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やさしい子  作者: こめい
13/26

山間の村を出て二日目、日東軍の縦隊が銃撃を受けた。


雪に覆われた細い道だった。


最初の一発で、先頭を歩いていた兵士が倒れた。続けて左右の林から銃弾が飛んできた。


「伏せろ!」


慎太郎と源次は道端の溝へ飛び込んだ。


敵の姿は見えない。


木々の間に煙が上がり、撃った直後には消える。


日東兵たちは林へ向かって一斉に撃ち返した。


「右から回り込め!」


命令を受け、慎太郎と源次は数人の兵士とともに斜面を登った。


雪に足を取られ、息が切れた。


林の奥で人影が動いた。


軍服ではない。毛皮を着た猟師のような男だった。男は銃を抱え、村の方向へ逃げていった。


「追え!」


慎太郎たちは後を追った。


男は村の外れにある納屋へ逃げ込んだ。


兵士たちが周囲を囲む。


「出てこい!」


言葉が通じるはずもなかった。


中から銃声がした。


慎太郎の隣にいた源次が倒れた。


「源次?」


慎太郎はその場に膝をついた。


源次の首から血が流れていた。


両手で押さえようとしたが、血は指の間からあふれた。


源次の口が動いた。


「帰りたい」


かすかな声だった。


「帰れる。すぐに衛生兵が来る」


「嘘をつくな」


源次は笑おうとした。


しかし、その表情のまま身体から力が抜けた。


「源次」


返事はなかった。


幼いころから一緒だった。


川で魚を捕り、祭りの夜には酒を盗み、同じ日に召集令状を受け取った。


一人ではないから大丈夫だと言った。


稲刈りが終わるころには、一緒に帰るつもりだった。


慎太郎は立ち上がった。


納屋の中には、源次を撃った男がいる。


その男にも家族がいるかもしれない。


村を守ろうとしただけかもしれない。


そんな考えは、もう浮かばなかった。


「火をつけろ」


小隊長が命じた。


兵士が納屋の壁へ油をまいた。


慎太郎は松明を受け取った。


炎が風に揺れている。


「やれ、新田」


慎太郎は松明を投げた。


乾いた藁へ火が移り、瞬く間に壁を這い上がった。


中から男の叫び声が聞こえた。


戸が開き、炎に包まれた人影が飛び出してきた。


慎太郎は銃を構えた。


今度は相手の顔を見なかった。


引き金を引いた。


男は雪の上へ倒れた。


燃え移った炎が納屋から隣の家へ広がった。強い風にあおられ、火の粉が村の中心へ飛んでいく。


「家の中に人がいる!」


誰かが叫んだ。


女と子供が、燃え始めた家から逃げ出してきた。


慎太郎は助けに向かおうとした。


だが、小隊長が命じた。


「撤収する! 敵の増援が来る前に離れろ!」


慎太郎は燃える村を見た。


子供を抱いた女が、火の中にいる誰かの名を叫んでいる。


慎太郎は一歩だけ村へ向かった。


その足が止まった。


源次の遺体が目に入った。


慎太郎は村に背を向けた。


仲間とともに山道を歩き始める。


背後から泣き声と、家が崩れる音が聞こえた。


火の明かりが雪を赤く染めていた。

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