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やさしい子  作者: こめい
22/26

二人

日が沈み始めていた。


青海の空は煙に覆われ、太陽は血のように赤く見えた。


建物の至るところから火が上がっている。消す者はいなかった。風が海から吹きつけ、炎を街の西側へ運んでいた。


慎太郎は逃げた華嶺兵を追っていた。


班の仲間とはぐれ、一人になっていた。


路地を曲がると、瓦礫の間に人影が見えた。


華嶺兵だった。


明遠も慎太郎に気づいた。


二人は同時に銃を構えた。


距離は二十歩ほどだった。


慎太郎は相手の軍服を見る。


華嶺兵。


敵。


それだけを考えようとした。


明遠も日東国の軍服を見る。


日東兵。


故郷へ攻め込んできた敵。


趙俊を殺した敵。


先生を殺した敵。


それだけを考えようとした。


慎太郎が引き金を引いた。


銃声はしなかった。


弾切れだった。


明遠も引き金を引いた。


こちらも弾が出なかった。


一瞬の静寂が訪れた。


二人は銃を捨て、腰の武器へ手を伸ばした。


慎太郎は銃剣を抜いた。


明遠は工房の主人から渡された拳銃を取り出した。


だが、拳銃にも弾は残っていなかった。


明遠は拳銃を投げ捨て、倒れていた兵士の剣を拾った。


二人は炎に照らされた通りで向かい合った。


慎太郎は明遠の顔を見た。


疲れ切った若者だった。


頬には煤がつき、額から血が流れている。自分とほとんど変わらない年齢に見えた。


明遠も慎太郎の顔を見た。


そこに怪物の姿はなかった。


やせた頬と、怯えを隠そうとしている黒い瞳。


どこかで見た顔のような気がした。


清江の森。


捕虜の少年へ水を与えていた日東兵。


遠くから一度見ただけだった。確信はない。


それでも、明遠の手が一瞬止まった。


慎太郎の背後で建物が崩れた。


炎と火の粉が空へ舞い上がる。


西の方角から、慈雲寺の鐘が鳴った。


一度。


二度。


そして途中で、不自然に音が途切れた。


明遠が慈雲寺の方を見た。


その隙に、慎太郎は踏み込もうとした。


だが、慎太郎も動きを止めた。


目の前の華嶺兵が、戦うことよりも鐘の音を気にしている。そのことが理解できなかった。


明遠の唇が動いた。


「母さん」


続いて、もう一つの名を呼んだ。


「明浩」


慎太郎には言葉の意味が分からない。


それでも、誰かの名前を呼んでいることだけは分かった。


慎太郎も、心の中で母と小春の名を呼んだ。


二人は再び武器を構えた。


互いの家族を守るために。


互いの家族が待つ場所へ帰るために。


目の前にいる、帰ろうとする青年を殺そうとしていた。


二人の間を、焼け焦げた新聞が舞った。


そこには大きな文字で、こう印刷されていた。


――祖国を守れ。


慎太郎には読めなかった。


明遠には、もうその言葉が何を意味するのか分からなかった。


遠くで日東軍の勝利を告げるラッパが鳴り始めた。


慈雲寺の三重塔は炎に包まれ、白い避難旗が黒く焼け落ちていった。


青海の街は燃えていた。


そして炎の中で、二人の最後の戦いが始まろうとしていた。

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