあるんだろう? これで終わりだとは流石に思えないな」


天使は金の髪をかき上げながら、朗らかに笑ってみせた。その顔には外傷など存在していない。

あれだけの攻撃を直撃させても、擦り傷一つ産み出せなかったというのか。


「っ……ぁ……ぁぁ……っっ……ぁぁぁぁ」


言葉にならない声が口から漏れ出す。握力を保つ事が出来ず、両手から銃が擦りぬける。砕かれ風化したアスファルト道路の上へ落ちた二丁のそれらは硬質な音を周囲へ響かせる。


絶望や恐怖心などは無かった。只々無力感だけが夕の心に焼き付く。どうしようもない。これは人間に同行できる存在じゃない。実際に目の当たりにして、攻撃を仕掛けるまで夕の心にはどこか余裕のような、尊大さがあったのだ。


だが、無理だ。心が完全に折れてしまっている。強いとかじゃない。こいつは、こいつらは敵に回して戦う様な相手ではない。


「おいおい、何硬直しているんだ? 早く次の攻撃を――」


天使は待ちきれないと言わんばかりに夕を急かす。青年の顔を覗き込む。翡翠の瞳と夕のくすんだ黒目がぶつかり合って、天使は気が付いたようだった。


「……何だ、もう終わりか。あれで? 本当に? ワタシは貴様を一目見た時にピンときたつもりだったんだが――どうにも期待外れだったようだ」


ワタシの目も信用できないね。天使は笑った。だが、それは今までの朗らかな笑みとは違う。子供が興味の失せた昆虫を処分するかのような冷たい笑みだ。ぞくりと全身が震えた。


途端に一つの感情が心に湧き上がる。


(まだ、まだ死にたくない!! 死んでたまるかよ!!)


途方もないほどの生存欲求。狂おしいほどの死への恐怖心。絶対に死にたくない。そんな思いが際限なく溢れ出す。


限界などとうに迎えた身体に鞭を撃ち、術を用いて全身を賦活させる。魔弾を用いた時よりもなお激烈にその命を消耗する。これだけの無茶をしても、恐らくこいつに拳を叩き込む事すら不可能だろう。ならば。


三十六計逃げるに如かず――全力で後ろへ跳躍する!! 廃ビルの窓ガラスを突き破り、ビル内へと侵入、逆方向へと飛び降り、天使と自身との間に障害物を置く。後はもうがむしゃらに逃げるだけだ!


「おいおい……狩りは趣味じゃないだけどなぁ、ワタシは」


気配から察するに相手は動いていない。このまま、聖域(サンクチュアリ)内に潜伏して人間生活圏に帰れば助かる――。


夕は逃亡の算段を立てながら、駆ける。その速さはおおよその獣を超越しており、その軍用ブーツが地を蹴るたびにクレータが穿たれ、鉄製の底が火花を上げていた。


(確か、この先に大きなモールだった場所があるはずだ。そこに入り込めば今をやり過ごせる!)


我が身を顧みず、高速移動を続ける青年の全身は汗で濡れていた。その汗を乾かすかのように強い一陣の風がビルの谷間に吹き荒ぶ。背後からの風に目を細め、それを追い風としてさらに加速する。


モールまであと数百メートル。今の夕であれば十秒程の距離だ。もうすぐ。もうすぐ辿り着く。


「あ?」


だが、それが叶うことはなかった。夕の身体は大きく乱れ、全身を地へと擦り付ける。つまづいた。

倒れ込んだまま、起き上がれない。どうなっている? 術による賦活の限界が来たのか? 夕は戸惑いながら、身体を起こそうとして、しかしやはり起き上がれなかった。


「意外と走り続けたから驚いたよ」


不意に耳朶を響かせる声。数える程しか聞いていないが、間違えようもない相手だ。


「狩りは趣味じゃないが。楽しませてくれた貴様に義理を果たそう。ワタシの名前はザドキエル。ああ、大丈夫だ。ここで貴様は死ぬんだから、覚える必要はない。死ぬ時くらいは痛みなく殺してやろう」


ザドキエル。木星の天使。生命の樹の守護者。七大天使にも数えられる偉大なる天使。


夕はようやく自身の右肩にこぶし大の穴が穿たれていることに気が付いた。恐らくザドキエルが司る何らかの力による攻撃を受けたのだろう。それがどのような攻撃かは見当もつかない。只わかるのは、超高速で移動していた夕をあっさりと射止めるほどには強力だということだった。


「心配することはないさ。じきにすべての人間が貴様と同じ場所へ赴くのだから」


ザドキエルは右手を夕へと翳した。大気が蠢く。天使の手の中で何かが脈動する。……何だこの力、風?

夕はぼんやりと自身の断頭台の刃を見上げながら、考える。


嗚呼、やっぱり死にたくないな。折角、砂漠に混じった一粒の奇跡を摘み上げたと思ったのに。

夕はせめて最後の時まで、この災厄を睨み付けておこうと、その目に力を込めて天使を見上げる。


ザドキエルはそれをどう受け取ったのか、只々手を翳し、その蠢きを強くさせて断頭台の刃を叩き落とした。


「おいおい待てよ。気障野郎」


既に失った筈の五感の一つが大気を震わせる振動を捉えた。

夕は視線を動かす。天使の端正な顔からスライドさせて、その後ろへ。


「取り敢えず景気づけに……喰らっとけや!!」


自身の体躯ほどの大剣。狼を模した黒衣の鎧。靄のようなものが掛かり認識できない顔。黒い男。


端的に言えば、黒衣の大男がザドキエルへと向かってその大剣を振りかぶっていた。

このソロモンの悪魔誰だろう!! という感じよりもああ、ソロモンの悪魔ってこういう感じの能力なのねという感じにしたいです。後天使は、かなりこじつけで能力を与えていますので悪しからず。

上位天使とか下位天使は概ねそのままです。

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