表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
やさしい子  作者: こめい
16/26

海の向こうにあった町

慎太郎は、青海の街を沖合の輸送船から見ていた。


海沿いに石造りの倉庫が並び、その背後には無数の屋根が広がっている。丘の上には砲台があり、街の西側には寺の大きな屋根と三重塔が見えた。


これまで通過してきた村とは違う。


大きな街だった。


煙突から煙が上がり、港には船が行き交い、通りには小さな人影が動いている。そこに何万人もの人間が暮らしているのだと分かった。


「華嶺海軍は港を捨てて逃げたらしい」


甲板で兵士の一人が言った。


「それなら、すぐに落ちるな」


「大砲が残っている。陸軍も市内に立てこもっているそうだ」


慎太郎は黙って聞いていた。


源次が死んでから、必要のない会話をしなくなっていた。


食事をするときも、休むときも、他の兵士から少し離れて座った。


夜に夢を見ることも減った。


最初に殺した青年の顔も、乾パンへ手を伸ばした子供の顔も、少しずつ思い出せなくなっていた。


忘れたかったはずなのに、本当に忘れ始めると、それが恐ろしくなった。


「新田」


小隊長が呼んだ。


「はい」


「上陸後、お前の班は東門から市街地へ入る。目標は中央広場近くの守備軍司令部だ」


地図が広げられた。


青海の街が無数の線と四角で描かれている。


小隊長は一本の赤い線を指でなぞった。


「ここを進む。港湾地区を抜け、印刷所のある通りを西へ向かう」


「住民は残っているのですか」


「避難は通告してある」


「逃げられなかった者もいるのでは」


小隊長は慎太郎を見た。


「武器を持っている者は敵だ。持っていない者には構うな。ただし、服の下に武器を隠している場合もある。判断を誤るな」


慎太郎は地図の西側に描かれた寺の印に気づいた。


「これは?」


「慈雲寺という大寺院だ。避難民が集まっている」


小隊長は鉛筆で寺を囲んだ。


「軍事目標ではない。屋根に白い布を掲げている。艦隊にも砲兵隊にも、攻撃を避けるよう連絡されている。寺の中へは入るな」


慎太郎はうなずいた。


慈雲寺の三重塔は、船からでもよく見えた。


本堂の大屋根と塔には大きな白い布が掲げられ、冷たい海風の中ではためいている。


守られる場所が一つはある。


なぜか慎太郎は、少しだけ安心した。


その直後、港の砲台が火を噴いた。


輸送船の近くに水柱が立った。


日東国の軍艦が応戦する。


海面が震え、青海の街へ向けて巨大な砲弾が飛んでいった。


戦いが始まった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ