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悪魔へ墜ち、天使を殺せ  作者: 大器晩成
序章 滅びの十年後
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序章 滅びの十年後Ⅱ

ソロモン72柱って割と真面目系が多いですよね

――風に全身を煽られ、危うく体勢を崩しそうになる。夕は空中で踏ん張り、足からの着地を成功させた。

普通の人間であれば、脚の骨を折るぐらいでは済まない高さであったが、アルファの誰一人、呻き声すら上げなかった。


アルファを皮切りにベータ、ガンマも降下を開始する。一足先に降下を終えたアルファの役割は、周囲の索敵だ。降下地点を中心に全方位へ散開し、姿勢を低くする。後続の部隊もそれに続いた。


「クリア」「クリアー」「クリア!」


各方向で声が上がり、周囲の安全が確認されていく。どうやら全方位から袋叩きに合う様な事態には陥っていないらしい。だが――。


「三時の方向に敵影!! 距離300ー!! 数は……最低でも20はいる!」


一人の兵士が叫んだ。近くにいた夕は男が示した方向に目を凝らす。その先には、陶器のように白い何かが――いや、天使がこちらへ向かって飛翔してきていた。

天使は伝承に近い姿を有している。その中でも特に顕著なのが、その背に持つ翼であろう。羽ばたく事すら必要としない超常のそれは、彼らに凄まじいほどの推進力を与えている。


「クソが!! 人間様を舐めんじゃねぇーぞ!」


男が口汚く罵りながら、こちらへと殺到する天使に向かって発砲した。吐き出された銃弾は、回転しながら、天使の身体を捉える。しかし、その白磁の肉体に傷を刻むことはなかった。


「このぼんくらぁ!! 身体を狙うんじゃねぇ!! てめぇは訓練の時に何を聞いてたんだ!!」


歳を食った壮年の男が、カバーに入り、発砲する。先ほどの二の舞にはならず、銃弾は天使たちの命を確かに散らした。


前者と後者の差異はどこで生まれたのか? 答えは簡単、当てる場所だ。天使の白磁の肉体は異常に堅牢になっている。改造に改造を重ねた銃であっても、その装甲を貫くのは困難だ。


だが、彼らにも弱点はある。人でいう頭部に該当する部位。そこを撃ちぬいてやれば、如何に天使であろうとも、絶命するのだ。要はヘッドショットである。

――勿論、簡単なことではない。改造を重ねたバカみたいな威力の銃でなければ、頭部の装甲を抜く事は出来ないし、その馬鹿げたジョークグッズを扱える人間、そして的確にヘッドショットを行える技量がなければ、成立しないのだ。

……無尽蔵に湧く天使一匹を殺すのに、ここまでの段階を踏まねばならないのである。とんでもない詐欺野郎だ。


夕は心の中で毒づきながら、サイトを覗き、天使へ向けて発砲する。骨に響く衝撃と爆音に顔を顰めるが、目を逸らす事だけはしなかった。構える。撃つ。命中を確認する。こういうときに一番怖いのは慌てる事だ。冷静に冷徹に機械の一部である事を意識し、それらの工程を繰り返す。

照準が目まぐるしく移り変わり、飛翔する天使は次々に墜ちていった。だが――。


「どんどん、増えてきている!! 」


撃ち落した数だけ、天使は湧き出すようにその勢力を増していた。どれだけいるのか、見当がつかない。霞や塵から産み出されていると説明されれば、納得しかねない程、天使どもの数は膨大だった。

皆、懸命に応戦した。しかしやがて誰かが撃ち漏らし、天使どもがその穴を抉じ開ける様に群がってくる。

――接近を許した。取回しの悪いアサルトライフルではこれ以上の攻撃は困難だ。


「近接戦闘に移れ!!」


誰かが叫んだ。その言葉と同時に、誰もが手にしていたアサルトライフルを地へと放る。ホルスターから拳銃を抜き出す。そして、常人ならざる膂力を持って、地を駆け、空を舞った――。ここからはもはや乱戦だった。


両手に拳銃を握り、廃ビルの壁面を駆けのぼる。ようは三角跳びの要領だ。馬鹿げた賦活を受けたこの肉体ならば難しい事じゃない。ジリジリと頭の奥で、何かが削れる感覚がする。それは魔力と呼ばれるモノか――、実際に頭の中に寄生した悪魔が、夕の脳を齧る音だろう。


「ふっ」


1メートルほどの距離へと接近。天使の脳天へと確実に弾丸を配達してやる。腕へと凄まじい衝撃が走り、確かに銃弾が射出される。空薬莢も硝煙を上げながら排出された。

――今なら送料無料だ、くそったれ。

天使は大した反応も示さずに、地上へと墜ちていった。

それを見届ける事無く、夕は次の標的を見つけ、跳躍する。高く高く。天使どもを見下ろす事の出来る高所は、戦闘時に置いて、是が非でも確保しておくべきポジションだ。何故なら、見上げるよりも、見下ろした方が銃弾を撃ち込みやすいから。単純な話だ。


「ァアアアァアっ!!!」


だが、そのポジショニングの話も、夕がそれなりに優秀であるが故にとれる選択肢の一つである。人には向き不向きが確かに存在する。そして、戦闘に不向きな者は――天使どもの凶刃にその身を晒した。

夕は悲鳴に気をとられ、左後方からの強襲への対処が若干遅れてしまう。


「ぐっ!! クソが!!」


それでも、それなりに優秀なのが夕の唯一の矜持である。咄嗟の判断で、天使の剣の腹を撃ち、斬撃を逸らす。完全に逸らす事こそ叶わなかったがーーその一撃は夕の戦闘服と薄皮を一枚を剥ぐに留まった。


だが、空中で制御を失った体勢は整えようがない。そのまま、10数メートルほどの距離を落下し、地面に控え目なクレータを生み出す。


本来であれば鮮血の花が、地面を彩っていても不思議はないがーー彼らの肉体は度重なる訓練と改造、そして魔術によって馬鹿げた頑強さを有している。これくらいでは死にはしない。ただし、途方も無く全身が痛むが。


夕は天を仰ぎながら、軋む身体を叱責する。痛い。全身が砕かれたかのようだ。それに加えて頭もズキズキと疼いている。震える足を叩き、ようやく立ち上がった。――と、そこで夕は拳銃を取り落としていた事に気が付く。アレが無くては天使の鎧を撃ち抜けない。


若干の焦りを滲ませながら、夕は辺りを注意深く観察した。

何体もの天使を相手に、仲間たちが必死の応戦を繰り広げている。何人かの死傷者が出ているようだが、このまま順当にいけば、天使どもを掃討する事は容易いだろう。だが、何が起こるか分からないのが戦場の常だ。夕は目敏く拳銃を見つけ出し、拾い上げる。入念にチェックし、スライドを引く。どうやら正常に機能しているらしい。オートマチックの拳銃は複雑な機構を有するので大きな衝撃を加えると、動作が不安定になる事が多い。今回は僥倖だった。


夕は安堵のため息を吐きながら、全身に力を漲らせる。不可思議な力が身体中を賦活させ、戦闘態勢を整えさせた。夕は再び、空へと舞い戻るべく、姿勢を低くした――のだが、鋭くなった視力が地面に転がる拳銃を捉えた。


「念には念を、か……余裕のある奴が使う間抜けな言葉だが、今回ばかりは同意だな」


戦況は人間たちが推しつつある。それは夕の復帰が1分遅れても揺ぎはしないだろう。そう結論した夕は素早い動きでその拳銃を掴み、状態を確認する。こちらも無事なようだ。無駄足にならなかった事を喜びながら、夕は空へと目を向けた。


――ああ、チクショウ。何だって俺は悪運が強いんだよ。


飛沫が上がる。人だったモノが、縦に横に両断され、挽かれ、砕かれる。誰も悲鳴すら上げなかった。突如襲来した。それを認識する事すら誰も叶わなかったのだ。

空を舞い、天使との戦闘を繰り広げていた者達は誰一人の例外もなく、物言わぬ肉片へと化け、地上へと墜ちていた。

血の雨が夕の全身を叩く。生温かなそれは、纏わりつくように肌に絡みついた。


「上位、天使……」


呆然と呟く。夕が向ける視線の先にそれはいた。

天使どもと同じく白磁の身体。しかしその風貌は似ても似つかない。空飛ぶ円盤と形容すれば分かり易いだろう。三対の純白の翼と二対の剣。それらが、浮遊しながら白磁の仮面の周りを飛び交っている。


智天使(ケルビム)――天使どもの中でも上位に位置づけられた個体。その戦闘能力は有象無象の下級天使とは格が違う。それこそアリとゾウほどの隔たりがあると言ってもいい。

手に持った銃を握りしめる。智天使はゆったりと回転しながら、感情の灯らない瞳で夕を捉えた。


激烈な回転を伴って、智天使が最後の生き残りへと高速で接近する。全身から聖炎を噴き出したそれは、四本の剣を独楽のように振るいながら、夕へと突進した。


――全身の血が沸騰したかのような感覚。世界が鈍化したかのような錯覚に陥る。何もかもが引き伸ばされた世界の中で、青年は両手の拳銃を握りしめ、前方へと跳躍した。


このくらいの更新ペースを保っていきたいです。次回も是非に。

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