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やさしい子  作者: こめい
8/26

戦闘は昼すぎに終わった。


日東軍は清江南岸の陣地を占領し、華嶺軍は北へ退却した。


兵士たちは勝ったと喜んだ。


軍旗が丘の上に掲げられると、万歳の声が起きた。源次も帽子を振りながら叫んでいた。


慎太郎も腕を上げた。


だが、声は出なかった。


足元には敵兵の遺体が横たわり、その間に日東兵の遺体も混じっていた。軍服の色が違うだけで、死んだ姿に大きな違いはなかった。


「初めてにしては、よくやった」


小隊長が慎太郎の肩を叩いた。


「敵を一人仕留めたそうだな」


慎太郎はうなずいた。


「怖かったか?」


「はい」


「最初だけだ。そのうち慣れる」


小隊長は笑い、別の兵士のところへ向かった。


そのうち慣れる。


慎太郎は自分の手を見た。


引き金を引いた右の人差し指だけが、自分の身体ではないように感じられた。


日が傾くころ、捕虜が集められた。


負傷した華嶺兵たちが、崩れた土嚢の前に座らされている。大半はうつむき、数人は傷の痛みにうめいていた。


慎太郎がその前を通ると、一人の捕虜が手を伸ばした。


「水……」


言葉は違っていたが、その意味は分かった。


捕虜はまだ少年のように見えた。脚から血を流し、唇が白く乾いている。


慎太郎は周囲を見た。


見張りの兵士は、少し離れた場所で仲間と話していた。


慎太郎は自分の水筒を外した。


捕虜の前にしゃがみ、口元へ運ぶ。


少年は水筒を両手でつかみ、夢中で水を飲んだ。水が口の端からこぼれ、汚れた軍服を濡らした。


「ゆっくり飲め」


通じないと分かっていながら、慎太郎は言った。


少年は水筒から口を離すと、何度も頭を下げた。


その顔を見た瞬間、慎太郎の胸が痛んだ。


朝、自分が撃った青年の顔が重なった。


あの青年も、まだ生きていれば水を欲しがったかもしれない。


「何をしている!」


見張りの兵士の声が飛んだ。


慎太郎は立ち上がった。


「勝手に捕虜へ物を与えるな」


「水くらいは」


「そいつらは敵だぞ」


見張りは慎太郎から水筒を奪い、地面へ投げた。


「敵に情けをかければ、次に死ぬのはお前か、隣にいる仲間だ」


慎太郎は何も言い返せなかった。


少し離れた森の中から、その光景を見ている者がいた。


明遠だった。


撤退の途中ではぐれ、森に身を隠していた。日が沈むのを待ち、味方の部隊を追おうとしていた。


木々の隙間から、若い日東兵が捕虜に水を与える姿が見えた。


明遠は銃を構えていた。


距離は遠かったが、撃てない距離ではなかった。


引き金に指をかけた。


趙俊の顔が浮かんだ。


小蓮の髪を包んだ布が、胸元に触れている。


あいつらは敵だ。


趙俊を殺した。


自分たちの国へ攻め込んできた。


一人残らず殺すべきだ。


それでも、明遠は撃てなかった。


水を与えていた兵士の横顔が、弟の明浩に少し似ていた。


慎太郎は水筒を拾い、泥を拭った。


ふと誰かに見られているような気がして、森の方を見た。


木々の間には、すでに誰もいなかった。


明遠は銃を下ろし、暗くなり始めた森の奥へ歩いていった。


二人の間には、まだ名前も言葉もなかった。


慎太郎にとって明遠は、森の中に潜む敵だった。


明遠にとって慎太郎は、憎むべき日東兵の一人だった。


その日、慎太郎は初めて人を殺した。


明遠は初めて、敵を心から殺したいと思った。


そして二人とも、自分の中に残っていた優しさを、誰にも見つからない場所へ隠した。

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