表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪魔へ墜ち、天使を殺せ  作者: 大器晩成
序章 滅びの十年後
3/8

序章 滅びの十年後Ⅲ

こんにちわ。あまり前には進みませんがよろしくどうぞ。

――前方への跳躍は咄嗟の判断だった。

智天使は電ノコのように猛烈に回転しながらこちらへと突進してきている。

二対の剣と三対の翼の回転は縦軸。そして視覚を有しているであろう白磁の仮面は、夕から見て横を向いている。

この状況で逃げおおせる場所は何処だ――そう考えた結果が前方への、もっと言えば、智天使(ケルビム)の頭上を飛び越えるという選択肢だった。


(よしっ!!)


夕はコマ送りされていく風景の中、確実に智天使の上を飛び越える。

上位天使は夕が上へと逃れた事に気付かず、そのまま真っ直ぐに彼が立っていた場所へと突貫していた。


スローになっていた世界が動き出す。天使と夕の速度が元へと戻る。

凄まじい砂埃と爆風、轟音を上げながら、智天使は地面へと衝突した。その風圧に背を押され、夕は前方へとキリモミしながら吹き飛ばされる。

グワングワンと世界が掻き混ぜられ、高速で過ぎていく。このままでは壁への激突は免れない。そう判断した夕は、全身への賦活を強める。力の枷を限界以上に外す。


無理やりに身体を捻り、全身が得た回転を抑え、姿勢を制御する。だがそれだけでは推力は落とし切れない。

壁にぶつかること必定だ。ならば、着地で勢いを殺すまで――。


さらに身体を捩じって、壁へ足から着地する。骨身に堪える衝撃が全身を襲い、目の前に星が散って、ホワイトアウト一歩手前まで追い込まれる。頭の奥も最悪だ。誰かに無理やり頭の中を掻き混ぜられたかのような嫌な感覚がある。それでも、どうにか『攻撃を躱しながらも余波で死亡』という最悪の展開だけは避けることが出来たようだった。


もうもうと上がる土煙の中、目を凝らして智天使が突っ込んだ地面を見る。そこには力なく倒れ伏した上位天使の姿が――。


「そんなので死ぬたまじゃあねぇよな……知ってたさ。ああ、知ってたとも」


――あるわけもなく、ゆったりとした動作で地面から身体を引き剥がして浮遊する、智天使がこちらへと顔を向けていた。天使はそのまま地面へと垂直になり、真っ直ぐと夕を見つめる。三対の翼、二対の剣が浮遊する仮面の周りを一定周期で移動していた。


向こうはこちらを認識しているはずだが、間合いを計るかのように微動だにしない。

……このまま、両手に握る拳銃であの顔を撃てば、終わるのではないか。そんな欲が心のうちから湧き上がる。

思わずグリップを握る手に力が籠り右肩が下がっ――。


「ぎぃっ!?」


鋭い痛みが肩に走った。本能的に右へと転がる。ドス。鈍い音がすぐ傍で奏でられる。前転して足裏が地につくと同時に跳躍し、同じところに身体を置き続けないように努める。

三度目の回避で、ようやく天使が何をしたのかを悟った。回転して突撃する事だけが能だと思っていたが、どうにもあの智天使、剣を自在に操作できるらしい。これらの攻撃も剣を高速で射出したのだろう。


地面を抉る剣の刺突をどうにかいなして躱す。その合間に肩の傷を確認する。……深くはないが浅くもない。肩は上がるが、痛みはある。幸いなのは出血していないという事だろう。血は身体を強化する為に重要なものだ。その浪費を意識しなくていいのは、不幸中の幸いといったところか。


身体の無事を確認している間に、剣の動きが変化した。こちらを突き刺すように繰り出されていた二対の剣は、目で追える速度で、それぞれ思い思いの剣舞を披露し始めたのだ。


(こっちの方がやり辛いぞ?! なんなんだこいつっ!!)


薙ぐ、叩き付ける、突く、振り上げる、袈裟――演武のように流麗な動きで繰り出されるそれら。確かに目で追え、認識できる攻撃であるのに、酷くやり辛い。こちらの息継ぎの合間を狙うかのような攻撃もある。まるで、部隊の教官が四人がかりでこちらを潰しに来ているかのようだ。


このままでは防戦一方だ。しかも相手は体力という概念があるのかすら分からない上、格上である。そもそもがやられて当然なのだ。ならば――。


(攻めに転じるっ!! 舐めんのも大概にしろよこの野郎っ!!)


大薙ぎの横一線を回避したタイミングで、一歩大きく智天使へと踏み込む。途端に、三本の剣の鋭い突きが夕の身体へと肉薄し、その皮膚を焦がしたが、気にしていられない。さらにもう一歩踏み込む。お次は両サイドからの薙ぎだ。微妙にタイミングがずらされたそれは、どちらか片方だけに注視すると、もう片方に命を絶たれるようになっている。一見して回避は困難であるかのように感ぜられた。


だがそれは今の夕であれば、の話だ。もう一度、あの感覚を味わうのは遠慮したいところではあるが、命あっての物種、生きるか死ぬかの時に、自らの気分で選択肢を狭めるなど、愚者以下の思考回路と言えるだろう!!


全身に力を漲らせ、地面すれすれに跳躍する。こちらの加速を予想していなかった一対の剣は空しく霞を切った。


(イケるっ)


ここまで単純な正面突破が功を成すとは予想していなかった。夕は両手の銃を同時に構え、撃つ。

彼我の距離は十メートル程。智天使はこちらへとその弱点を晒していて、正面を向いている。こちらは低い姿勢でお世辞にも万全の体勢とは言えないが、それでもこの距離なら音速の物体にだって当てる自信がある。


銃口からそれぞれ一発ずつ銃弾が吐き出され、ライフリングによって生み出された回転を空中で行いながら、真っ直ぐに智天使の白面へと飛翔していく。


銃弾二つは目標を逸れる事無く、その任を果たし、智天使の顔を確かに貫いた。


それを確認した夕は加速の勢いそのままに、智天使の下へと滑り込んで背後へと抜ける。

軍用のブーツを地面へと擦り付けてブレーキをかけながら振り向く。しかしそこには未だ健在の智天使の姿があった。そこで思い出す。教官たちに教え込まれた知識の一つを。

智天使は裏と表、それぞれに顔を持っていてその二つを潰さなければ殺し切れない。


「うああぁぁああああぁぁああ!!!!!」


大声で叫んだ。形振り(なりふり)など構っていられなかった。

撃つ撃つ撃つ撃つ撃つ撃つ!!!!


だがそのどれもが、奴の翼によって阻まれる。だが剣は飛んでこない。相手も弱点を一つ潰されて混乱しているのか?! 夕は強く地を蹴った。三度の限界点をオーバーした全身の賦活。それを持って翼のみを操る天使へと突貫する!!


半ば飛ぶように地を駆ける夕。智天使は緩慢な動作でそれを見咎め、三対の翼をそれぞれ重ねた。

発光。重なり合った三対の翼から幾つもの炎が吐き出される。


(この期に及んで新しい攻撃をっ!? どんだけ底なしなんだよテメェらは!!)


邪悪を焼き尽くすされる聖炎が、夕を誅するべく炎弾となって夕へと殺到する。

だが、その炎のどれもが今、限界以上に全身を賦活させている夕には遅すぎた。

零距離にまで接近し、その面へと二丁の拳銃を押し付ける。絶対に外れないように。確実に殺すために。


引き金を引いた。


智天使の二枚目の白磁の顔は、確かに粉々に砕かれた。それと共にその二対の剣と三対の翼は光の粒子となって現世から身を浄化させていく。


緊張が解けて弛緩し震える全身を抑えながら大声で叫ぶ。


「見たかクソ野郎が!! てめぇら如き天使が人間様に叶うわけ……ねぇ…だろ……?」


震える。全身が震える。身体中が冷や汗でまみれ、身体の穴という穴から体液が噴き出しそうになる。

軋み震える身体を起こした視線の先。

そこに奴がいた。


「……馬鹿な。んな話があるかよ……折角死に物狂いで生き残ったっていうのに」


人間に近しい――否、神に似せて作られたとされる人間と同一の外見的特徴を持った生物。しかし、その存在感は明らかに人間のそれではない。


「これじゃあ、まるっきり喜劇じゃねえかっ!」


上位天使よりもなお上の地位を戴き、誰よりも神に近しい者。神の座を守りし守護天使。自らの名を語る事を赦された者。


「――貴様がそれを殺したのかい?」


人の形を持った災厄がそこにいた。

次回辺りにはソロモン何某かが登場すると思いますのでお待ちください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ