最後の戦い
慎太郎と明遠は、燃える通りで向かい合った。
慎太郎は銃剣を両手で握っていた。
明遠は倒れた兵士から拾った剣を構えていた。
互いの言葉は分からない。
名前も知らない。
それでも、相手が自分と同じように疲れ、怯え、家族のもとへ帰ろうとしていることだけは分かっていた。
先に動いたのは明遠だった。
地面を蹴り、慎太郎へ斬りかかる。
慎太郎は銃剣で刃を受けた。
金属音が鳴り、二人の腕に衝撃が走った。
慎太郎は明遠を突き放し、銃剣を振るった。明遠は身体をひねってかわし、慎太郎の肩を剣の柄で打った。
慎太郎は壁へ倒れかかった。
明遠が再び剣を振り上げる。
その瞬間、慎太郎の顔が見えた。
怯えていた。
怪物ではなかった。
清江の森で見た、捕虜へ水を与えていた青年。
やはり、あの兵士だった。
明遠の剣が止まった。
慎太郎には、相手がなぜためらったのか分からなかった。
その隙に銃剣を突き出した。
明遠は横へ飛び、切っ先をかわした。軍服の脇腹だけが裂けた。
二人は再び距離を取った。
炎の熱が頬を焼く。
屋根が崩れ、火の粉が雨のように降り注いだ。
明遠は西の空を見た。
慈雲寺の三重塔が燃えている。
黒煙の間から赤い炎が立ち上り、白い避難旗はすでに見えなくなっていた。
「母さん……明浩……」
明遠は慎太郎に背を向け、寺へ向かって走り出した。
慎太郎は追った。
逃げる敵を追え。
敵を生かせば、次に仲間が殺される。
考えるよりも先に、身体が軍で教え込まれたとおりに動いた。
「待て!」
慎太郎は叫んだ。
言葉が通じるはずはなかった。
明遠は振り返らなかった。
二人は燃える街を走った。
倒れた兵士や住民を飛び越え、崩れた家々の間を抜ける。
慈雲寺へ近づくほど、煙は濃くなった。
山門は片側が崩れ、屋根を支えていた柱が炎に包まれている。石段には水桶が散らばり、境内へ続く道には避難民が落とした荷物が残されていた。
明遠は山門をくぐった。
「母さん!」
返事はなかった。
「明浩!」
聞こえるのは、木が燃える音だけだった。
慎太郎も境内へ入った。
本来なら近づくことを禁じられていた場所だった。
だが、その命令を思い出す余裕はなかった。
煙の中に明遠の姿を見つけ、銃剣を握り直した。




